第122話 筋トレバカと獣人の国
翌日。私は一番最後に起きた。
テントから少し離れた場所では大輝が腕立て伏せをしている。
それも背中にエレンを乗せた状態で。
筋トレ好きはやめられないというけれど、さすがに追い込みすぎな気がする。
「大輝、エレンおはよー」
「おはようございます。ミカエラさんも手伝ってもらえませんか?」
「はい?」
エレンが言うには、彼一人の体重では足りないと大輝が言っているらしい。
なので、仕方なく私も大輝の背中に乗った。
本当に追い込みバカだ。全然変わっていない。
そういえば、日本にいた時弟三人を全員乗せて腕立て伏せとスクワットを……。
「いいぞいいぞー」
二人分の体重でも持ち上がる身体。
どんな鍛え方をすればできるのか、ものすごく気になる。
「エレン。大輝はどれくらいから?」
「えーと、僕が起きた時には始めてましたね。その時はライガンさんとシリルさんを乗せてました」
そんな重量級を乗せていたのか……。彼の体力が異常値を振り切っている。
「あの二人でも重さが足りなかったけどな……」
「なら、メウスに頼んで全員乗せられる椅子を作ってもらうのは?」
「実は、もう提案している。そろそろ……だよな……?」
一度も止めることなく腕立て伏せを続ける大輝。
すると、メウスが大きな板を持ってきた。
「おはよ。ミカエラ。遅かったね」
「そういうメウスこそ、早起きだよね……」
「あはは。大輝。これ作ってきたけど、どうかな? 全員の体重が自動で一点集中するバランサー付き!」
「ありがとう。ミカエラ。エレン。一旦降りてくれ」
私とエレンは大輝の背中から降りる。そして、板を背中に着けた。
まるで、おもちゃの冒険のキャラみたいな容姿だけど、まあいいか。
そのまま、腕立て伏せの態勢をとったので、板に座る。
材質はどこから用意したのか、鉄製だった。本音を言うとお尻が冷たい。
「ぼくはみんなを呼んでくるね」
「頼む」
数分後。シリルとライガン。メサイアがやってきた。
ついでに私は零とティアも呼ぶ。総勢八人。さすがにこの人数の体重には耐えられないだろう。
「大輝、本当に大丈夫なの?」
「わからない。だけど、やってみなくちゃなんたらだろ? 全員乗っかれ」
本人がそう言うのなら……。一人ずつ板に座る。バランサーが機能し始め、平行状態になった。
「よし。いくぞー」
大輝一人タイ総重量二百五十キロ級の八人。
「かなり重いな……」
「大丈夫そう?」
「ま、なんとかなるだろ」
すると、予想を裏切るくらいすんなりと持ち上がった。
背もたれがあってよかった。そのまま十回上下する。
「これ相当来るな……」
「無理しないでね」
「いや、無理はしていない」
私は大輝の両腕を見る。本人は大丈夫と言っているけど、めちゃくちゃプルプルしていた。
だけど、そのまま二十回を十セット。合計二百回。正直ありえないことだった。
「よし。今日の分は終わりっと……。みんなサンキュ!」
大輝の合図で一人ずつ降りる。それから、朝食を食べて移動を開始。
本当に連続で持ち上げるとは思わなかった。
本人も大満足のようで……。
「人生で一番スッキリした……」
「よかったね」
さっきから同じ会話が続いている。
しばらくすると、城壁が見えてきた。メサイアが言うには獣人の国らしい。
彼女には城壁の前まで来てもらい、城門前で別れた。
国へ入った時の第一印象は、綺麗だった。
道にはクリスタルが散りばめられている。
それが、遠くまで続いていて、目がちかちかしてしまう。
「最高だな……。この身体では初めてだが……。何度見ても満たされる」
「じゃあ、前世では来た事あるの?」
「まあ、百回は行ってるな……」
ならば、案内役は大輝に決定。彼を先頭にして街を回る。
時折彼は立ち止まり、軽く鼻を動かしていた。
多分だけど……また血が欲しいのだろうか……。
「大輝。獣人の血ってどんな感じなの?」
「あんま考えたくない質問だな……。あーと。あんま好きじゃない。獣臭すごくて苦手なんだ」
「獣だもんね……」
「あと塩くさい」
そんなに酷評するなら、聞かない方がよかったかもしれない。
しばらくすると、鍛冶屋街に入っていった。
「ん? あれは……」
大輝が指さして一軒の鍛冶屋を見つめる。そこへ向かうと、なぜかセリンがいた。
たしか獣人の国はセリンの故郷。いつの間にここにきていたなんて……。
「師匠! お疲れさまです!」
「ちょっと大輝!」
走ってセリンのところへ向かう背中を追いかけ、大輝に近づく。
大輝はものすごくギアを外した状態になっていて、饒舌真っ只中。
これにはセリンも驚いたようで、困惑という感情が表面化していた。
「あのな……。血の臭いがする口で話しかけんな。ってか、マジで血を摂取するんだな。大輝」
「獣人の中で一番美味でしたから、師匠は!」
「はぁ……喜んでいいのか悪いのか……」
大輝の血液談は、どんどん加速していく。
しばらくして、お得意魔法を発動。セリンの血を味わい始めた。
やっぱり、大輝は異世界の人だ。そこは変化なし。
「勝手に採取すんなよ。バカ弟子が!」
「そんなことないですよー。やっぱり、セリン師匠の血は普通に美味しいですねー」
「ほんとにバカ弟子だな……」
大輝……そこはそういうところじゃない……。セリンが困ってます。完璧すぎるくらいに……。
お昼の時間も近いということで、セリンの実家へ行くことになった。
少し大きめの集合住宅のような外観。
中に入るとものすごく広く。それでも、なんとか全員入れる場所だった。
「ぼくが料理してくるから待ってね。セリン、台所借りるよ!」
「メウス。母上が困らないように綺麗にな」
「わかってるって」
メウスは台所に移動し、鼻歌を歌いながら作業を開始。
その間大輝は、私の血を飲むという状況。
やっぱり、普通の食事よりも血らしい。
本当に、基地外な兄だった。
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