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サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる  作者: 八ッ坂千鶴
第3章 獣人の国にて

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第121話 懐かしの味の作り方

 魔界の一角で私たちは焚火を囲う。


 今日の夕食は、即席で作ったカレーだった。


 まるでキャンプでもしているかのよう。


「ぼくは辛いの苦手だから、少し甘めだけど……大丈夫かな?」


「そんなこともあろうかと……。こんなの持ってきました!」


 エレンが空間から小さい瓶を取り出す。


 そこには、小さくルムミア語で文字が書かれていた。


「えーと、タバスコ?」


「そうです! 絶対美味しいはずですよ!」


「ぼくはパス……。というよりも、なんでエレンがタバスコを持ってるの?」


 それはその通りだった。大きな皿にはカレーライス。


 エレンはカレーにタバスコをジャバジャバかけた。


 いくら口が細いとはいえ、かけすぎな気もするが……。


 スプーンでかき混ぜて食べ始める彼をただ見た。


「いただきます!」


 匂いからして辛そうだけど、本人の意思でやったこと。どうなっても自己責任。


 だけど、彼は余裕の表情で平らげる。辛さ耐性が強すぎるんですけど……。


 大輝はというと、相変わらず血を飲んでいた。


 その横で、メウスが口をぐちゃぐちゃにしている。


 食べ方をもっと考えてほしい。


「大輝様は、本当にそれだけでよろしいのでしょうか?」


「まあな……。というか、まだラディルの領地だろ? 出るまではこのままでいい」


「そうですね……」


 メサイアは大輝の方をものすごく心配しているようだった。


 昨日今日のことだけど、本当に普通の食事をしていない。


 少し思い出してみたことだけど、彼は一ヵ月の間トマトジュースと鶏ささみ生活をしていた。


 だから、こんな偏った生活でも問題ないのだと思う。


「本当に大丈夫なの?」


 私も、念を押して問い掛ける。一応大輝の分のカレーは盛り付けてあるんだけど……。


 今現在、そのカレーをエレンが狙っている状況。


 おかわりはと言うと、炊飯用のカレーが消えているためメサイアが追加分を準備中。


 エレンの食欲は平常運転なので、単純計算の量では足りない。


「大輝……」


 彼がどうしてこんなことになったのか。


 この世界に来るのは私だけでよかった。


 そうすれば、彼は幸せに過ごせたかもしれない。


 だけどそれは、ずっと本能を隠して過ごすことにもつながる。


 どちらにしても、彼は苦労をしてしまう。


「問題ないさ。俺は平気だ」


「そういう問題じゃないよ! たしかに大輝自身は大丈夫かもしれない。だけど、本当に自分の身体と交渉したことはあるの? ただただ、脳が、思考が求めるがままに行動しているだけだよね! 実際栄養が偏って、身体を労わるのも忘れて。それで体調崩しかけたこともあるでしょ!」


 一瞬言い過ぎたと自覚して、両手で口をふさぐ。


 今の場所で言う声量ではなかった。メウスとメサイアも、そしてシリルまで私の顔を見る。


「ごめんなさい……」


「そう……だよな……。ミカエラが言う通り、俺は偏食者だ。計画的に考えたこともない。けど、どうすればいいかわからないんだ……」


「え?」


 大輝は血の入ったボトルのキャップを閉めて、地面に置く。


 そして、カレー皿を持った。一日ぶりの食事。彼には自分の存在が曖昧になりかけている今がある。


 一口だけ運ぶ。その様子がどうも見ていられない。


 もし合わなかったら。ずっとひとつの味。それが複数の味。


「なんだろうな……」


 大輝が一言残して、カレー皿を置く。


「物足りない」


「え?」


「なんか、違うんだ……。ほら、よくミカエラがカレーを作ってくれただろ?」


 大輝は少しだけ不満があるようだった。


 何かが足りない。そう言われ、私も食べる。


 たしかに、少しの辛さはある。甘さは強めだけど、コクが足りない。


 そういえば、前世ではカレー高ポリフェノール、高カカオのチョコを入れていた。


 しかし、この世界にチョコなんて存在しない。


「ちょっと待って、私にいい考えがある」


 私はカレー準備中のメサイアがいる場所へ移動した。


「メサイアさん。ちょっといいですか?」


「何用で……」


「カレーにこれを入れるんです!」


 私が取り出したのはメリグの木の実。家でもよく食べていたものだった。


 味はチョコとは異なるけど、かなり強烈な苦味を持っている。


 これを、メウスの実家であるリーファ家でもらった牛乳と混ぜる。


 メリグの実は火に弱く、熱するだけでドロドロになるのですり鉢要らずがいいところ。


 完成したものをカレーに加え、よく混ぜる。


「メサイアさん。これ食べてみてください」


「了解しました」


 私の言葉にメサイアは動く。スプーンで人掬いして食べた。


「!?」


「どう、でしょうか……」


「こ、こんなカレー……初めて食べました……。何を入れたのですか?」


 私は自分が入れたものを伝えた。ご飯を盛り付けてカレーをかける。


 それを持って、大輝の方に移動した。ここは、味にうるさい彼の出番だ。


「大輝。それ私が食べるから、こっち食べてみて」


「半分食べちまったけどいいのか?」


「大丈夫。多分こっちの方が口に合うかもしれないし」


 私が持ってきた皿と交換する大輝。私は隣に座って、自分の分とあと数口しか残ってないカレーを食べる。


 大輝は新しいカレーの香りを嗅いでいた。


「これ、どうやったんだ?」


「内緒」


 私は自分のスプーンで大輝のカレーを一口分取る。


「口開けて」


「い、いや……」


「いいから早く!」


 口が開いたタイミングで、カレーを入れる。


「ちょっと! ミカエラさん!? 何しているんですか!」


「そーだそーだ!」


 メウスとエレンが野次馬化した。これも計算内。


「どう?」


「……おいしい」


 そのまま私のスプーンを奪い取って、大輝はがっつき始めた。


 せっかくなので、大輝のスプーンを借りるとしよう。


 血縁関係は切れたけど、兄妹だから許せること。


「おいしい。これだ。あの味」


「よかった。チョコがなかったから、即案だけどね」


「この味、俺では作れなかったんだ。きっと弟たちもびっくりするだろうな」


「だね」


 そのまま大輝は、血を水分代わりにしてカレーを沢山食べてくれた。


 明日朝。再び獣人の国へ向かう。食事用にメウスのお金を使って大量のおにぎりを作っておこう。


 先にエレンと大輝を寝かせて、残ったメンバーで作戦会議。


 メウスにはなぜか持ってきていたらしい、今更すぎる炊飯器の動力源になってもらった。


 それだけで、魔力が持っていかれるようなので、シリルも協力。


 魔力値最強二人組なら問題ないだろう。

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