九十六話 混乱しました!
当たり屋作戦の結果を見た大卓姉弟とフォリスの3人はその成果を確認する。
「ちょっと甘酸っぱい雰囲気になったね。」
「やっぱりこーゆーのは触れ合うのが一番、次点でお色気ね!」
「お色気を出すための作戦じゃないのか…?
…悪くは無かったけど、効果的って言うには微妙だな。」
「むっ、同意だけど意見も言わない人に一方的に批評を受けるのは不愉快極まりないね。そう言う進矢はなんかあるの?」
主要部分が次点で良いのだろうかと首をかしげる進矢だが、今回に関してはやや弱めだが好感触。その認識は共通しているようだ。
ややムッとしながら彩弓が尋ねると、進矢が饒舌に語り始めた。
「ふむ、そこまで言うなら答えてやる。あくまでもラッキースケベを語るなら肉体的接触の他に視覚的なハプニングもあってしかるべきだと思う。確かに今のは接触の内に入るんだろうけど、ただただ触れただけ。もっと過激な触れ方、もとい本来普通の関係であれば触れてはいけないはずの部位に触れるべきだし、マノアにはもっとあられもない姿を見せるべきだと思う。
端的に言えばタブー度が足りない。タブー度が高くなればなるほど過激かつ魅力的なラッキースケベになると言えると言っても過言ではない。その辺りはセシカさんも体を張ると証言してくれてるし、もっとそこを積極的に利用していくべきだ。俺はそう思う。」
「進矢が、変態になっちまっただ…」
「不良の方がまだマシだね…」
彩弓とフォリスはドン引きする。セシカももしいればよく分からないなりに引いていただろう。
…マノアはムッツリ気味なので分からないながらも内心どこかで同意するかもしれない。なんてフォリスはちょっと考える。
「ええいうるさい! 作戦の方向性を示してやったんだろうがむしろありがたく思いやがれ!
っていうか姉ちゃん俺よりどぎつい思想持ってたよな!? 姉ちゃんなら今の10倍は語れるよな!?」
「そうなの!?」
「今のフォリスちゃんが私の片鱗に触れるには、まだまだ若すぎるよ…流石に10倍は誇張だけど。」
フォリスは底知れぬ姉の内に眠る獣のおぞましさの欠片を体感する。
しかしすぐに持ち直し、進矢の意見を踏まえた上で次の作戦を考える。
「…ウチがセシカさんのスカートめくりをするって言うのはどう? シンヤは後から出てくる母親役お願い。」
「貴族に対してソレは首が飛ばない…?」
「母親俺かよ! そこは姉ちゃんにしとけ!」
二者二様のツッコミを受けたフォリスは冷静に返す。
「シンヤの服は落ち着いた色をしてるから、清楚系のお姉さんみたいな服を着てるアユミより母親役が合うんだよ。
それと、今のセシカさんは平民の格好をしてるから貴族だとは思われ辛い。当の本人が体を張るって言ってるんだから根に持ったり誰かに告げ口するようなことは無いだろうし、ウチかシンヤの顔を見たら作戦の内だって気付くはず。」
「おぉう、予想以上に打算的。そこまで計算してるなら後はゴーだね。この作戦はとにかく弾数勝負みたいなところもあるから。」
「そうなると、場合によっては着替える必要が出てくるかもな…一連のイタズラが同一犯だって思われたら警戒されそうだし、確実に作戦に支障が出る。
作戦中に追加で服を買ってきた方が良いかもな。姉ちゃん、小遣いは残ってるか?」
「ちょっとはあるけど弟だからって一方的にたからせてたまるか! お前からも寄こせ!」
「じゃあウチのお金使っていいよ。前も言ったけど打ち上げしても余るくらいあるからね。」
「「………」」
ポンと渡されたお金を見て、大人気ないやり取りをしていた大卓姉弟が黙り込む。
年下の少女から金銭を恵まれているようで居たたまれない気持ちになってしまったのだ。テンションもガックリと落ちる。
「ごめん、フォリスちゃん。後で絶対返すから。」
「ああ、俺もちゃんと返すよ…」
「気持ちはわかるけど返さなくて良いよ。そもそも、何回も言うけど精神的にはウチの方が年上なんだからね?」
「「はい…」」
後日、良心の呵責に耐えかねた2人がフォリスに服の代金を渡すのは別の話である。
「……」
「いつまでもそんな顔をしなくて良いわ、許すって言ってるじゃない。マノアは何も悪くないのだし。」
「そうですけど…」
今日は本当に、妙な一日だ。
セシカさんが子供からぶつかられたと思ったら、すれ違った男の子からスカートめくりされて…スカートの中を見てしまったあの時は本当に人生が終わったかと思ったけど、セシカさんは許してくれた。
今は近くにあったレストランで昼食を済ませ、食休み中だ。気まずい空気はまだ漂ってるけど、確かにいつまでもぎこちないままではいられない。
「頑張って切り替えて。それより、これからどこに行くかを話し合いましょう?」
「わかりました。
けど、本当にどこに行きますか? 服もアクセサリーも少し前に見たばかりですし…」
「私は何度行っても飽きないけど?」
「どうしてですか?」
「…その度に新しいマノアが見られるから?」
「あはは…キザですね。彼女が出来た時に言ってあげてください。」
思わず苦笑し、冗談を返す。
そういうのは普通彼氏が彼女に対して言う台詞だ。今までその手の逆転は何度か体感したけど、未だ違和感しかない。むしろ慣れるのだろうか。
「……マノアの性別を変えれば、実質彼女に…」
「ちょっと!?」
暴論にもほどがある。
僕はもう性転換薬なんて使いたくないし、そもそも僕が女の子になったとしてもセシカさんの彼女にはなっていない。そもそも僕とセシカさんの関係って恋人とかじゃないし…
『じゃあ、結婚する?』
…不意に、薄暗い閉鎖された場所で言われたことを思い出した。
もしかしてあれは…助けが来ないどころか求める事すら出来ないという極限状態がセシカさんにそう言わせていたのではなく、そもそも彼女の本心なのだろうか。
…そんな虫のいい話が、あるのだろうか。だけど、今の僕は彼女よりも―――
「あっ!?」
なんて考え事をしていたその時。
そんな僕に罰が当たったのか、突然水が僕の服を濡らした。
「あ……」
コップを持って仰向けに倒れていた女の人が顔を上げて呆けている。
どうやら彼女が転んだ際、コップに入っていた水が僕にかかってしまったらしい。
〈ちょっと!? そっちじゃないよね!?〉
誰かが小声で何かを言ってる気がしたけど、それっぽい人物は居ないし内容も聞き取れなかったので気のせいなのだろう。
「ご、ごめんなさい!」
「いえ、僕は大丈夫です…貴女こそ、お怪我はありませんか?」
慌てて立ち上がり、頭を下げる女性に気遣いの言葉をかける。
かなり派手に転んだようなので、膝をすりむいたりしていないか気になる。僕は水を被っただけで怪我はしてないし、どちらかというと彼女の方が心配だ。
「大丈夫です! ありがとうございます!」
「………」
「…セシカさん?」
「…何?」
再び頭を下げる女性に気を取られていたが、セシカさんがどこかをじっと見ていたことに気付いた。
同じ方向を見ても何もない。他のテーブルに座るお客さんが静かに食事しているくらいだ。
「どこかを見ていたようだったので…」
「何でもないわ。」
と言って、彼女は何故か水が入ったコップを手にする。
少しの間それをじっと見ると、セシカさんは意を決したようにコップを思い切り傾けた。
「…っ!」
「セシカさん!?」
当然コップに入っていた水はセシカさんの服にかかり、水浸しになる。
突然の謎の行動に、僕はおろか頭を下げていた女性も呆然と彼女を見ていた。
「………お互い濡れちゃったし、一緒に服を買いに行きましょうか。」
「は、はい…」
笑顔すら浮かべてそう言うセシカさんに、僕は何も言えなかった。
こうして僕は、混乱を残したまま会計を済ませて服屋に行った。
フォリス「セシカさん、リカバリーが力技過ぎない…?」
進矢「俺それよりさっきの視線が怖かったんだけど。」
彩弓(やらかしたっ…! 私としたことが…! けど濡れ濡れの男の娘も悪くない。)




