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祖父母の家にお邪魔する際、どんな歓迎をするのかは地域性が大いにある。田舎の場合は都会で体験出来ない事をと、都会では名所巡りとかになるのだろうね。それが成立するのは一度や二度で、三度目以降は贅沢にも飽きるのだから人間の業は厄介である。
仏教徒でなくても業って使いたくならない?
かっこうと言えばかかっこうと返す信号機? のように覚えたての言葉を使いたい年頃なのです。
本日はそーんな気分。
「おー父上? 何故、僕は膝の上にいるのでしょうか?」
「家族のスキンシップに決まっているだろう?」
当たり前のように言ってのけますが、父子のスキンシップといえば、さわやかスポーツ系と相場が決まっているハズ。俺はインドア派だけどもこのディープな密着スキンシップよりはマシだ。やはり近い内に意識改革をせねばならない。普通の同年代は誰も見ていなくても嫌がるに決まっている。現に嫌。年並のまあまあな体重で父親の膝に乗るのは忍びないのも足さる。髭痛いから擦らないで欲しい。
食事前の家族団らんは――
「後二分で交代だから」
きっちり十分行われる。タイムキーパー止めて父上加速するから。苦しい寄りで暑苦しい。髭痛い。
母はまばたきもせずに時計を見続ける。これがうちら家族の儀式である。他人に見せられん。
「お母上様? そのー、時間を分毎に言うのを止めていただけないかと……」
「話しかけないで、ズレるから。あと、母上ではなく、ママと呼びなさいと言っているでしょ?」
ズレるとしたら時計が壊れている。口数多い方が集中力欠いてズレません?
母は病的にきっちりとしていないと許せない性格で時間にも正確で、愛用する金時計を持ち歩く。
口調も酷くクールで冷たい印象があるかもしれないが、そんな見た目とは裏腹に溺愛されている。
母と同じ椅子に座らされたら最後、永遠に撫で続けられる。この後その時間が控えているので結構億劫なんですが、口には出しません。大人な対応です。スキンシップ下手でありたまに単発的な質問されるのですが、その間も将来ハゲるのではないかというくらい撫でられる。
ルールが定められる以前私生活を脅かし始めるという実害も出てきて、これはマズいと時間制限を提案し勝ち取った。
それが現在の形である。
そりゃ対面で行儀良く座っている妹も軽蔑する冷たい視線になりますわ。
妹の目これが一番しんどい。
「妹も膝に乗せてあげませんか?」と始まってすぐに空いている方(タイムキーパー)に空気に耐え兼ねて伺うと、父は満更でもないとチラッと妹を見ます。無視されます。妹はパパ臭い、兄キライ(と口に出すが実際のところそうでもない事を願っている)の年頃だ。
口に出すから厄介で、パパに蓄積されていく。
憂さ晴らしかのように俺に返ってくる。
母は母で時間が狂うのが嫌らしく計っている最中は干渉されたくないのだ。
母に寄り添っていた妹も必然と行儀良く座るようになるわなぁー。
「やっぱり、男同士だよな!」
あっ、それ駄目な奴。
「男同士って良く使いますけど、それは私への当て付けですか? 私に息子を愛する権利は無いとおっしゃってます? それとも、女は女同士やらなければならないという道理はあるのでしょうか? 私から愛息子を剥奪するおつもりでしょうか? でしたらこちらにも考えがあります。ベガ、どこか遠くで二人で暮らしませんか?」
溺愛ではなく、病気でした。病気です(断定)。
普段は普通の人なんです。ほーんとに良妻賢母なんですよ。周りが羨む良妻賢母なんです。いい人貰ったわねーって近所のおばちゃんが誉めるレベルなんです。ただ、ちょーっと息子が関わると発作が、持病の発作が起こるだけなんですぅ。
妹ヘルプと見ましたが冷ややかな目でこちらを見続けます。
夫婦仲も悪化|(主に母の病気が進行)し、妹の高感度下がる。なんて悪循環。両親共に頭が固いので早急な変化は難しいですが、徐々に改善させるのを今後の命題としましょう。
要するに、歓迎はする側も受ける側も喜ぶ、喜ばせるリアクションが必要なんです。プロレスのように協力するのが大切である。
実家に帰るのも体に気遣ったりうざがったりせず素直に受けとる気持ちが大事って話だと思う。
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うんまいっ!
やっぱ、飯ッすわー。飯。実家に返って好きなもの並べ立てくれるの最高っすわ。異世界は娯楽が溢れていても、人間体は飯で出来てる。初心忘るるべからずってやつさ。実家の飯は異世界方式の最高の歓迎なんだろうね。
よく分からない肉の煮こみ。よく分からない野菜スープ。よく分からないパンぽい主食。
――名前と毒性調べないで食うの怖くない? 別人の彼は牡蠣という名の貝類に当たってるらしく、激痛の記憶が鮮烈に残って食中毒怖い。寄生虫とかヤバくね? 異世界転移者が普通に物食えるの頭おかしいわ。主人公補正? 熱耐性の菌とかあって焼けば大丈夫理論通用しないんですよ? 食うのに覚悟がいるっしょ? か下手に鑑定能力があって食べれませんで全滅とか笑えん。
記憶が発現したばかりの頃、安全を期して黒焼を食べていた頃が懐かしい。黒焼生活はしんどかった。黒焼以上に安全な食べ方を知らんし。流石にまずいとカピカピ燻製生活に文明の時代は進みまして、水で戻すという文明人的食べ方に進化したのでした。
始めは水でさえ怖くて勇気が要りました。
冷静に考えてみれば、死ぬことに直結はしないんですよね。遺伝子的に。日本人が海草を消化できるのに対して内陸部の異人さんが消化出来ないみたいな話。先祖の遺伝子に感謝ですね。
料理人雇ってるって話しましたっけ? まぁいるんですけど。食べない子供に対して食べさせる工夫を凝らす訳じゃないですか? 食欲を駆り立てる良い匂いをさせるんですよ。相手からすれば食べないじゃないですか、食べられなかったんだけどね。黒焼は食べるが自分の料理は食べない。どうして私の料理を食べてくれない、私に悪い所があるなら直しますと泣かれましたよ。そう言われても、食べらない。申し訳ないが拒絶反応が起こる訳です。やっとここで冷静に戻って俺ヤバくね? となりました。本当に遅かったけど。そこから料理人と私の熱い共闘が始まります。それが新たな時代が幕を開けとなるのでした。スペクタクル超大作なみに長い試行錯誤を繰り返して奸物の時代が始まります。
以来料理人は自分向けのスペシャリストとなりまして、奸物、燻製のレベルは国一番だと断言できる。
異世界知識の自然乾燥や熱風乾燥、フリーズドライなんかアイディア出しをして実行した。燻製チップとか試しました。日々の向上は努力が反映されて苦労しただけ楽しかった。
美味しい食卓は先人の苦労の上に成り立っていると実感する。
「んー。やっぱり、美味しいですねー。帰ってきたって感じがします」
俺の実家なんだけど。雇われ組二人下席の話し声がこっちまで聞こえる。
「本当に美味しいですよね。私達までご一緒に良かったのでしょうか? 折角の家族団らんなのに……」
「あー、いいのいいの。ほら、皆家族みたいなものじゃん?」
お前が答えるんかいっ! 声を微妙に張らないと届かないのが、もどかしい。妹越しに注意出来ないからって……
「聞いて下さいよ。ベガ坊ちゃまって倉庫にいる間の乾パン生活だったんですよ? 付き合わされるこっちの身にもなって下さいよー。一入に美味しいですよ」
……美味しく食べるのなら許そう。




