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【第2部開始!】サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる  作者: 八ッ坂千鶴
第2章 死刑囚と本当の形

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第111話 禁忌の劇毒

 南西の魔王城近辺にある城下町。そこに入った瞬間、人の圧が強くなった。


 どこを見ても群がっていて、足を置く場所すら存在しない。


 大輝のアドバイスもあり、三角形の陣形で歩いているけど、そこまで効果的とは言えなかった。


「本当に賑わっているね……」


 メウスが言う。周囲からはざわめきの声。


 身体が押しつぶされる感覚を全身に浴びながら、前へと進んでいく。


「今日はいつもよりも少ない方ですよ」


「これが?」


「ええ、今はあまり状況が良くないみたいですが……」


 それよりも、さっきから耳元で聞こえるヨダレをすする音がうるさい。


 ちらりちらりと、大輝の方を見れば、クンカクンカと鼻をひくませている。


 こんな大人数の場所で、嗅ぎ分けられるわけがない。


 そもそも、人間は犬よりも嗅覚が弱いので、そこまで感じ取れるはずがない。


「シリルだったか。収容所はあっちの方だよな?」


 大輝が城から見て西側にある巨大施設を指さした。


 それにシリルは『そうですが』と答える。彼は、変なものを見せられたような目をしていた。


「やっぱりか……。あっちの方から親戚の匂いがするんだよなぁ」


「大輝さんはこのような状況でも?」


「血の匂いだけに限定しているから、すぐにわかる」


 そう言って、大輝はメウスからお金を受け取り、道を外れた。


 彼が何を買ってくるかはわからない。


 だけど、嫌な予感だけがして黙っていられない。


「私、大輝の方を見てきます」


「わかりました。ではボクもついていきます。他の皆さんの案内はメウスさんお願いします」


「りょーかい!」


 私はシリルと共に大輝を追いかける。移動は飛行魔法を使い空から探した。


 上空から見た地上は、まるで黒い波。そして、出店の屋根が数百棟。


 運よく大輝を見つけた私は、光魔法の応用でマーキングを付けた。


「シリルさん。あそこは?」


 私は大輝が入っていった店の一つを指さす。


 屋根には果物のようなものが書かれている。ただ、その模様の上に煙のようなマークが描かれていた。


「あれは、調合用の果物を売っている店ですね……。彼の手にあるのは、毒リンゴでしょうか」


 シリルが得意の遠視魔法を使用して確認してくれる。


 毒リンゴって本当にあるんだと思うけど、何に使うのかはわからない。


 店を出たらしい大輝の腕には、大きな袋がぶら下がっていた。


 そのまま迷うことなく次の店舗へ。


「今度は……。木の模様?」


「はい。あそこは、木の実や薬草、毒草を売っている店ですね」


「あ、また買ってる……」


 大輝の動きには無駄がない。日本では買い物に難儀していた彼だけど、こんなにスムーズなのは……。


 彼の腕には、また袋が増えていた。そこには、人魚のような形の花と、木の実が入っている。


「シリルさん。大輝は何を買ったんですか?」


「あ、えーと……。あの人魚のような草は半魚草。魔界でしか育たない毒草です。あと入っている実は、リグの実ですね」


 毒リンゴと半魚草。毒のあるものが二つ。


 大輝はほかにも聖水と、シリルでもわからない謎の粉末を買っていった。


 彼は何をしようとしているのか。一人推理をするが、答えが見つからない。


 そのまま見張っていると、大輝は調合所へと入っていく。


 そこは比較的空いていて、私とシリルは合流することにした。


「大輝。何買ったの?」


 地上着地後、私は大輝に質問をする。すると、大輝は苦虫でも噛んだような顔をした。


 まるで『全部見られてしまった』と察知し、全てなかったことにしたいと思っているような。


「そ、その……。それよりも! 薬師さん。ここの道具いいか?」


「だーいーきー!」


 完全に彼は逃げ腰だ。ここは羽交い絞めにしてあげたい気分だけど、身長差的に難しい。


「はいはーい。おや、初めて見るお客さんネー」


「突然ですまなかったな。ここの道具で作りたいものがあるんだ」


「なるほドー。初めての方には指導しちゃうけど、どーす……」


「いらない。さっさと使わせてくれ」


「あらあら。悪い子ちゃんネー。お好きにどうゾー」


 大輝は荷物を持ったまま調合所の中へ入る。


 プリセットされているナイフを使い毒リンゴの皮を剥き。


 多すぎたリンゴはそのまま食べ……。


「大輝! 死ぬ気?」


「大丈夫大丈夫。俺こんなんじゃ死なねーから」


「そういう問題じゃない!」


 信用できない。信用したくない。


 その後も大輝は、半魚草とリグの実、毒リンゴの果実を臼ですりつぶし始める。


 途端、周辺に独特な匂いが広がりだした。


 言葉では言い表せないほど、甘味と苦味を含んでいる。


「よし、これに、爆毒を入れて……。聖水を混ぜて……。できた。薬師さーん。チェック頼む」


「はいはーい……って……。これどうやって作ったのヨー?」


「勘だな」


「言っとくけど、これ禁忌の劇毒って言われているやつヨー?」


 禁忌の劇毒とはどういうことなのだろうか。


 すると、シリルがハッとしたかのように切り出した。


「禁忌の劇毒。『滅破の壊毒』ですね。たしか、この毒は……」


「シリルは答えるな」


「は、はあ……」


 そんな中でも、薬師さんは怯えるように身体を震わせている。


 大輝が何をしたか。それが、はっきりわかった気がした。


「これを正しく作れるのは、ただ一人……。アタシもその人の噂ぐらいしか聞いてなくて、実物は初めてなのヨー?」


「たった一人って……」


「永遠の死刑囚。ダイン・ルーディスだけなのよネー……」


「ま、それが俺ってこった……」


 大輝は静かに毒を瓶へ詰める。それを、いつの間にか習得したらしい空間魔法で片づけた。


 すると、大通りが騒がしくなっていく。至るところから発せられる悲鳴。


 取り締まりの魔族が駆け込んできて、大輝を捕らえた。


「これよりダイン・ルーディスを連行する。ここは危険だ。直ちに避難をしてくれ」


 取り締まりの人が鎖を取り出した。大輝の身体は私たちの方を向いている。


 そこで私は見てはいけない光景を見ることになる。


 取り締まり員が持っている鎖には、トゲのようなものが付いていた。


「ダイン・ルーディス。覚悟はできているか?」


「とっくの昔にできてますよーっと、そいつは俺と切っては切り離せないものだしな」


「確認完了。強制拘束を実行する」


 取り締まり員は、鎖を大輝の左胸に刺した。


 大輝の口から血が漏れる。だけど、笑顔を維持していた。


 彼は理解していた。やってはいけないことをしたことを。


 トゲの付いた鉄球が、大輝の左胸へと入っていく。それは、ものすごく残酷だった。


「シリルさん。あの鉄球って……」


「反発すると、体内を抉る拷問器具です。強制拘束をする際に、あのような対応を取ります」


「なのになんで……。なんで大輝は笑顔でいられるの……」


 本当は暴れたりするはず。だけど、大輝は最後の最後まで、笑っていた。


 これを望んでいたような目。それは、兄としての面影が一切ない。


 前世に戻ってしまった。そう考えるしかなかった。


「では、収容所まで同行していただこう」


「よろ。いつも通り常時拷問ありで」


「承知した……って、本当にダインなのか?」


 取り締まり員が、捕まえた人を見て困惑の表情をする。


 そうだ、今のダインの外見は日本人。ドラゴニュートではない。


 見た目違いに違和感を感じたのだろう。


「おん。合ってる。正確には工藤大輝。ダイン・ルーディスの生まれ変わりだ」


「そんなことあり得るわけ……」


「とりあえずさっさと連れて行ってくれ。さもないと瞬殺するからな。この状態でもお安い御用だ」


「わ、わかった……詳しいことは収容所で聞くとしよう……」


 大輝の言葉で、取り締まり員が鎖を激しく動かしながら連れていく。


 普通なら死ぬはず。だけど、大輝の足取りはものすごく軽快だった。


「大輝。戻ってくるかな……」


 私は大輝の背中を見守る。それしかできないのが、ものすごく悔しかった。

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