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【第2部開始!】サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる  作者: 八ッ坂千鶴
第2部 第1章 転移者と再会

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第109話 血に飢えた殺し屋ダイン

 数時間前。私たちは、騎士団集会所に来ていた。


 中には騎士団服を着た人や、いかにも『勇者です』という身なりの人々。


 ここは、一般人は入れないという特別な場所らしい。


「ようこそ、騎士団集会所へ。ご依頼はなんでしょうか」


 受付嬢が満面の笑みで話しかけてくる。メンバーの中で一番低身長な私。向けられるのは、貶すような痛い視線。


 見える人は黒髪が多く、兄の髪はやや紫がかかっていた。


「みんな。一旦外で待機してくれないか?」


 大輝の希望で外に出る。ドアはものすごく薄く、中の話し声が丸々聞こえてきた。


 私たちは、近くのベンチに座った。ライガンとティア。零たちはエレンと一緒に車へ行ってもらう。


「お兄ちゃんは何しているんだろう?」


 そう思っていると、中から悲鳴や絶叫、いや熱狂の声が聞こえてくる。


 中で何が起きているのやら。私は興味の方に惹かれ、うずうずしてきた。


 集会所の外には私たちが座っているベンチだけで、他に何もない。


 それもそのはず、ここは騎士団本部にある場所だから。


 入れるのは、騎士団員と勇者。護衛だけ。


「あ、あなたが……伝説のダ、ダイン……」


「それ以上は言うな。昔よりは能力が劣るけどよ。登録名は工藤大輝で……」


「い、いえ、ぜひともダイン様のサインを……!」


 どうやら、かなりややこしいことになっているらしい。


 集会所の中からは、バタバタとせわしない足音。


 中には、バタンという誰かが転倒する音までしてくる。


 しかし、ダインとは一体。知ってそうなのはメウスだと思ったので聞いてみることにした。


「メウス。ダインって誰?」


「え、えーと」


 けれども、メウスは答えることができないのか、言葉に詰まった。


「皇帝ゼノンと協力して世界を救ったという大剣使い剣豪ダインですね」


「お兄ちゃんが?」


 そこをシリルが補足する。騎士団長だったから、この手の情報には強いのかも。


 大輝がそんなに強いとは考えられない。そもそも、剣豪ということは、腕はすごい。


 たしかにエレンとの勝負では、無駄のない動きが活きていた。


 しかし、大輝が本当に剣豪ダインなら話は変わってくる。


 エレンの見解によれば、大輝は力の一割未満しか使っていない可能性。


「うわぁ、ダイン様のサイン……!」


「アンナ、念のため()()か確認した方がいいわよ」


「そ、そうね。少しお預かりします」


 そうして、受付嬢の声が聞こえなくなる。少しして中から大輝が出てきた。


「んあー。ったくもう!結局サインからの照合かよ……」


 イライラ絶頂の大輝。本当にサインだけは書きたくなかったらしい。数分後。


「ダイン様ー。ダイン様ー」


 ドアが開き、桃色髪の女性が出てくる。身長は高く、耳が少しだけ人間と違った。


「すまない。その呼び名は……」


「ご本人であることが証明され……」


 桃色髪の女性の顔がゆでダコよりも赤くなる。その色は全身にまで達し。


「ご、ごごご。ご本人であることが証明されました……!」


「ま、そうだよな」


 大輝は当然の結果とでもいうように、追加のサインを書く。


 しかし、大輝がダインであることも証明されたため、集会所の何人かが食事を中断しナイフを向ける人が数名。


「テメェそんなひょろひょろな身体で、本当にダインなのかァ?」


 モヒカン頭の男性が大輝を睨み付ける。だが、当の本人は全く相手にしていなかった。


 男性がバッと立ち上がり、ダダダと手に持つナイフで大輝を攻撃しようとするが……。


「ブラドレア……」


 短い詠唱とともに、大輝は揃えた指をモヒカン頭の男性の首に押し当てた。


 大輝の指が真っ赤に染まり、襲い掛かってきた男性は力なく倒れる。


「安心してくれ。殺してはいない」


 そう言いつつ、大輝は手に付いた赤いものを口へ入れた。


「この血不味いな……。こんなやつがダインを名乗ったら俺のレヴェルが泣くぞ」


 私の兄ってこんな人だったっけ。。その後も大輝は次から次へと走ってくる男を気絶させ、その都度血を口に運ぶ。


「これダメ……。こっちもダメ……」


 大輝は、どんどん血を舐めていって満足したのか、外に出てきた。


 実際に満足したのかはわからないけど、まあ、そうなんだと思う。


「メンバー証は受け取った。けど、ミカエラたちとは別のやつ」


「それよりも、なんで血を?」


「ん? あ、ああ……。あああああああああああああああああああああああああああ……」


 彼は、天に向けて吠えた。その声は遠くまで響く。


「やべ……。見せたくないところを見せてしまった……。けど、あいつらの血は不味すぎる。もっと美味い血がほしい」


「なんで、美味しい血を?」


「えとな。レヴェルと約束しているんだ。再会したら、美味い血を大量にくれてやるってさ」


 なんでそんな約束をしたの。って言いたいけど、大輝は楽しそうだった。


 彼はまだ指にこびりついた血を舐める。しかし、口に合わないのか唾と共に吐き出した。


「ったく。今日は散々だな……。サイン書かされるし、襲われるし、そいつらの血は不味いしでよ」


「最後のはいらない気が……」


「最強の殺し屋が再臨したっていうのによ……。ほんっと、こっちも穢れたもんだ」


 最強の殺し屋? 大輝が? そんなわけ……。


「はい。そうですね」


「シリルさん?」


「ええ。ダインさんは、最強の剣豪で最強の殺し屋。血を求めて悪人を沢山殺してきた伝説の男です」


「ざっと五万人だな」


 そんなに殺していたなんて……。そこへ、桃色髪の女性が出てくる。


 彼女は、赤い液体の入ったコップを持ってきていた。


「これは誰の血だ?」


「え、その……。私の血です……」


「ほほう……。俺に飲んでほしいってか」


「はい」


 大輝はためらうことなくコップを持ち上げ、ワインを飲むかのように匂いを嗅いだ。


 表情が明るくなる。少しにやけているのがわかった。


 そのまま、一気飲みをする大輝。数秒後彼は口を開く。


「甘いな……」


「あ、甘い?」


「ああ、この血は甘い。それも、絶妙な甘さだ。君、聖女とエルフのハーフだろ?」


「は、はい……! 聖女ミレスとエルフの男性の娘です……! 名前をアンナって言います!」


 聖女ミレス。それは、私のお母様のお姉さんだった。


 まさか子供がいたなんて……。


「アンナさん。私そのミレスさんの妹フランの娘です」


「ほ、本当ですか!? こんな近くにいたなんて……」


「はい!」


 しかし、なんで大輝はアンナの血を飲んだだけで出自を当てたのだろうか。


 彼の舌が異常な気もする。あくまでも、日本人なのに。


 大輝は次に、受付の一人を指さした。それは、他の人と比べて背が低い女性。


「そこの受付嬢の血も飲ませてくれ」


「アタイの血を飲んで何をするのだ?」


「まあまあ……。ブラドレア」


 大輝の魔法は遠隔でもできるのか、指に血が付着する。


 それを、綺麗に舐めると彼はむせ込んだ。


「ニガッ!? ドワーフの血は苦いと聞いたが……。ここまでとはな……」


「ダイン様は苦いのが苦手とな」


「いや、コーヒーはマンデリン派だ」


 そういえば、大輝はコーヒーミルでマンデリンの豆を挽いてたっけ。


 昔から苦いのが好きだったはず。


「そろそろ、エレンたちと合流しない?」


「そ、そうだな……。騒がしくしてしまってすまなかった。進展あったら報告する」


 と言いつつも、襲い掛かってきたモヒカン頭の血を大量に採取する大輝。


 それを大事そうに瓶に入れて、王都の外に出ると車に乗り込んだ。


「なんで不味い血を……」


「いや。俺が悪趣味なだけだ。自覚はしている」


「そもそも論だけどね」


「ってことで、いただくとしよう」


 そう言って、大輝は瓶に指を入れては口へ。こんな兄。持たなければよかった。

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