第117話 戦場の魔物
ブシロードワークス小説大賞。中間選考通過しました!
これからもよろしくお願いします!!
戦場は、荒野だった。そこには、耳の生えた人が沢山立っている。
つまりは獣人ということだろうか。私は状況を確認するため、魔眼の力を利用する。
軍勢の数は数十万。だけど、即席で作ったこちらは数百人。
いくら、大輝に壊毒を渡したとしても不安は残る。
「大丈夫かな」
今私は救命部隊で行動をとっている。戦況は全てメウスと、魔眼での情報だけ。
戦場の最後方に設置された場所で、治療をするのが基本。
時々、零とティアに指示を飛ばし、援護活動をていた。
空は相変わらず暗い。その先には多くの人。
それも、角の生えた獣人だ。角は魔族の象徴なので、彼らも魔族。
怒り狂っている。きっと洗脳されている。
だけど、この人数を聖女の力で抑え込むのも難しい。
「ミカエラ様。次はこちらの手当てを」
「は、はい!」
「ミカエラ。アネキが呼んでる」
「零がなんとかして!」
怪我人は増えていく。できるだけ死者は減らしたい。
なのに、人数そのものが劣勢だからか、治療が間に合わない。
壊毒を迷わず作った大輝なら、即効性のある治療薬も作れる。
しかし、彼は今壊毒を使用しているので正気じゃない。
大輝は壊毒を飲んだ瞬間に目つきが変った。
まるで鷹のような鋭い目。気づいた時には、姿が消えている状態。
今どこにいて、何人殺したかも知らない。
それでも、彼なら大丈夫。私の血で制御できているから。
あのタイミングで補助をしていなかったら、彼は忘れていたかもしれない。
「大丈夫。大丈夫……。こちら治療終わりました!」
「ありがとう。ちょうど薬師さんが到着した。すぐに治療薬の調合に入ってくれるそうだ」
「了解しました。私の治癒魔法で治せそうな人はこちらへ!」
もう魔力が尽きかけている。そのような時は、少しだけ休む。
仮説のテントから出る。空気を吸う。血の香り、本当に戦場なんだ。
移動部隊が怪我人を連れてくる。そこには零も参加していた。
零は一人で数百人をけん引することができる。
それを知ったのは、この戦いが始まった時だ。
最初に三十人を連れて来た時は驚いてしまった。
零にあんな能力があったなんて……。
「仮説テントの増設はまだですか?」
「そ、それが……。材料が足りず……」
「メウス!」
「りょーかい!」
材料が足りないのなら、メウスに頼む。
一瞬でテントが完成した。戦場のテントは、ちょっとした住宅のようなもの。
壁はある。屋根もある。強度も高い。
これを、数分で組み立てる人がまずすごい。
そんなこんなで、中に入ると怪我人が渋滞を起こしていた。
こちらも、戦闘に参加してくれる人を追加していると、ラディルからも連絡が入っている。
「ミカエラさん。こちら満員です!」
「は、はい! 今すぐ行きます!」
「ミカエラ嬢ちゃん。お薬できたわヨー」
「薬師さんもありがとうございます。全テントに配ります!」
零を呼び出す。すぐに到着すると、大量の薬を渡した。
それから、私は薬師さんから薬の作り方を教わる。
少しだけ難しい。材料の配分が特に。
「こんな時こそ、ダインの力が必要なのヨー」
「そうなんですか?」
「そーよー。ダインは薬を作るのに一分もかからないからネー。大量生産に便利なのヨー」
ホントこういう時に限って優等生がいない。
私はできた薬を配る側についた。
幸い薬師さんは、優秀な弟子を何人かつれてきたようで……。
薬の供給はまだ十分とは言えない。だけど、怪我人は減り始めている。
「私戦場に出ます!」
「ミカエラさん戦えないのでは?」
「大丈夫です!」
私は何も持たずに外へ出る。
戦場を走る。魔眼を通して状況を把握する。
敵の大将はどこ? このエリアは思ったよりも広い。
上空ではメウスがいる。そして、彼の上司アダムも協力しているようだ。
「メウス。そっちはどんな感じ?」
「まだ見つからない」
「わかった!」
私はティアを呼んだ。すると、零の付き添いでやってくる。
零には疲れが見えないが、ティアはものすごくふらついていた。
まずはティアを休ませた方がいい。そう判断した私は零にお願いし、テントへ運んでもらう。
今はティアも、零も使えない。唯一使えるとしたら……。
今まで一度も手入れをしてこなかった銃。これしかない。
構える。そして、狙う。殺しはしない。眠らせる、ただそれだけ。
「スウィン! ランブル! ホーミング!」
魔法を唱えて発射する。獣人の身体に当たり、バタバタと倒れていく。
深い、深い眠り。どれだけ持つかはわからない。
すると目の前を誰かが通った。光速で動くなにか。
魔眼によるスローモーションで確認。大きな大剣を振り回す男性。
「大輝……!」
声は届かない。彼は剣を右手に持ち、全身を大きく動かして切り払っていく。
重心は一定じゃない。完全にブレている。だけど、次の動きが速い。
剣豪ダイン。その身のこなしは、兄のものじゃない。
過去を思い出しながら戦う。それだけでも鋭い剣閃。
無駄に見えて無駄がない。誰もついてこれない。
「大輝! 追加の壊毒!」
私は壊毒の入った瓶を投げる。それを、まるで野獣のような手で受け取った。
一気に飲み干す。眉間の血管が浮き出る。
今の彼は人じゃない。人を超えた何か。殺戮を主とする、血に飢えた魔物。
それでも、彼の剣は味方を傷つけない。
今の彼は私の血の情報で動いている。それがわかった時、安心した。
「戻った」
「零おかえり、メウス。敵の大将は?」
「見つかったよー。多分これだと思う」
メウスが情報を提供してくれる。しかし、平常運転な数字の羅列。
わからないので、零に渡す。彼はすぐに理解したようだった。
零にけん引されながら移動する。
その方向に大輝も移動している。
彼は気づいている。目的の人がそこにいると。
私は偶然見つけた物陰に隠れた。
「敵の一般兵は大輝が全部倒してくれる」
「オレは大将を狙えばいいってか?」
「そうだね。零は予備のスナイパーライフル持ってる?」
「持っている。何に使う気だ?」
これはちょうどいい。私は零にすぐ用意するよう伝える。
零は少し不満気味だったが、話を聞いてくれた。
出されたライフルは、ヘカートよりも大きい。
それを私が受け取ると構造の違いに気づく。
「これって……」
「実弾、魔法弾兼用対人ライフル」
「そんなのあったんだ……」
戦況は変っていく。魔法弾が使えるなら、追従弾も使える。
私は零から借りることにした。さっきと同じように嫌な顔はされたけど。
救命テントからはかなり離れている。
ここは完全に大輝の庭と化している。
これでいい。これでいいんだ。
あとは、司令塔を陰から殺すだけ。
根拠はある。ラディルの敷地を守るため。
暮らしている人々を救うため。
私は相手の大将が姿を現すまで、待つことにした。
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