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ローマは一日にして成らず。
自分の住む街を隅から隅まで知らないのに、大都市を一日で見て回れるハズがない。
観光客が観れなかった場所にまた来ることを捩って使ったり使わなかったり、本来の意味から捩って使われるのはその言葉に魅力があるからなのだろう。
それはそうと、死ぬんじゃないのこれ。
一時間前、いつ着くのと尋ねて五分と経っていないじゃないですかぁーと言われてから、もう尋ねる気力さえない。
インフラ……インフラ……
細かい振動が、タイヤを乗り上げる石が、脳と吐き気の中枢を揺さぶって波も無く、ずぅぅぅぅっとキモい。
上限値って無いんですね。積み重なりがこう、ね。
自分の衰弱していく様子がハッキリ感じ取れる。
「坊ちゃま、お顔色が、一旦止め――」
力無くフルフルと首を振る。
停めたところで、改善される訳でない。
休んで気持ち悪いのが多少とれたとて、また気持ち悪くなるのだから長引くだけ辛くなる。
噛みしめ吐き気を誤魔化すためのタオルは、長時間の力みによるあごの痛みと疲労によって口の端に隙間が出来て、ヨダレがたれて頬を伝う感覚が気持ち悪い。
早く地獄を終えて。
「着いたらぁ……教え……て……」
はいと対面席のケミは手を握った。何故握った、手が生暖かくてキモい。
気絶出来ればどれだけ楽なことであろうか。
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数日前の出来事
「手に職つけとかんと、将来が心配って何言ってんですか……」
「バッカ、お前、バッカ! 最初から選択肢狭めてどうすんだよ。変な貴族の下について馬車馬のように働かされ捨てられるなんてあり得んからな! 平民出身舐めんなよ! 俺が純正純血貴族だったら成り上がり野郎なんかと一緒とかヘドが出るわ! 直接な制裁はしないにしても関わるなんて面倒なことは絶対しないね」
「あのー、私の私用で帰るということは理解してますよね? しかもあの言い種で私の武器職人に会わせろと? 全てが間違っていますよね? 自分がおかしいのでしょうか? ケミの一番の幸運はベガ様が平民生まれだということですね。そんな貴族はお家の恥じですから」
「内情を知らずしてヤバい店に勤めるのは泣くに泣けん! 幼い子供の職業体験だと思えば可愛いらしいものだろ! 外面、外面だけは良くするから!」
自分ノ印象ダケ悪グナリソウナ回想オワリ
てか、走馬灯? 言い合いだけ高速でリフレインしたけど、よくケミがオーケーしたものだ。
「坊ちゃま、唸ってますが、後少しの辛抱です」
「う゛ー」と返すとクツワを口に嵌められている罪人に思える。
タオルですが。
本来は馬車の車窓から第二聖教会やギルド本部の巨大建造物が目立ちそびえ立つ。どちらも右手をごらーんくださーい的な観光名所となっている。田舎貴族がこっちに来て都会寄りの目くそ鼻くそな田舎できゃっきゃ言うんだろうな。
老舗ギルドは納品や金勘定の部署でない限り関わることは無いだろう。あと個人経営とか。興味は薄いが入学試験に出そうな最低限は覚えている。とりあえずこの町で一番でかい建物と記憶しとけば間違えない。
第二は確か、三年程前に完成したばかりの新築だ。未だに観光客と信者で混み合っている。季刊紙にはデートスポットだと罰あたりな事を書かれていたが、あの芸術的ステンドグラスは一生の内に見たいとは思う。
その願いは――
「着きましたよ」
停車。
その急激な揺れがなんか止め的になった。
ホワイトに意識が飛ぶ。
――危なかった。一瞬の記憶がない。気を張らねば……
俺は噛みしめていたタオルの乾いていそうな部分でヨダレを拭った。
「さ、背負いますよ」
席から起き上がると、ぐあんぐあんする。首で頭が支えきれてないのか頭が真っ直ぐ保つことが出来ないくて勝手に頭が斜める。
マジでダメな奴だ。
瞬間的には力が入るが、腕で支えきれない。よろける。
素直にケミの言葉に甘えると背中に体を預けた。
「おかえりなさいませ、ケミー様っ!」
「ああ、執事長、いいから。ベッドメイクよろしく」
「は、はいっ!」
爺さん執事の老齢な声。
重い目蓋を薄く開くと何処かへ向かった後らしく、その姿は無かった。
屋敷は自分の家、デネブの屋敷を見知っているからか既視感があるのと同時に違和感がある。一軒家、アパート、集合住宅、マンション記憶が混在する事の起因。
「壮麗のケミーがイイ様だな」
「相変わらず口が悪いなスノーヴ」
口が悪い中性的な見た目……中性多くね? 声と見た目で判断出来ないとか、この世界は見た目による個性がないのか? 中性的がむしろこの世界の個性で――
「おにーさまっ!」
ぐほってケミが聞いたことのない声を出してノックバックする。当然、俺にも衝撃が。等速直線運動とは関係ないが連鎖して第三の作用反作用ぽく横にスライドして世界は斜めに。
柔い硬い場所に側頭がぶつかるとぐほって声がした。
これが俗に言うピタゴラ連鎖である。
偶然にも上向きになっていたのですぐ目の前に顔があった。口が悪いスノーヴはなんとも言い表し難い表情をしていたが、距離感的にみぞおちやろうなぁー。骨的感覚があったし。
「シリカは、寂しゅうございました」
寂しゅうございましたより気にはなりませんか? この状況。目に入らない感じ?
少女に抱き着かれているケミはおぶっていたので両足を抱えられ、背中はみぞおちの人に支えられている。
なんだこれ。
他観的に見るまでもなく、なんだこれ。
誰かに見られたらどう思う――若い執事が目を背け何処かへ行ってしまった。確実に一瞬目があったのですが、曲がり角だから引き返してバレないと思いましたか?
あー、腰が下がるぅ。
皆はきっと夏休みだろ的な理由で書きましたが、
息抜きなので毎日更新は一旦終了です
ここからは普段書いてるヤツが書けなくなったり、病的な人が書きたくなったら更新します
続きが気になる方は感想欄になんか書いて頂ければ、こっち更新するモチベーションになるかもしれないこともなきにしもあらず……息抜きだから多少はね?




