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【第2部開始!】サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる  作者: 八ッ坂千鶴
第2部 第1章 転移者と再会

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第106話 忘れじの師弟関係

 兄の大輝を連れて食堂に着くと、それはもう私の隣の陣取り合戦が始まった。


 いつものように私の両サイドを狙う、メウスとエレン。久しぶりに会えたからと、交渉する大輝。


 私としては誰でもいいのだけど、これぞ男の戦いと言える。


「この争い、お兄ちゃんかメウスが折れて」


 年齢的にも八十八歳を超えているメウスが断念するべき状況。


 そして、神を除いて最年長の大輝も加わる。


「そ、そうだな。どうやらベッド神と彼氏はお前のことが好きみたいだしさ」


「ぼくはベッド神じゃないやい!」


「そうですよ! 僕にもちゃんと名前があります!」


 相変わらず名前を覚えるのが苦手な大輝。


 まだ数分、数時間しか経ってないからわかるけど、これが毎日続くとなれば頭が痛くなる。


 よりにもよって、なぜ大輝なのか知りたいくらいだ。


 そんなことより、兄の大輝が折れたようなので、席順はこうなる。


 私の右にメウス。左にエレン。相向かいに大輝。一歩引けるのが、大輝の良いところだと思う。


「ところで、なんでベッド神が……」


「だから、ぼくはベッド神じゃないやい!」


 本日三度目のこの会話。本当に兄は名前を覚える気がないらしい。


「す、すまない。め……。なんだっけ?」


「メウスね」


「そうだ、メウス! なぜミカエラと行動しているんだ?」


 なんだそんなことね。もちろんそれは……。


「ミカエラのことが好きだからかな? というよりも、心配だからっていうのが一番だね」


 メウスはこう見えて心配性。自分の心配を先にしてほしいくらいまである。


 やがて料理が運ばれてくる。今日のお昼は大輝の口に合うように、私の料理本をもとに作ってもらった和食。


 獲ることができる魚の種類は違えど、上手く調理すればそれなりに再現できる。


「おお! 今日は魚の煮付けかー! 最近薄味しか食ってなかったから、最高な気分だ」


「よかった。あっちとは違う魚だけど、多分大丈夫だと思う。ここの料理人は腕がいいから」


「そうかそうか。ミカエラがそういうなら、そうなのかもしれないな」


 なぜか知らないけど、私の名前は覚えてくれたらしい。いいんだか悪いんだか……。


 味見ということで、私が一口食べる。今回使用した魚は、ラグスというニジマスに似たもの。


 淡水魚だからか、単体での味は結構淡泊。だけど、味が染み込みやすい特性から煮付けに向いていた。


「これはなんの魚だ?」


「ラグスっていう魚ですね……。貴族にはあまり好まれない魚ですけど……」


「貴族? 貴族ってあのあれか?」


「はい。僕は王族ですよ」


 エレンの告白に、驚いた大輝が恥ずかしいくらいの勢いでひっくり返った。


 別にそこまでしなくてもいいのに……。彼はゆっくりと椅子を直し、座った。


 ここは私も乗っかっておこう。


「大輝。実は私も貴族で……」


「ふぇ? ミカエラが?」


「うん。公爵家出身だよ」


 ちょっと、それ私のセリフなんだけど。完全にメウスが先を越してきたので、つい頭を抱える。


 もちろん大輝は放心状態になった。私が公爵家令嬢なんて、自分でも納得できてないけど。


「そして、ミカエラは聖女なんだよねー!」


「う、うん……。そうだけど……。メウス言い過ぎ……」


「ごめんごめん!」


 メウスは平謝りをしたあと、煮付けを食べ始めた。


 味もちょうどいいのか、メウスはパクパクと口へ入れていく。


「メウス、ご飯と交互に食べてください!」


「あ、魚なくなった……」


「もう、血糖値上がってもしらないですからね」


 ほんと、メウスは自分の身体を労わってほしい。


 お酒はガバガバ飲むし、食べ方が偏りまくりだし。


 よくそんな食生活ができると思ってしまう。まずは彼の健康管理が先かもしれない。


「ミカエラが……聖女……。俺より……身分が上……」


「はい」


「大輝さん。早くしないと、煮付けが美味しくなくなっちゃいますよ」


「お、おう……」


 大輝が箸を持つ。この世界に箸があるのは違和感しかないが、今はもう慣れてしまった。


 最初はグダグダだった食事も、少しずつなめらかになっていく。


 味はお気に召したようで、大輝は完食してくれた。


「さて、これからどうするか……」


「大輝はここ初めてだもんね……」


「いや、初めてじゃないな……」


「え?」


 大輝が初めてじゃない。ではいつ訪れていたのだろうか。


 私の記憶では、当てはまることがどこにもなかった。


「たしか……。ここに俺のが……」


 大輝は食堂のテーブル下を漁る。そこから出てきたのは、一枚の紙だった。


「だれか鋏かナイフを持ってきてくれ」


「ナイフはここにあるよ」


「ベッド……じゃなかった。メウスありがとう」


 大輝はメウスからナイフを受け取ると、紙を切った。そこから膨大な魔力が発せられる。


 これを大輝が作ったのだろうか。数秒すると、大輝の手元に一振りの剣が出現する。


「久しぶりだな……。俺がまだ五歳だった時か……」


 大輝が五歳だった時。その時だけお母さんやお父さんは彼の記憶がない。


 私がまだ生まれて間もない時。子供の失踪事件が起きた。


「じゃ、じゃあ、お兄ちゃんは……」


「ここで暮らしたさ。この紙も俺が作ったもの、剣も俺が作った」


「五歳で?」


「おうよ! 期間的にもまだ時間はありそうだし、行くか……」


 大輝は食器を厨房に運ぶ。そのあと剣を持って廊下に出た。


 私たちは追いかける。彼の足はスムーズに進んでいた。


 こんなにも迷いのない人物だとは思わなかった。


 王城から出ると、城下町を目指す。大輝はメウスに『おすすめの鍛冶屋はないか?』と聞いた。


「セリンかな?」


「セリン……あの獣人野郎か……」


 メウスの案内でセリンの店に向かう。途中、エレンが食材の買い出しで別れた。


 セリンは店で武器を売っていた。髪は少し前に染めたのか、ダークグレーになっている。


 しかし、犬の耳だけが茶色っぽくて、コントラスト的にも不思議だった。


「ん? 誰だ?」


 ぞろぞろと現れた私たちに、セリンが反応する。


「私のおにいちゃ……、じゃない。友人の大輝です」


「大輝だぁ? どこにいるんだよ」


「ほら、大輝……」


 私は大輝の背中を押す。不自然に前へ出た足。


 高身長の細マッチョになってしまった彼に、セリンはどう反応するのか。


「お、お、お久しぶりです……! 工藤大輝です!」


「お、おま……。でっかくなっちまって……。どうだ? 向こうは」


「相変わらず弟たちがうるさくて……。ずっとこっちの方が……」


「だーいーきー!」


「ちょっとミカエラ……!?」


 ものすごくヘコヘコしている大輝が情けない……。


 大輝は昔からこうだった……気もしなくない。セリンが店から出てくる。


 身長はセリンと同じくらい。目算で百九十センチなので、高身長なのがわかる。


「ところで、大輝は今いくつなんだ?」


「二十歳です」


「二十かー。もうあれから十五年経つんだなぁ……」


「そ、そう……ですね……」


「なーに。そんな改まらなくていい」


 セリンも大輝の敬語が気に入らないのかツッコミを入れた。


 だけど、その言葉がマイナスに向かったのか、大輝の顔が真っ赤に染まる。


「そ、そんな。し、師匠は師匠ですよ……! 俺はもう立派な大人ですけど、師匠は師匠のままで……」


「ハッ! とっくの昔に卒業しただろが。弟子入りして数日で玄人並み。五歳にしてはできすぎもいいところだ」


「いえ、それは師匠の教えが……」


「お前の実力だ。いい加減理解しやがれ」


 さっきから大輝はセリンのことを師匠と呼んでいる。


 つまり、二人は……。


「セリンさん。大輝は」


「俺の弟子だ。未来有望な新米鍛冶師。天才鍛冶師の金字塔になるレベルだった」


「お兄ちゃんすごい!」


「あ゙? 兄だぁ?」


 やっちゃった……。もう血縁関係じゃないのに……。


 いや、ここに生まれる前までは血縁関係だったのは確かなんだけど。


「はい。ミカエラの前世が俺の妹なんです。まあ、俺より先に逝ってしまったので、血縁関係ではないですが……」


「ほう……。これまた面白い関係図だな……」


「俺は、剣を作ることに才能がありました。だから、戦闘経験を増やすために、サバイバルゲームっていうのをしていたんです」


 ここから先は長くなる。それに気づいた私は、近くの果物屋を見物することにした。

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