第104話 零足す一と不自然な記述
シリウスさんの家に着き、私は零を探した。途中ティアにも会ったけど、彼女も見かけていないようで。
「本当に帰ってきたのかな?」
「そうですね……。僕も気づいたらいなくなってたので……」
「まあ、大丈夫だと思うよ。零もそこまで馬鹿じゃないみたい――」
メウスが一言添えようとした時、後方から殺気を感じ取る。
ものすごく鋭い視線。そして、威圧の空気。ビシっとした強烈な痛み。
こんな感覚を一瞬で出せるのは一人しかいない。
「馬鹿っていうのはなんだ? オレを信用できねぇってことか?」
「い、いやあ。零がどこへ行ったのかなぁって……。ね、ミカエラ」
「な、なんで私に振るの。もとはと言えばメウスが余計なことを……」
「二人とも、落ち着いて、僕も同罪なんだし……三人三様で……」
この状況は今までなかった。私はどうすれば解決するか悩む。
零は腕を広げて、力強く私たちを抱きしめた。
寒くなってきた大地の空気。それを全て温めてくれる。
「零ってこんなに温かいんだ……」
「ハッ! あったりめぇだ。そんくらいわかれよ。ご主人様」
これはホストクラブに入れた方が高収入を得られそうだ。
零の見た目であれば、女性ウケは間違いなし。
彼ならそれくらい簡単かもしれない。思わず笑みがこぼれ、まるで悪だくみをしているような形になった。
ものすごく恥ずかしい。誰も気づいてなければいいんだけど……。
「それよりも、明日の日程を決めましょう!」
エレンの合図で話題が変わる。日程調整は、全員で行った。
ちょうどシリウスさんもシリルに渡してほしいものがあったらしく。
私はそれを空間の中に収納した。これで大丈夫。
「これで大丈夫です。では、おやすみなさい」
寝室に向かう。シリウスさんの家には三日ほど。本来であれば、もう少し滞在してもいい。
グラーシア領の秋の様子は、ものすごく寒い。南は基本暖かいはずなのに。
メウスに一つ聞いたことがある。グラーシア領は、氷地に囲まれていると。
夏場は避暑地として有名なようで、グラーシアの次にベルンライトが涼しいようだ。
私はベッドに寝そべる。ルーディスの本を取り出し続きを軽く読んだ。
「どう考えても、日本のことなんだよなぁ……」
普段はこんな砕けた言葉を使えない。サバゲーを始めたころだろうか。
それとも、男性が多い家庭に生まれたからだろうか。
私は時々男っぽいことがあるみたい。これも、環境が関連しているのかも。
「そろそろ寝ようかな。本を片付けて……」
――ガチャリ。
「?」
私は突然開いたドアの先を見る。そこには、メウスがいた。
「メウス。何?」
「う、うん……。ちょっとね……」
メウスの顔が暗い。彼は時々疲労が混ざった表情をするようになった。
それもそのはず。彼は本を書いたり、神としての活動をしたり。
銃を作っては、新しい文明を築こうとしたり。ものすごく忙しい人。
「メウス……?」
「うん。あの……。この前ぼくが君のこと好きって言ったでしょ?」
「言ってたね……」
メウスは私のことがものすごく好き。今ではエレンの上を行っている。
だからこその悩みがあると悟った。
「実はね……。ごめん。やっぱりいいや……」
「もう、何?」
「なんでもないやい! ぼくも話せないことが沢山あるんだよ」
「それはそうだよね……」
メウスは赤面前回の面を見せる。そこまで真っ赤にする必要はないのに……。
「明日王都に行くよね。そこで行われることを軽く伝えに来た」
「そこで行われること?」
「うん。国王の言い分はこう。『近年の勇者不足解消のために力を貸してほしい』」
「勇者不足ってどういうこと?」
今年も、去年も新しい勇者が誕生した。だけど、それでは足りないということなのだろうか。
「王都で、召喚の儀が行われる。その動力源として、ぼくの魔力を献上することになった」
「それって……」
「だ、大丈夫……。気にしなくていいよ」
「気になります! メウスの隠し事癖はもう丸見えなんだから!」
私の言葉にメウスが肩を落とす。図星だったらしい。
「今も魔力を王都に送ってるんだ。月光の月の下旬からかな?」
「つまり……」
「あ、安心して。ちゃんと王都には到着できるから!」
「そういうわけじゃなくて……。他にあるんでしょ?」
言い訳に言い訳を重ねるメウス。もうバレバレなのだ。
私は問い詰めに問い詰めた。しかし、彼はのらりくらりと本当のことを言わない。
「メウス。いい加減ふざけるのを……」
「ごめん……」
「いやいいんだけど……。召喚の儀をするってことは、どこかから召喚するってことだよね?」
「そうだけど……。ぼくの仕事でもあるからね」
メウスはそう言って、石板を取り出した。そこには、日本の風景が映っている。
早く戻りたい。兄弟に会いたい。だけど、それは叶わないんだと思う。
「ミカエラ。もしこれで大切な人に会えるのならどう思う?」
――――――――――――――――――
『――。もし、俺が……、今お前が生きている世界で会えるなら。お前はどうしたい』
『それは、姿形が違っても?』
『ああ』
『私が、昔の私ではなかったとしても?』
『ああ、そうだ。俺は、今のお前の姿がわからない。どういう生活をしているのかも知らない。お前に友達がいるのかも全くだ』
――――――――――――――――――
私は十一歳の誕生日前日に見た夢を思い出す。
これが本人との会話だとは、今でも呑み込めていない。
そもそも、メウスにそんな力があるのなら毎日会わせることもできたはず。
なのに彼はそれをしなかった。兄と会ったのはこの時だけ。
「もしかして……」
「さあねー。じゃ、ぼくはもう寝るから」
「おやすみなさい」
メウスが部屋から出ていく。ようやく寝られる。
布団に入って数分。冷たい何かが肌に触れた。
そこには、ヘカートとガトリングガン。つまり、ティアと零だった。
今日はこのメンバーで寝るんだ。ちょっと嬉しかった。
翌日、私はティアと零を起こしてから布団を出た。
朝ごはんを食べて、車に乗り込む。王都に向けて出発。
しばらくして、王都の門に着く。血判を押して入場許可を得たあと、エレンの祖父がいる王城へ移動。
ここまではものすごくスムーズに進んだ。途中メウスが用事を忘れたと言って離脱。
ライガンも久しぶりの王都ということもあり、少し顔が引きつっていた。
「思ったよりも混んでますね……」
「そうだね……。メウスはどこに行ったんだろ」
「さあ、どこでしょう?」
「メウス様のことでしたら、お酒でも買いに行っているのではないでしょうか」
「それはあり得るかも。ライガンの前でも容赦なく飲むからね」
「そうですね……。メウス様の飲みっぷりは真似できませんな」
王城に着き、エレンの顔パスで中に入る。
国王との面会をし、近況報告をしたあと部屋に案内される。
お昼までには時間がある。私はその間に本を読み切ることにした。
先に読むのは、もちろんお気に入りの方。
私は部屋でひたすら読んだ。異世界語で書かれていても、脳内変換できるようになった私。
「私も、こんな小説が書けたらいいのに……」
私はあまり物語を書くことに特化していない。
むしろ、私とメウスは同系統と言っていい。物語よりも知識を与える方が……。
だから、ルーディスのように壮大な物語を……。
「サバゲー?」
読んでいる最中に『サバゲー』という言葉を発見した。
そこで一人の少女が犠牲になったと書かれている。
泣き叫ぶ青年。嘲笑う大人。その構図にはどうも既視感があった。
もしかして、この人……。いや、そんなはずはない。こんなこと、ありえるわけ……。
本日も、複数話更新します。
ブクマ、星は一つですか?二つですか?
魂を込めて送ってください




