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鼻歌は上機嫌だからするものではない。必須だから奏でるのだ。
グリングリンとかいい感じじゃありませんか? この森林浴の一帯マイナスイオン的な雰囲気にぴったり。
丘を越え行こうよーと歌い始めたけど、何時になったらサビになるんだろう? 全然グリングリンしない。
「その右手の棒は必要なのかしら?」
「冒険なのだから当然だろう?」
デネブは愚の極みな質問をする。
人生経験の浅い少女には仕方のないことであろう。
冒険に棒は優秀な意味がある。
怪しい場所(主に敵)を突ついては事前に判断出来て、木に傷を付けるか突き立てれば目印になり、疲れた時には杖になる。
この優秀なスティックを持たずして冒険が出来ようか、いや出来ない。
「私のお家のお庭なのだけど」
「バッカお前、こんな広い庭探検するに決まってるだろ!」
「バカなのは兄ですから、気にしないでください。デネブお姉さま」
「あの時のような失態を二度と起こさないようにと、両親に口を酸っぱくして注意されましたが、今ならその気持ちが身に染みてよーくわかりますわ……」
失態をおかした覚えはないが、あの日はこっぴどく叱られた。
何エーカーあるのだろうと端まで探検したことがあり、未探査地域に我々は足を進めるのだと意気揚々と進んだら、帰り道がちょっぴりズレていたようで蛇行して帰ったら思いの外時間がかかってちょっと辺りが暗くなり始めていた。
帰還って戻ると大袈裟にも探索隊をだそうか話し合っていたタイミングに鉢合わせ、貴方がいながら何をやっているのと叱られた。ケミが。僕達は背中を見ながら汚れを落とす為に近場の手洗い場へ向かう。風の魔法で遅れると連絡とれるのが彼だけであり、当然の怠慢である。
「隊長! 目的地までどれくらいでありますか?」
「目的地までもう少しですよ。しっかり着いてきて下さい。ベガ騎士見習い」
「じいや!」
デネブは咎めたが、このじいや男心がわかっている。
俺は黙って敬礼した。
地理を熟知したじいやが案内してくれるのは心強い。
「バッカみたい」
実際の所、ちょっとしたハイキングコースみたいな散策ができるように人工的に作られた道なのである。
踏み入れるとなーんか自分にスイッチが入っちゃうんだよなぁ。
屋敷裏手から道なりに五分でお手軽森林浴出来るなんて貴族は発想と金の規模が違う。
西方に行けば人工池に山小屋、北方は畑だったかな?
お目付け役のじいやにつれられて来た目的地南方。
そのあまりに美しい光景に俺と妹は感嘆した。
果物が棚でなっている。
棚は五メートル程の長さがあり、巻き付いた植物の葉が日差しを透過してステンドグラスみたいに黄緑色に照らされて、植物の実は赤橙に反射する。地面が上になる植物をモチーフに描かれた絵画のようになっている。
時代が時代だったら映える。
「食べ放題……!」
「放題じゃないからねっ!」
「どう考えたって、こんなに食べきれん。食べ放題でも食べられる量に限界はあるだろ。皆で一房、持ちかえりで一房で十分」
「あんたが言うと冗談に聞こえないのよ……」
じゅるりとした音お兄様は聞き逃しませんでしたよ。
妹さん露骨に残念な顔しないで、兄として恥ずかしいから、一杯食べたらぽんぽ痛くなるでしょ? 妹は花より団子ですか。
じいやは一房だけ採り、近くのテーブルに皆で付き頂くことになる。近くで見ると一粒一粒が宝石みたいで本当に手を着けるのが――ぶつりともぎりましたよこの妹。しかもデネブ嬢を差し置いて。
自分からの勇気はないので、皮切りには丁度良かったと思うことにする。勝手知ったるお嬢様っと。
「「美味しー」」
二人の毒味を待っていたのではないが、一番最後に食べるのがせめてものお嬢様への敬意って感じの自己満足が満たされたので一口。
甘味が無い世界でこれは間違いなく一級品だ。
でもね、記憶が邪魔をする。
見た目ぶどうなのに、味がグレープフルーツの柑橘系というちぐはぐで半減。
味は一般青果売場に売っているレベルという味の記憶は最悪の一言。すんげー旨いハズなんだよ。これ。
「とっても美味しいですね」
目一杯の笑顔で言った。
これで十分甘いのだが、グレープフルーツには砂糖をかけていたタイプだからすんげー物足りない。こっちでやればどんな貴族やねん。上白糖なんて洒落にならんわ。
いざという為に、調味料を持ち歩いているけど失礼だ。
塩で味を引き立てるのはありだけど、煮詰めたシロップをかけるのもありだけど、ガスパチョみたいな酸味あるのをかけるのもありだけども、負けなな気がする。
食べるだけでストレスが……
「兄ちゃんは十分味わったから、ちょっと景色見てくる」
妹よ多く食べ進めててくれ。
美しさを語るにはそれなりの品格が必要になる。
自分のようなガキがそれを語るには美しさが減ってしまいそうで、ボケに逃げるしかなかった。
幻想的で角度が違えば見え方が違う見上げる景色もいい。下を見れば自分の影が異物のようにも感じたり、それを含めて一つの作品のようにも感じたり、その時々の心情で変わるのだろう。ずっとここに居たいくらい飽きない。
「気に入りましたか?」
じいやが尋ねた。
二人がそろそろ食べ終わるのだろうか?
俺は振り返り、
「ええ、とっても」
と答えるとその答えに優しく微笑んでいた。




