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【第2部開始!】サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる  作者: 八ッ坂千鶴
第2章 死刑囚と本当の形

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第119話 理解者のあるべき形

 ◇◇◇ミカエラ目線◇◇◇


 荒野広がる戦場で、私は大輝と併走していた。


 彼もわかっている。この先に火蓋を切った元凶がいることを……。


 それでも私はただ走っているわけではなかった。


 私の前には、零がいる。実際私よりも彼の方が速い。


「零、目的地までは!」


「まだだ。しかしあの野郎。早すぎる……」


「普通の人間では出せない速度だもんね……」


 大輝の姿は零の速度でもとらえきれない。


 推測で高速道路を走る車程のスピードで、通常であれば皮膚がはがれていてもおかしくない。


 そんなのもお構いなしに、ただ一直線を移動している大輝は本当に化け物だ。


「大輝。本当に……」


 彼は言っていた。今持っている剣は、血を吸う剣だと。


 それはつまり剣が血を求めている。そこから、大輝も血に飢え斬撃を繰り出す。


 魔眼を利用し大輝の手元を見ると細長い管が沢山繋がれていた。


 管は赤くなっている。つまりは……。


「血を身体に運んでいる……」


 そうとしか考えられない。まるで、主食が変ってしまったかのように。


 大輝はその後も剣を振るい続けていた。


 それをただ見守る。そして、大将を仕留めるための準備をする。


 いくら魔法弾を使えるスナイパーライフルでも、距離制限は存在するから。


 銃の情報は零がよく知っている。だから、彼の知識を最大限活かす。


「あと少しだ」


 零が合図を出す。彼の手には、私が借りることになっているライフル。


 それを受け取るとそのまま死角に隠れた。


 私の血のデータ。もしそれが毎分更新されるのならば。


 大輝は勝手に仕留めたりはしない。きっと私が望む形にしてくれる。


 だって私の兄だから。いくら彼が血を求めているとしても、兄妹愛は変らない。


 魔眼の力をさらに強める。情報量が多くなっていき、頭に激痛が走った。


 だけど、こうしている暇なんてどこにもない。


「大輝。場所を教えて……!」


 しばらくすると、彼の動きが止まった。


 目線の高さを合わせる。まだこの魔眼は使いこなせていない。


 メウスに知られたら怒られるだろうな。


 けれども、彼も彼で忙しいはず。


 軽く見た限り、怪我人のほとんどは回収済み。


 メウスがしっかりしてくれているからこそ、被害を最小限にできる。


「ミカエラ。場所は分かったか?」


「ううん。大輝が探してくれているみたいだけど、動きがないの」


「ふん……」


 そして、大輝の動きが少しおかしい。


 さっきまで高速で動いていた。だけど、今は立ち止まったまま。


 この展開は予想していなかった。もしや二本目の壊毒の効果が切れた?


 それだったら、納得がいく。


「大輝!」


 遠すぎる。声は届くわけない。彼の身体が心配だ。


 ザクザク。足音が聞こえてくる。


 大輝の目の前に現れる獣人。きっと、その人が大将なのだろう。


 スナイパーライフルを構える。数秒ほど観察する。


 獣人は男性。身体は大輝よりも大きい。


 大体彼が百八十センチほどの背があるので、ざっと百九十。いや二百センチはある。


 獣人の手には大きな刃がついた槍。大輝の手が邪魔をする。


 瞬間。盛大に血飛沫が噴き出した。


『ミカエラ。見ているんだろ?』


 大輝の声が響く。


『刺された。いや、自ら』


 こんな時に限って囮役をするなんて……。


 先ほどの血飛沫は大輝のものだったようだ。


『俺はこんなんじゃ死なないさ。まだ壊毒の効果は続いてる』


 大輝の淡々とした声。それは、さらに続く。


『このまま俺はやつと距離を詰める。合図をしたら俺ごとやれ』


 それは、大輝を殺せということなのだろうか。


 必要性を感じない。視界が開ける。大輝の左胸には深々と突き刺さる槍。


 無名の大将。このまま大輝が死んだらこちらの負け。


 戦績では勝っているが、大輝がいなくなれば……。


「零」


「なんだ?」


「私には……できない……」


「ふん……。兄のこと信用してねぇんだな」


「え?」


 零は、そういいながら何かを取り出す。


 普段彼は何も口にしない。だけど、それは甘く、強い香りが漂う。


「それは?」


「関係ない。さっさと決めろ」


「だけど……」


 魔眼と通して呼吸が聞こえてくる。


 大輝の顔が見える位置に移動させた。


 顔色は問題ない。だけど、少し瞳孔が揺らいでいた。


 自我を維持できていない。これはきっと、壊毒の副作用。


 まだこの薬の効果を理解しきれていない。


 危険なのはわかっているけど……。


「早く決めろ」


「……」


「さもなければオレがやる」


 せっかくのチャンス。それなのに、仲間を巻き沿いにすることが確定済み。


 大輝の思考は読めない。理解したくない。私の兄として……、兄として……。


「最悪……」


 私は銃を構え直す。全身の魔力をかき集める。


 大輝の背中を狙う。位置は彼の右胸。相手の左胸が当たる場所。


 零から言われた。兄を信用していないと。


 大輝は言った。この程度の出血量では死ぬことは無いと。


 二人の意見が重なる。怒りが込み上げてくる。


「どうなっても知らないからね! メラディリス(獄炎よ) バーン(放て)!」


 ライフルの銃口が、白く光る。巨大な球体が生まれ、超高温に熱せられる。


 放たれた魔法弾は、大輝のいる方向へと飛んで行った。


 魔眼が弾を捉える。そして、大輝の身体もろとも焼き尽くす。


 兄と弟を一人で見てきた怒り。筋トレ以外何もしなかった兄。


 そんな彼を攻撃した。この罪はきっと引き摺るかもしれない。


 接続を解除する。そして、自分を呪った。


「大輝……」


「問題ない」


「え?」


 零が私の不安を否定する。それは、まるで確信があるような声だった。


 私は彼に引っ張られながら、本拠地に移動する。


 かなり遠くへ来たらしい。なかなか建物が見えてこない。


「零。本当に大輝は大丈夫なの?」


「知らん」


「じゃあ、なんでさっき問題ないって……」


 私が空を移動するメウスを見つけた時、後方から気配を感じた。


 振り向くと、左胸から大量の血をまき散らす人。大輝だった。


「お兄ちゃん!」


「ほら言っただろ? 俺は死なないって」


「それにしてはすごい出血量だけどね」


「まあな。ただ俺の場合はもう、回復魔法じゃ治療できねぇや」


 大輝は不自然な言葉で魔法を唱え始める。


 ルムミア語でも、日本語でもない。彼の前世の言葉、バルダ語。


 意味はわからない。だけど、たったそれだけで出血が止まった。


「ま、これでいいか」


「あとで新しい服。用意しないとだね」


「だな。おい零。君もなんか言えよ」


「……」


 大輝が零に言葉を求める。だけど、零は興味がないようだった。


 まあ、これでいいんだと思う。それが一番だ。


「それで血のデータは?」


「お。かなり取れた。けど、基本が獣人だから、あんま興味わかなかったな」


「そう……」


 それでも、彼が楽しめたのならば。


 帰ったらお昼を食べて、今後のことを考えよう。


 そうして戻った時、ラディルからお願いごとをされる。


 それは獣人の国へ行き、本物の主犯格を処するというものだった。

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