第120話 その体調不良フラグですか?
戦争が終わったあとのお昼。結局食事の時間に大輝が現れることはなかった。
本当に、受け取った血だけで満たしているらしい。
彼がそれを望んでいるのなら、問題ない。
ただ、体調面を気にしてしまう。
「大輝さん。遅いですね……」
これから私たちは獣人の国へ向かう。
そのための準備を終えた組は外に集まっていた。
外は快晴。とはいえ、赤い空が広がっている。
しばらく家には帰れない。それに少し寂しさを覚える。
私たちの集合から数分遅れて、大輝が出てきたんだけど……。
「だ、大丈夫?」
「あ、ああ……。ちょっとな……。頭が痛い……」
顔色はものすごく悪く、足もふらついている。
私が心配した矢先に、不調者が出たのはフラグとして回収された?
まあ、原因はわかっているので、問題ないと思うけど……。
「ミカエラが壊毒投げたからついな……」
「ほんと、あれ好きなんだね……」
「そういうわけじゃないけどな……。一種の依存症的なやつだ」
大輝は空間からペットボトルの容器を取り出した。
中には赤い液体。彼はこの敷地内にいる間、血だけで生活しようとしているようだ。
まあ、それはその人の自由だからいいんだけど……。
大輝はボトルのキャップを開けて飲み干す。
あくまでも彼は日本人だ。日本食を愛しているはずの地球人だ。
なのに、血を飲む姿に違和感がない。
「じゃ、出発するか……」
「最後に出てきた人が言わないで!」
「す、すまん……」
シリルの肩を借りて大輝は歩き出す。
本当は零を使えば楽に運べるんだけど、彼は疲労状態で銃の姿。
とはいえ、そもそも論大輝と零は相性が悪い。
どれくらいかと言えば、塩素系の液体とアルカリ性の液体を混ぜて毒素が発生するくらいだと思う。
マジで混ぜるな危険なので、干渉させたくないのが正直なところ。
「シリル先生。僕も手伝います」
「ありがとう。助かります」
人が増えて、少し移動スピードが上がる。
その後ろを、私、メウス、ライガンが歩く。
私たちが戦場に出ていた時、ライガンは獣人の国について調べていたようで。
情報量には期待できるから、彼を頼れば問題ないと考えている。
「それで、ライガン。獣人の国はどんなところ?」
「はい。獣人の国はゼレスリシアとは違い一国制とのことでございます。領地とかは存在しないようです」
「ありがとう」
「聖女様のお役に立てたなら光栄です」
ライガンは少し嬉しそうな顔をした。
戦闘ではあまり目立たない。だけどこういうところで役に立つ。
いわゆる裏方という立ち位置。
しばらくすると、一人の女性が姿を現した。
すらりとした身体。髪は薄紫色で編み込みをしていた。
そういえば、彼女はラディルの近くにもいた気がする。
名前は確か……。
「メサイアさん?」
「よくわかりましたね……。まあ、いいでしょう」
メサイアは、軽く説明を挟みながら歩き出す。
どうやら、私たちを獣人の国まで案内してくれるらしい。
それはとても嬉しいんだけど、かなり大所帯なので、窮屈さを感じる。
「メサイアさんは、いつもこうしているんですか?」
「はい。わたしはラディル様に仕えながら、魔界の案内人をしています」
「では、道はものすごく詳しいんですね」
「はい」
返事は良いんだけど、顔の動きは非常に少ない。
感情というものを感じない。表情筋がこわばっているのだろうか。
それを見かねたのか、メウスが変顔を始める。
「あれれ? なんで笑わないの?」
「全く、子供遊びですか……。わたしにそんなことをしても無駄ですよ。む・だ」
「そんなこと言わないでよー」
「なんども言わせないでください。むだです」
メウスの表情禁ほころばせ作戦は失敗。
それよりも私は、大輝のことが心配だった。
エレンが時々顔を見ている。それだけで、心が締め付けられる。
兄の身体が万全ではないのに、なんで手伝えないのか。
今の私は前世よりも身長が低い。それもそのはずだ。
私は七歳の時から夜も寝ずに勉強をしていた。
もっと言えば、二歳からずっと紙とにらめっこ。
この世界の言葉を理解するのに必死だった。
「ミカエラさん。大輝さんが……」
エレンが震える声を出す。私は少しスピードを上げて、先頭の三人を追い越した。
進行方向に背を向け、大輝の様子を見る。
そういえば、移動するとき私の血を飲ませ忘れた。
実際、今の私の血液量は安全圏内ではない。もし与えたとしたら貧血待ったなし。
「どうすれば……」
「大輝さん……」
大輝は足を引きずる状態になっている。完全に力が入っていない。
これは一旦横にさせた方がいいかもしれない。
メウスにテントを張るよう伝える。
普通のテントは、狭い。ふたつ繋げることになって、大輝を寝かせる。
まずは脈の確認。かなり乱れている。というか血流が滞っている?
左胸に手を当てる。心臓の音がしない。
喉元にも手を当てる。心臓は動いていないので血流の動きはない。
だけど、呼吸はしていた。一応は生きているようだ。
「ミカエラさん。大丈夫そうですか?」
「まあ、なんとか。って感じ」
「そうですか……」
大輝が回復するまで、ここで待機することになった。
空は暗くなってきている。時間的にもちょうどいい。
メウスにはシリルとライガンにも協力してもらい、テントの設置をお願いした。
全部で六つのテント。もちろん私はメウスとエレンの二人と寝る。
「久しぶりだね」
「そうですね」
「そうだね」
今現在、シリルとメサイアが夕食の準備をしてくれている。
もう少しで完成するそうなので、大輝の様子を見に行くが、彼の姿は消えていた。
身体の具合が悪いのに、どうやって移動したのか。と思うとひょっこり現れる。
「戻った……」
「大輝! なんでどっか行くの!」
「いやあ。少しな……」
そこから先は何も言わなかった。
大輝はきっと変なことでも考えていたのだろう。
私は彼の顔を見る。大輝は少し腰を引いた。
「お、怒ってる?」
「怒ってます!」
「なにに?」
「ちゃんと栄養を摂らないから」
せめて今日は普通の食事をしてほしい。
そうして、メウスに呼ばれた私たちは、全員が集まる焚火の前へ移動した。
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