第119話 理解者のあるべき形
◇◇◇ミカエラ目線◇◇◇
荒野広がる戦場で、私は大輝と併走していた。
彼もわかっている。この先に火蓋を切った元凶がいることを……。
それでも私はただ走っているわけではなかった。
私の前には、零がいる。実際私よりも彼の方が速い。
「零、目的地までは!」
「まだだ。しかしあの野郎。早すぎる……」
「普通の人間では出せない速度だもんね……」
大輝の姿は零の速度でもとらえきれない。
推測で高速道路を走る車程のスピードで、通常であれば皮膚がはがれていてもおかしくない。
そんなのもお構いなしに、ただ一直線を移動している大輝は本当に化け物だ。
「大輝。本当に……」
彼は言っていた。今持っている剣は、血を吸う剣だと。
それはつまり剣が血を求めている。そこから、大輝も血に飢え斬撃を繰り出す。
魔眼を利用し大輝の手元を見ると細長い管が沢山繋がれていた。
管は赤くなっている。つまりは……。
「血を身体に運んでいる……」
そうとしか考えられない。まるで、主食が変ってしまったかのように。
大輝はその後も剣を振るい続けていた。
それをただ見守る。そして、大将を仕留めるための準備をする。
いくら魔法弾を使えるスナイパーライフルでも、距離制限は存在するから。
銃の情報は零がよく知っている。だから、彼の知識を最大限活かす。
「あと少しだ」
零が合図を出す。彼の手には、私が借りることになっているライフル。
それを受け取るとそのまま死角に隠れた。
私の血のデータ。もしそれが毎分更新されるのならば。
大輝は勝手に仕留めたりはしない。きっと私が望む形にしてくれる。
だって私の兄だから。いくら彼が血を求めているとしても、兄妹愛は変らない。
魔眼の力をさらに強める。情報量が多くなっていき、頭に激痛が走った。
だけど、こうしている暇なんてどこにもない。
「大輝。場所を教えて……!」
しばらくすると、彼の動きが止まった。
目線の高さを合わせる。まだこの魔眼は使いこなせていない。
メウスに知られたら怒られるだろうな。
けれども、彼も彼で忙しいはず。
軽く見た限り、怪我人のほとんどは回収済み。
メウスがしっかりしてくれているからこそ、被害を最小限にできる。
「ミカエラ。場所は分かったか?」
「ううん。大輝が探してくれているみたいだけど、動きがないの」
「ふん……」
そして、大輝の動きが少しおかしい。
さっきまで高速で動いていた。だけど、今は立ち止まったまま。
この展開は予想していなかった。もしや二本目の壊毒の効果が切れた?
それだったら、納得がいく。
「大輝!」
遠すぎる。声は届くわけない。彼の身体が心配だ。
ザクザク。足音が聞こえてくる。
大輝の目の前に現れる獣人。きっと、その人が大将なのだろう。
スナイパーライフルを構える。数秒ほど観察する。
獣人は男性。身体は大輝よりも大きい。
大体彼が百八十センチほどの背があるので、ざっと百九十。いや二百センチはある。
獣人の手には大きな刃がついた槍。大輝の手が邪魔をする。
瞬間。盛大に血飛沫が噴き出した。
『ミカエラ。見ているんだろ?』
大輝の声が響く。
『刺された。いや、自ら』
こんな時に限って囮役をするなんて……。
先ほどの血飛沫は大輝のものだったようだ。
『俺はこんなんじゃ死なないさ。まだ壊毒の効果は続いてる』
大輝の淡々とした声。それは、さらに続く。
『このまま俺はやつと距離を詰める。合図をしたら俺ごとやれ』
それは、大輝を殺せということなのだろうか。
必要性を感じない。視界が開ける。大輝の左胸には深々と突き刺さる槍。
無名の大将。このまま大輝が死んだらこちらの負け。
戦績では勝っているが、大輝がいなくなれば……。
「零」
「なんだ?」
「私には……できない……」
「ふん……。兄のこと信用してねぇんだな」
「え?」
零は、そういいながら何かを取り出す。
普段彼は何も口にしない。だけど、それは甘く、強い香りが漂う。
「それは?」
「関係ない。さっさと決めろ」
「だけど……」
魔眼と通して呼吸が聞こえてくる。
大輝の顔が見える位置に移動させた。
顔色は問題ない。だけど、少し瞳孔が揺らいでいた。
自我を維持できていない。これはきっと、壊毒の副作用。
まだこの薬の効果を理解しきれていない。
危険なのはわかっているけど……。
「早く決めろ」
「……」
「さもなければオレがやる」
せっかくのチャンス。それなのに、仲間を巻き沿いにすることが確定済み。
大輝の思考は読めない。理解したくない。私の兄として……、兄として……。
「最悪……」
私は銃を構え直す。全身の魔力をかき集める。
大輝の背中を狙う。位置は彼の右胸。相手の左胸が当たる場所。
零から言われた。兄を信用していないと。
大輝は言った。この程度の出血量では死ぬことは無いと。
二人の意見が重なる。怒りが込み上げてくる。
「どうなっても知らないからね! メラディリス バーン!」
ライフルの銃口が、白く光る。巨大な球体が生まれ、超高温に熱せられる。
放たれた魔法弾は、大輝のいる方向へと飛んで行った。
魔眼が弾を捉える。そして、大輝の身体もろとも焼き尽くす。
兄と弟を一人で見てきた怒り。筋トレ以外何もしなかった兄。
そんな彼を攻撃した。この罪はきっと引き摺るかもしれない。
接続を解除する。そして、自分を呪った。
「大輝……」
「問題ない」
「え?」
零が私の不安を否定する。それは、まるで確信があるような声だった。
私は彼に引っ張られながら、本拠地に移動する。
かなり遠くへ来たらしい。なかなか建物が見えてこない。
「零。本当に大輝は大丈夫なの?」
「知らん」
「じゃあ、なんでさっき問題ないって……」
私が空を移動するメウスを見つけた時、後方から気配を感じた。
振り向くと、左胸から大量の血をまき散らす人。大輝だった。
「お兄ちゃん!」
「ほら言っただろ? 俺は死なないって」
「それにしてはすごい出血量だけどね」
「まあな。ただ俺の場合はもう、回復魔法じゃ治療できねぇや」
大輝は不自然な言葉で魔法を唱え始める。
ルムミア語でも、日本語でもない。彼の前世の言葉、バルダ語。
意味はわからない。だけど、たったそれだけで出血が止まった。
「ま、これでいいか」
「あとで新しい服。用意しないとだね」
「だな。おい零。君もなんか言えよ」
「……」
大輝が零に言葉を求める。だけど、零は興味がないようだった。
まあ、これでいいんだと思う。それが一番だ。
「それで血のデータは?」
「お。かなり取れた。けど、基本が獣人だから、あんま興味わかなかったな」
「そう……」
それでも、彼が楽しめたのならば。
帰ったらお昼を食べて、今後のことを考えよう。
そうして戻った時、ラディルからお願いごとをされる。
それは獣人の国へ行き、本物の主犯格を処するというものだった。
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