第113話 愛は家族を救う
◇◇◇ミカエラ目線◇◇◇
大輝が取り締まり員に連れていかれて数分。
私とシリルは、ただ棒立ちになっていた。
兄があんな人だとは、本当に信じたくない。
信じたら、家族としての形が崩れてしまう。
彼がそれでいいというのなら――そんなわけない。
「薬師さん。その……」
「なーにー?」
「その……。滅破の壊毒って、どんな毒なんですか?」
私は、調合所の薬師さんに聞く。
薬に精通している人なら、わかるかもしれない。
薬師さんは、別の人を呼びに立ち去る。
今気づいたけど、骨格からしてがっちりしていた。
なのに、男性なのか女性なのかがわからない。
聞くのは失礼だと思うから、考えるのをやめた。
私はシリルを見ると、兄が調合に使った道具を見ていた。
「シリルさん。どうして、道具を?」
「い、いえ……。実は劇薬の調合に使った道具は廃棄が基本なので……」
そんなに危険な薬なら、なぜ大輝は劇薬を作ったのだろうか。
大通りの賑わいは戻っている。
みな『安心した』と安堵の声を出していた。
生まれ変わった死刑囚。大輝がそれだとは思えない。
しばらくして、薬師さんが戻ってきた。
すぐ隣には、ドワーフらしき男性が立っていた。
「チミ。滅破の壊毒について知りたいとな?」
「は、はい。兄が迷うことなく完成させていたので……。あれはどういう毒なんですか?」
「あれは、絶対飲んではいけないものさね」
その後ドワーフの男性は補足を加えた。
滅破の壊毒は一滴飲んだだけで死に至る。
しかし、一人だけその薬に耐性を持つ者がいた。
それが、ダイン・ルーディスということを。
作った本人のみ使用が許される。
それが、簡単な概要だった。
「しかし……ダインが生き返ってくるとは、思っておらんかったわい」
「そんなに危険なんですか?」
「チミは知っとるか。彼が殺した人の数を」
「はい……たしか五万人……」
このことは大輝から聞いていた。
数が真実を見せる。そんなのは簡単。
だけど、これが正しい実数とは限らない。
ドワーフはそこに続けた。
その人数を殺した原因を――。
「彼がそれだけの数を殺せた理由は、滅破の壊毒にある」
ダインは滅破の壊毒を飲むと、自我を失って暴れるとのこと。
痛みすらもなにも感じない。殺人兵器に変貌する。
少し、怖くなった。私の兄がもしそうなったとしたら……。
背筋が凍る。溜まった唾を飲み込む。
「ダインはな……。無茶をする男だ」
「大輝……」
「ほな。わしは作業に戻る」
「わかりました」
ドワーフは店の奥の方へと消えていく。
私はただ、彼の無事を祈ることしかできない。
この慣れない場所で、勝手に行動なんて……。
「ミカエラさん。大輝さんはどうしますか?」
「そうだね……。お兄ちゃん……」
シリルが不安そうな顔で覗いてくる。
心配なのは私も同じ。
大事な人がもしもいなくなったとしたら……。
すると、魔王城の方から悲鳴が聞こえてくる。
私の魔眼に衝撃的な情報が浮かび上がった。
メウスが結界を張っている。
そこを一人の男性が走り抜けていく。
その顔には、見覚えがあった。
収容所に連れていかれた大輝だ。
彼が暴れている。そんなのあり得るはずがない。
シリルに客の避難誘導をお願いした。
「かしこまりました」
「私はお兄ちゃんのところに行ってくる」
「お気をつけて」
魔眼が示す方向へ走る。大輝は今どこに……!
見れば、エレンやライガン。駆け付けた零とティアが誘導をしている。
他にも腕利きらしき騎士団が安全圏の確保に努めていた。
なんでこんなことになるの……!
私は歯を食いしばりながら、怒りを抑えた。
この怒りを開放するのは、今ではない。
物事が全て終わって、兄が正気に戻ってからでも遅くない。
ひたすら探す。探して、人をかき分けて。
見つけた彼は、まるで野獣のようになっていた。
『お兄ちゃん』と声をかけても、届かない。
もう、人の域を超えていた。
自分の力を制御できていない。
彼がかつて永遠の死刑囚と呼ばれていたこと。
その辻褄ががっちりと合わさった気がした。
このまま彼に苦しい思いをさせたくない。
私はゆっくりと大樹に近づいた。
だけど、攻撃してくる様子がない。
「もしかして。私の血を飲んだから……」
考えられることがひとつ。
一度覚えた味方の血の味は、攻撃対象にならない。
これが本当なら……。
怖いという気持ちを抱きながら、さらに近づいた。
あと数メートル。あと数センチ。
大輝の目の前に立つと、優しく抱きしめた。
「今から救うね」
「……」
「聖女ミカエラ・シャーロットより命ずる。彼ものの呪縛を解き、全ての災いから解放せよ」
私が神語で詠唱をすると、ポトリ肩が濡れた。
顔を持ち上げると、大輝が泣いている。
そして、強く。強く抱きしめ返してくれた。
彼は自分を取り戻した。それが嬉しくて……。
周囲から拍手が湧く。助けることができたんだ。
「ミカエラ……。すまない……」
「そうじゃなくて、まずはありがとうでしょ!」
「あ、ああ……ありがとう」
大輝はそのまま、わんわんと泣いた。
いつでも私より年上。なのに……。
まるで、小学生のように泣きじゃくる。
その様子が、とてもかわいく見えた。
私は兄の背中をさする。
すると、彼の膝は力なく崩れ落ちていく。
彼は、きっと気づいていた。
こんなことになることを予想して。
「お兄ちゃん……」
「ごめん……。ほんとうに……」
彼はそれしか言わない。
自分が犯したこと、反省しているのかもわからない。
だけど、今の私には彼が使った毒薬の情報がある。
ここで言えるのはただ一つだった。
「大輝。今後も滅破の壊毒を使いたい?」
「え……」
「その顔は……」
使いたいのがバレバレだった。
大輝は少し焦り始める。
だって彼は、私が知っていることを聞いてないから。
「まずは、今持っている壊毒を全部私に渡して」
「お、おう……」
貴族のいうことは従わなくてはいけない。
その地位が上手く機能するのか、すんなり渡してくれた。
それを、追加で作った空間に入れる。
さらに、ロックを数回にわけてかける。
これで私でも簡単に取り出せなくなる。
「ミカエラ?」
「これでよし。大輝。今度から滅破の壊毒を使う時は私の許可を取ってから。いい?」
私が条件を提示すると、彼は『そんなのでいいのか?』と聞いてきた。
私は首を縦に振る。兄はポカンとした表情で、見つめてきた。
大輝がこんなにも使いたいというのなら、場所を考えた方がいい。
被害が少なかったのも、メウスやエレンたちのおかげ。
私はティアを呼び出す。彼女はすぐに来てくれた。
銃との情報共有は常時行われているから。
私はティアに上空へ向けてメルストを撃つように伝える。
真上に打ちあがる炎の銃弾。それは花火のように花開いた。
「ミカエラ! 見つけました!」
「エレン。メウスとライガンは?」
「今先に魔王城へ向かってもらっています」
エレンと合流し、そのあとから零とも合流する。
三人で魔王城に向かう。まずは、ここを統治している魔王に謝罪をしなければ。
日は落ちかけている。店はさらに賑わう。
その後も大輝は、この世界の親戚のことを教えてくれた。
彼にとってここは、大切な場所。
思い出で満ち溢れている場所なんだ。
そして魔王城に着くと、他の仲間たちがいた。
読んでくださりありがとうございます
いいねは大事にしまっておきます
リアクションも入れておきます
星は1から5どれでも大丈夫です
下の評価ボタンからぽちっとしちゃってください!
最高の励みになります!
ついでにぜひブクマもお願いします!




