九十五話 図られました!
某日。具体的には次の休日。
大卓姉弟、セシカ、フォリスの4人は早朝から宿の一室に集まっていた。
「おお、フォリスちゃん良いね!」
「アユミも良い感じだよ!」
彩弓、フォリスはお互いの服装を見せ合い、盛り上がっている。今回の作戦に備えて変装しているのだ。
彩弓は普段の動きやすそうな長袖長ズボンとは打って変わって長い白のスカート、シャツの上に明るいピンクのカーディガンと、女性らしい清楚感がある物を着ている。
反対に、フォリスは青い長いズボンに濃い緑のシャツと地味な色で統一し、ボーイッシュ感を出していた。子供特有の中性的な感じも相まって男の子に見えなくもない。
後は2人とも帽子を被れば完成。普段の彼女達を知る者なら顔を覗き込まれない限り正体がバレることはないだろう。
「……あのさ。俺絶対似合ってないと思うんだけど。」
そんな和気藹々とした雰囲気を不機嫌な声でぶち壊し、割って入ったのは進矢だった。
彩弓とフォリスがしているように、もちろん進矢も変装している。普段なら絶対にしない格好だ。
「…マノア程じゃない、とだけ言っておくわ。」
「それ言っちゃったら…」
「あんな逸材他に居ないでしょ。これでも頑張ってるし通るって。」
「ふざけんなよぉ…顔見られたら一発だろぉ…」
進矢が着ているのは丈の長い落ち着いた紺のワンピース。どこで調達したのか、長い黒のウィッグまで装着している。
なお、本人が気にしている顔については姉譲り故か特徴のない顔故か見られてもそんなに違和感は無い。即座にバレることは無いだろう。
…本人にとってそれがありがたいかどうかはともかく。
「まあまあ、女装に関してはまだ落ち着いてる方でしょ? フリフリのドレスとか着せられてる訳じゃないんだし。」
「そうよ、マノアはメイド服だって着こなして見せたわ。」
「「え?」」
「…そう言えば、先輩はセシカさんの家でメイドしてたことあったんだったね。」
固まる姉弟と記憶を掘り起こしたフォリス。次に動いたのは彩弓だった。顔にはありありと興味津々の4文字が浮かんでいるようだった。
「それ今度見てみたい! ねえ、その服持って来れる?」
「良いわ。ついでにマノアが家で働いてた時一緒に買った服も持ってくるから、楽しみにしてて。」
「おおーっ! もしかしたら今回のお礼ってことで着てもらえるかな!?」
「かもしれないわね、マノアの事だからきっと顔を赤くしながら着てくれるわ。」
「俄然やる気が出てきた! 絶対マノア君を元に戻す!」
「単純だなぁ…」
「姉ちゃんチョロいとこあるから、何か頼みたかったらご褒美を目の前に吊り下げてやるとやる気出すぞ。」
「こらそこ! 実の姉にチョロいなんて言うんじゃないよ!」
興奮する彩弓に刺さる冷たい視線も振り払われる。
こうしてもう1段階ギアを上げた彩弓と、その愉快な仲間たちは作戦の遂行に出向いた。
ウチとオータク姉弟は物陰からマノア先輩とセシカさんを観察している。
「こんな作戦で上手くいくのかな…」
かぶり慣れない帽子をかぶり直して改めて思う。こんなことで本当に先輩を正気に戻せるのかと。
「お悩み相談に定評がある私の作戦だよ? 信用しても良いと思うけど。」
「今回は流石にちょっと…なあ?」
「うん…」
アユミが提案したのはラッキースケベ作戦。いくら朴念仁な先輩でも、エッチなハプニングがあれば意識せざるを得ないし、ドキッとするだろうという魂胆だ。そのはずみで“魅了”を解くつもりらしい。
ウチ達が変装し、物陰に隠れているのはその仕掛けを行う為。正直気は進まないけど、それは妙案を思いつけなかった自身への罰だと割り切る。
その哀れな被害者はセシカさん。このメンツでそれを任せられるのはセシカさんしかいなかった。というかウチかアユミが選ばれようものならセシカさんから恋敵認定されかねない。それは誰も望んでいないので素直に彼女を選出した。
「シャラップ、今の状況だったらこれ以上に無いくらいの適案でしょうが。
それより進矢、水かけ作戦用のひしゃくと桶は?」
「んなもんねーよ。って言うかこんな真昼間に水撒きなんてするか。」
「チッ、セシカさんをビチャビチャのスケスケにしてドキッとさせた後にお着替えタイムで更にドキッとさせる必殺のコンボが…」
「そのコンボ、後半破綻してるよ。あの2人結構服選び行ってるから…」
「くぅっ! 他にデートスポットは無かったの!? マノア君はともかくセシカさんは知っててよ!」
「この世界のデートスポットってそんくらいなんじゃね? ゲーセンとかカラオケとかみたいな遊べるところなんて無いし。」
「夜景とか天体観測とかは無いのかッ…!」
「この世界夜に町から出たら十中八九魔物に襲われるだろ。しかも街見てもほぼ明かり点いてないし、望遠鏡とか無いだろうし。」
「非情な現実! これが異世界かっ!」
「…一応言っておくと、望遠鏡みたいな魔道具はあると思うよ。それより良いの? 何もしなくて。」
「おっとそうだった。進矢、当たり屋よろしく。」
「はいはい…ってそれならフォリスの方が良いんじゃないか? 少なくとも俺達よりは動きやすいだろ。」
「小さい子になんて事させようとしてるの!?」
「すげー真っ当な感じで怒られた…信じられるか? これラッキースケベを意図的に起こそうとしてる人間の台詞なんだぜ?」
「そもそも当たり屋って子供の方が多いんじゃない? 同情を引きやすいし、身寄りのない子は他に稼げる手段が無いとかで。」
「ええい止めい止めい! 空気を重苦しくしようとするんじゃないよ! そこまで言うならフォリスちゃんよろ!」
「はいはーい。フォリス、行きまーす!」
「「なっつ。」」
多分2人は世代じゃないんだろうけど、懐かしいという感想が出たあたりこのネタの古さと有名度を感じさせる。
少し下がり、走って物陰から出てセシカさんに突進を掛ける。
ドン!
「きゃっ…!?」
「ごめんよー!」
振り向きながら出来るだけ少年寄りにした声を掛け、また次の物陰へ。
確認したところセシカさんはしっかりマノア先輩の方に倒れ込み、密着していた。我ながらいい仕事だ。
セシカさんと先輩の死角となるように移動し、オータク姉弟の元へ戻る。
「どうだった?」
「フォリスちゃんグッジョブ!」
「あの2人ちょっと良い感じになってたぞ。ほら、見てみろよ。」
「いたた…」
「大丈夫ですか? セシカさん。」
「ええ、大丈夫。」
突然走ってきた男の子がセシカさんにぶつかり、マノアに寄りかかってきた。
彼女は腕をさすり、そちらを見ているからか…僕にくっついていることには気づいていないようだった。
「…セシカさん? その…」
「あ、ご、ごめんなさい。」
なんだか拒絶するみたいで、離れろなんて言えずにいるとそれを察してか飛びのくセシカさん。
彼女の頬は少し赤い。僕もちょっと赤くなってる自覚がある。
(い、いけない。なにを照れているんだ僕は。レーサさんの事が好きなんじゃないのか?)
熱を帯びる頬を冷ますように頭を振り、自分に言い聞かせる。
ほんのりと伝わる体温と、かすかに漂ってきた女性特有の甘い香りを頭から追い出した僕はセシカさんに聞いた。
「お金とか取られてないですよね?」
「いえ、取られてないわ。本当にただぶつかっちゃっただけみたい。」
「そうですか、良かった…」
そこまで聞いて一安心。ついでに乱れた心も整える。
「では、行きましょうか。」
「ええ。」
さっきは不覚を取ったけど、もう絶対ドキドキしない。
それは好意を寄せていると自覚がある相手に申し訳ないというのもあるけど…相手が貴族だから。彼女とは身分が違う。
寂しい話だけど、例え想い合っていても結ばれることは無いんだろう。
最近ある小説を読み始めたんですが。
カーテン越しの朝日で目覚めて小説の続きが気になって眠れず、結果睡眠時間が削られるってコンボ食らって寝不足です。
遮光性が高いカーテンでも買った方が良いんでしょうか…けど小説買ってるからお金はあんまり使いたくないし…うーむ。




