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【第2部開始!】サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる  作者: 八ッ坂千鶴
第2章 死刑囚と本当の形

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第118話 自分を信じて……

 ◇◇◇エレン目線◇◇◇


 僕はただ。立ち尽くしていた。


 目の前では火花が散っている。


 後方では支援魔法の雨。


 足が動かない。戦闘に駆り出されたのに、何もできていない。


「おい坊主! 人出が足りねぇんだ。少しは戦え!」


 獣人魔族と剣を交える男性兵士が声を荒げて言った。


 でも、動けないんだ。漂う血の臭い。それが鼻について離れない。


 生きている敵を殺したくない。だけど、どうにかしないといけない。


 僕はずっと悩んでいた。なぜ聖剣に選ばれたのかを。


 二年前に行った龍神の滝。そこで、僕は理解したつもりだった。


 だけど、最終的に戦闘を終わらせたのは僕じゃない。


 戦っても、力不足だった。勢いで突っ込んだけど、何もできなかった。


 そんな僕が、こんな戦場に立っていいのだろうか。


 実際に足がすくんでいる。怖い、怖いんだ。


「どうして……」


 シリル先生は最前線で戦っている。


 ミカエラさんも、今は手伝いで忙しい。


 僕は、僕の力で戦わないと……! そう思うたびに足が重い。


 まるで鉛を履いているような。糸で固く縫い付けられているような感覚。


 やっぱり僕は出来損ないなんだ。周囲はどんどん先を行く。


 どうにかしたい気持ちはある。だけど、答えがわからない。


 カキンという音が響いた。びしゃりと血の飛び散る音が鈍く響く。


 聞きたくない音が多い。これが、本物の戦場なんだと気づかされる。


「あれは……」


 誰かが走っていくのが見えた。


 白く長い髪。手ぶらで駆け抜けていく。


「ミカエラさん……」


 彼女が止まる。すると、そこをまた誰かが通りかかった。


 長身で大きな剣を振り回す人。的を斬っていないようで、確実に仕留める姿。


 動きは乱雑、だけど剣の流れは綺麗に螺旋を描いているのは大輝さんしかいない。


 今朝の訓練ですぐに僕の動きを理解してくれた人。


 本当にすぐだった。シリル先生でもできなかったことなのに。


 大輝さんは、耳打ちで僕の動きを評価してくれた。


 僕の動きには悪い癖があるらしい。


 脇を閉めず大振りに振る剣。力のこもっていない動き。


 『今の戦い方では無駄が多すぎる』。それが彼の評価らしい。


 大輝さんは、数分で改善案も提示してくれた。


 今彼は主力として戦っている。なら、僕は……。


「僕は、戦う!」


 無理やり地面から足を引きはがす。


 聞こえないはずなのに、ミシミシと鳴った気がした。


 まだ重い。重いなら慣れさせればいい。


 足を動かす。敵に近づく。抜刀する。


 一瞬世界が止まった。動きがゆっくり伸びていく。


 軌道が見える。気がした。


 大振りの剣筋。それは、獣人魔族の懐めがけて入っていく。


 血が飛び散る。魔族はこん棒で反撃しようとしてくる。


「このまま……!」


 身体を捻り剣を引き抜くと、一回転して二撃目を撃ちこんだ。


「僕でも、戦えるんだ!」


 足が自然に動く。それも面白いくらいスムーズに。


 重心がブレる。大輝さんはこの時の対処法も教えてくれた。


 身体を前に倒すのでも、後ろに引くのでもない。


 足を強く地面に押し付ける。そして、利き足を前に出しバランスをとる。


 前への推進力が上がったので、次の的を目指して走る。


 そのまま回転を活かした戦闘方法を試した。


 目が回りそうだけど、そんなことは起きない。


「これで三人目!」


 次の的へ向かう時、誰かにぶつかった。


 顔を上げる。そこには、僕と同じ身長の男性。


 邪魔してしまった。この戦い方の弱点もわかった気がする。


「おい! ちゃんと前を見ろ!」


「す、すみませんでした!」


 男性に怒鳴りつけられ、僕はその場から離れる。


 時々大輝さんと重なることがあった。だけど、彼の動きが速くて衝突も少ない。


 そんな彼のように僕はなりたい。実力が足りないのはわかる。


「大輝さん!」


 ダメ元で彼の名前を呼んだけど、全然届いていなかった。


 一度この場を離れる。敵の数は目に見えて減っていた。


 ほとんどを大輝さんが倒したのかもしれない。


 剣豪の肩書きは健在のようだった。


 当時の彼を知らない僕は、今の実力がどれくらいなのかわからない。


 加えて、彼が持つ大剣には血が一滴もついていなかった。


「剣の力のおかげ……、違いますよね……」


 観察すればするほど、空の上の人に見えてくる。


「ここは任せて、僕はあっちを!」


 身体の向きを変え、武器をしまいながら走る。


 もう僕が狙える敵はいない。なら、人助けをするのみ。


 ミカエラさんよりは効力がないけど、初級の回復魔法くらいは使える。


 倒れている人を見つける。座り込んでいる人を見つける。


 魔法を唱えては上空にいるメウスへ情報を伝達する。


 それをひたすら繰り返すだけ。


「大丈夫ですか? 今から助けがくるので」


 口癖になるくらい、同じ言葉を発した。


 何人かは間に合わないと思う。


 けれども、希望だけは渡してあげたい。


 しばらくして、零さんが通りかかった。


 その後ろをミカエラが付いていく。


 どこへ向かうのかはわからない。だけど、彼女なら大丈夫。


 心から優しい人。理由がないと行動できない人。


 それを知っているからこその、強さがある。


「ミカエラさんなら大丈夫」


 疲れ果てた僕は、その場に座り込んだ。


 もう、動きたくない。それくらい身体を動かした。


 ふくらはぎが痛い。肩が押しつぶされる。


 大輝さんの剣とは違い、僕の聖剣には血がついている。


 人を傷つけた証。殺した証。それが、精神を締め付けた。


 そのまま寝ていたい。そう思うと、身体が浮いた。


「エレン。お疲れー」


「お疲れ様です。メウス」


 どうやら疲労困憊の僕を安全な場所へ移動させてくれているらしい。


 戦いには参加していないメウスだけど、こういう時は出番が来るようで……。


「メウスも全く仕事していないわけじゃないんですね」


「ま、そうだね。ぼくの仕事は、怪我人の運搬がほとんどだったかな?」


 そう言って、メウスは多くの怪我人を浮かせて、大移動を行い始める。


 あとの情報では、僕たちの軍の死者はゼロ。ほとんどの脅威を大輝さんが殲滅。


 圧勝だったらしい。それでも、敵はどんどんやってくる。


 今現在、最前線で戦っているのは大輝さんただ一人。


 彼の力は、普通の物差しでは測れない。


 この戦いを終結させるのは……。大輝さんか、ミカエラさんか。


 僕はメウスと共に、見届けることにした。

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