第10話 来客と魔導銃
私の天職任命式から約一年。ヘカートの使い方を知らないまま、私は弓と魔法を極めていた。
正直、銃を使えないのはつらかった。持っていればいるほど、前世の記憶が蘇っていく。今兄弟たちは元気にしているだろうか……。
そんなある日のことだった。
「ミカエラ。お客様よー」
部屋でヘカートを磨いていた時。突然私目当ての来客が訪れた。駆け足で玄関に向かうと、どこかで見た事のあるような白髪の少年。
「も、もしかして、メビ……」
「しー! 今のぼくはメウスだよ。メウス・リーファ。ここの世界では偽名を使っているんだ」
メビウス改めメウスは、わざわざ神が住んでいる世界から、やってきたらしい。それでも少年に見えてしまうのは、不老ということか。
「ところで、ヘカートはどこかな?」
「え、えーと、さっきまで磨いていたところです」
「あ、そ。じゃあ、実物を見せてもらおうか」
「どうぞ」
私はメウスを自室に案内した。さすがに複雑な構造をした家のマップは、頭の中に入っている。迷わず部屋に着くと……。
「メウスさん。それは私のベッドです!」
「おっと、ごめん。久しぶりに人間界のベッドを見たからついね。ちなみに君のお兄さんのベッドでもやらせてもらったよ」
大迷惑にもほどがある。だけど、メウスにとって人間界はそれだけ輝いて見えるのだろう。
「ところで、ヘカートは?」
「そのベッドの壁側です」
「あ、そ。じゃあ、勝手に見させてもらうよ」
メウスはそう言うと、身体を半回転させてヘカートを持った。一気に起き上がると、何やら光を当てている。
「何をしているんですか?」
「見ればわかるでしょ。点検だよ」
「わからないですよ!」
「あ、そ」
相変わらずメウスは『あ、そ』しか言わない。だけど、それが彼の特性なのだとすると、どことなく可愛い。
だけど、彼の手元から銃の重要部品であるトリガー。つまり引き金はどこからも出てこなかった。
やはり、どう扱えばいいのかわからない。
「よし、点検完了。ミカエラがしっかり手入れをしてくれていたから、故障はなかったよ」
「あ、ありがとうございます……」
「じゃ、試し撃ち行きますか……」
「え?」
メウスはヘカートを軽々と持ち、来た道を戻っていく。私はその後ろをくっついて歩いて、家の庭へやってきた。
外はほんのり暖かく、まるで春の陽気だった。新芽の芝生が辺り一面に広がっている。
「メウスさん。でもそれ引き金が……」
「うん、ないよ。でも故障とか紛失とかじゃないから大丈夫。これは、異世界に合わせて改造した魔導銃版ヘカートだから」
「魔導銃……」
魔導銃と聞くと、やはり魔法で銃弾を発射するのだろうか。それだったら、たしかにトリガーはいらない。
メウスはヘカートを構える。そもそも私は、魔法なくしてはこのヘカートを持つことはできない。
なのに、メウスは簡単に持ち上げ簡単に構えている。軸足がブレている様子はない。そもそもスナイパーライフルは置型の場合が多い。
「じゃあ、発射するよ」
「は、はい……!」
「メルスト。バーン!」
メウスが詠唱をすると、火球が発射された。それはまるで、実弾のように素早く的確に木へ命中する。
「じゃあ、次は君の番。さっきの詠唱句を真似してみて」
「は、はい!」
私は、銃を持つ時に使う『エアー』を使用して持ち上げると、そのまま構えた。照準はさっきメウスが命中させた同じ木。
深呼吸をする。銃を使うのはサバゲーをプレイした時以来。加えて、魔導銃は初めて使う。上手くいく保証はどこにもなかった。
「メルスト!」
私は詠唱と共に熱くなっていく銃に意識を集中させる。銃口が赤く光り、だんだん白く変わっていった。
「バーン!」
発射を意味する言葉らしいものを発すると、火球が勢いよく飛び出す。その威力に足が持っていかれそうになるが、なんとか堪えた。
発射された火球は、真っ直ぐ飛んでいく。初めてでここまでできたのは、とても嬉しかった。しかし……。
「ミカエラ。威力調整!」
「へ?」
私は失敗をしてしまった。火球は見事に木へ命中したのだが、そのまま大炎上をしてしまった。うわ。最悪……。
その騒ぎを聞きつけたのか、家からお父様が走ってくる。何があったのか説明した時には、メウスが消火をしてくれた。
「お父様。申し訳ございません……」
「いいんだ。しかし、さっきの炎はなんだったんだ?」
「その……。ヘカートを使ったら威力調整を忘れてしまって。木を一本燃やしてしまいました……」
「そうか……。すごいぞ! ミカエラ。初めてそれを持った時の騒ぎはどこ行ったのやら、無事使えるようになったんだな!」
ここでべた褒めが発動するとは。怒られると思って縮こまっていたけど、余計な行動だったらしい。
「エルヴィンさん。少々褒めすぎではないですか?」
メウスがお父様に話しかける。だけど、当の本人の耳は届いていないようだった。この時から、私は銃弾魔法の研究を開始する。
動物が殺せないにしろ、銃弾のレパートリーを増やさなければ意味が無い。どんな状況でも対応できる銃弾を生むのが、今やるべきことだと思った。
しかし、魔法書を読んでもそのような項目は一切存在しない。それもそのはず、この世界に〝銃〟というものがないのだから。
「お父様。この前友達から〝メルスト〟っていう魔法を教わったのですが……。わかりますか?」
「いや、知らない魔法だな……」
「そうですか……」
これからは独学していくしかない。それだけでも途方に暮れそうなくらい、地道な作業の始まりだった。
そんな中素早く習得できたのは、基礎の属性弾だった。一番のお気に入りは、最初に覚えた〝メルスト〟だった。
これは、火属性の銃弾で対象を燃やすことができる、基礎魔法とのこと。私でも簡単に使えた理由がわかった気がした。
「エルヴィンさんから聞いたけど、ミカエラは物覚えがいいらしいね」
「はい?」
「え?」
ちなみにメウスとの会話ではこのようなものが多々あった。私でもそれくらいわかっている。そんなことを言ってくるから。
「じゃあ、ぼくはここでお暇させていただくよ。あと一ヶ月か二ヶ月ほど人間界に滞在するから」
「わかりました」
「それとこれ。ぼくの血判が押してあるから二枚分。エルヴィンさんには別に渡してあるから、今君の血判を押してもらってもいい?」
そう言って、メウスは魔法紙を渡してくる。そこには、金色の血判が押してあった。神の血は金色というのは、格の違いを見せられたような……。
私は魔法紙に血判を二つ押すと、片方を受け取った。これで、メウスと会話ができる。わからないことは色々聞いてみることにした。
「では、またどこかで!」
「はい!」
私は、手を振りメウスを見送る。部屋に戻ると、銃磨きの続きを始めた。
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次回、主人公、狩り対決




