第123話 絶交
昼食は余ったおにぎりを使ったありあわせ。
移動中に食べる予定だったけど、午前中のうちについてしまった。
「そうだ。セリン師匠。これを見てもらいたいのですが……」
大輝が取り出したのは魂石で作られた剣。
色もさらに黒くなっていた。青剣とは遠く離れている。
「この剣はなんだ?」
「魂石で作った剣ですよ。どうも、俺の属性を受け継いだみたいで……。元に戻せますかね?」
「無理だ」
即答だった。魂石は自分の状況に左右されやすい。
それも、意思が強ければ強いほど反映されるようだ。
「そうですか……」
「っていうかよ。なんでまだ敬語なんだ?」
「やっぱり師匠だからですよ」
「理由になってないな……」
大輝は少し運動をしてくると、家を出る。
今朝腕立て伏せを無限に近いくらいやったのに、なぜこうも運動バカなのか。
加えて、大輝は食事を一切していない。さすがに倒れることはないだろうけど……。
私たちはそんな彼を気にするのをやめて、食事に集中する。
「本当に、大輝さんって変わってますね……」
「だね……」
つい最近知ったことなのに、当たり前になり始めている。
我慢のダムが決壊して、そこから溢れだしたもの。
濁流に飲まれているのか、彼は自分の行動を正しく理解できていない。
彼は本当に血だけで生きられるのか。母体は普通の人間。
いくら、自分が求めるものを手に入れたとしても、何も解決しない。
「それにしても……。まだお腹が減ってます……」
「って、エレンが言ってるけど、メウスまだ残りある?」
「ううん……」
こんな時に食糧切れ、エレンは未だ空腹状態。
さすがに、メウスのお金はもう使えない。
「どうしようか……」
「これでは僕死にますからね!」
「な。大げさなこと言うな……。母上は働いてくれているが、こっちも金欠なんだよ」
「金欠?」
セリンは獣人の国の情勢について説明してくれる。
それは、国の王がお金を横領しているとのことだった。
働き手のお金を自分のものにするなんて、間違っている。
「それは困りますね……」
「そうなんだよ……。だから、俺もゼレスリシアで出稼ぎに行ってるんだ……」
「師匠の武器はものすごく売れますもんね」
突然聞こえてくる大輝の声。知らぬ間に帰ってきていたらしい。
一体彼はどこをどう移動してきたのか。気になるけど、またどこかへ行ってしまった。
いいところだけ盗んで消える。話題の横領かもしれない。
「大輝さんが話題を持って行ってしまいましたね」
「私の兄は何考えているかさっぱりだからね」
「そうですね……。それにしても、もっと食べたい……です……」
エレンは未だ食べた量に不満があるのか、一人台所へ行って食糧庫を漁る。
気になったので私も向かうと、食糧庫の中身は何も入っていなかった。
明日の食事をどうするか。お金はあるけど、彼が満足するほどは……。
「俺にいい考えがある。ちょっと待ってくれ」
「ありがとうございます。セリンさん」
「これも、仲間だからな。当然のことだ」
セリンは外へ出る。しばらくして戻ってくると、大量のパンを持ってきた。
「これだけあればいいだろ?」
「ぜ、全部……パンですね……」
「まあな。俺の得意先がパン屋をやっていてよ。そこで余ったやつを全部貰って来た」
セリンは、パンをテーブルに並べる。『好きなものを食え』と言うが、エレンは手を付けない。
彼はこの状況を予想していなかったようで、動揺を隠せずにいた。
「お肉が食べたいです……」
「肉か……。残念ながら獣人の国はビーガン文化でさ。肉も売ってないんだよ」
「それでも肉が食べたいです! お肉がない食卓なんて、楽しくありません!」
エレンは顔を真っ赤にさせて叫ぶ。
彼は本当に肉が好き。私の家にいた時は、ステーキを沢山食べていた。
だからか、肉を食さないビーガン文化とは縁遠い。
エレンの大声が響いたのか、外に人が集まってきた。
こそこそと噂話が広まり始め、現状危うくなっていく。
「獣人の食事って、基本的には……」
「野菜と穀物」
「ということは魚も食べないんですか?」
セリンはそれにも頷く。つまり、エレンが好きなものはほぼ全滅。
私としては、食べられるだけで十分。だけど、彼は本当に満足できないらしい。
「だから、我慢して食べたら?」
「肉ー、肉にくニクー! お肉が食べたいですー!」
「エレンが……壊れちゃった……」
ビーガン文化界隈に、肉食獣ありとはこういうことなのだろうか。
エレンは私を睨みつけてくる。なんでこうなった。
その後も彼は、『肉が食べたい』と必死に訴えた。
育ちざかりなのはわかるけど、そこまでされたら困る。
「エレン。我慢も大事だよ」
「そう言うミカエラさんは、肉や魚が食べられなくて困ったりしないんですか! 肉には種類にもよるけど、大事な栄養素が沢山入っているんですよ! 女性に嬉しい鉄分とかも摂取できるんですよ!」
「それは……」
「もういいです! 絶交します! さようなら!」
エレンはそう言って、外へ出ていった。
かなりヤバイ状況。完全に意見の食い違いが起きてしまった。
人は誰しも同じ思考を持っているわけじゃない。
わかりきっていたことなのに、あっさりと縁を切られてしまう。
私は彼を追いかけようとした。しかし、人ごみが肥大化していて、通る道すらない。
「ミカエラさん。きっとどうにかなりますよ」
「……だけど」
「エレンのことが心配なのはわかります。だけど、追っているだけでは損をしますよ。時には遠くから、優しく見守るのも大事です」
「はい……」
シリルに慰めてもらいながら、テーブルの小さいパンを手に取る。
香ばしく焼きあがっているのがよくわかる。焦げ目もちょうどいい。
一口、私は食べた。口に違和感が広がっていく。
「何か、入ってる……」
「何が入っているんだ?」
「なんか、肉汁に似た、何か……」
甘い、甘くて、少し辛くて……。余韻が残る味。
「よく見ると、このパン沢山あるねー」
「ええ、聖女様が食べているのと同じものが、数十個はありますな」
「もしかして……」
そういうことか。このパンは、肉が入っているから売れ残った。
獣人は同族に近いものを嫌う。匂いでわかる。
つまりは、このパンをエレンに渡せば。
そうして私は、彼が戻ってくるのを待つことにした。
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