九十話 はしゃぎました!
なんかむっちゃ空きましたけど投稿。今回はただひたすらマノア君がイチャつきにかかってます。
「レーサさん! この服、良いんじゃないですか!?」
「お、おう…そうだな。」
今日はお店が休みの日。レーサさんも今日は特に仕事を入れていないということだったので、2人で出掛けることにした。今いるのは服屋だ。
彼女と一緒に居るだけでなんだかウキウキする。話しかけて、答えられるとすごく嬉しい。
だから僕は積極的にレーサさんに話しかけ、レーサさんの言葉を引き出し続けている。
楽しい。すごく。
こんなに楽しいのは、嬉しいのはいつ以来だろう。なんて疑問が浮かぶけど、その答えに触れることなくまた彼女に話しかける。
「試着してみてくださいよ! このスカートと合わせるととても良さそうです!」
「あ、ああ、ありがとう。着てみるよ。」
レーサさんは目を逸らしながら僕が持ってきた服を手に取る。
「…どうしたんですか? 今日はちょっと様子がおかしいような…」
ここ最近、特に今日のレーサさんは様子がおかしい気がする。
僕がレーサさんを好きになった次の…そのまた次の日だっただろうか。
その日から彼女は、僕と話す時に妙に目線を逸らしたりどもったりすることが多くなった。
もしかして体調が優れないのだろうか。もしそうなら今日は…
「い、いや…だってこう、マノアって話す時はもっと受け身だったって言うかさ…ここまでガンガン話しかけてくることってあんまり無かっただろ?
だからちょっと面食らってるだけだ。それだけ。な?」
「そうですか?」
そう言われてみるとそんな気もしてくる。
果たしてそれは正しく記憶をたどったからそう思ったのか、彼女に言われたからそう思っただけなのか。それは些細な問題だった。
体調不良じゃないならそれでいい。気兼ねなく一緒に遊びに行ける。
「僕がちょっと積極的でも良いじゃないですか! 新鮮ですよね!」
恋人同士は新しい自分を見せ合い、その愛情を深めることがあると聞いたことがある。
だからこうも話しかけている訳ではないが、結果それに繋がっているのなら御の字だ。
「そう…だな?
まあとにかく、オレは試着するから、試着室の前で待っててくれ。」
「はい!」
今選んだ服がどれだけ似合うのか。どんな新しいレーサさんが見られるのか。
心の底から楽しみにして、彼女がカーテンを開くのを待った。
「………やべぇ。」
未購入の服を壁に掛け、カーテンを閉めるとそんな言葉が口から漏れ出た。
マノアの様子がおかしい理由が、恋。
しかも自分への。オータク姉弟からのリサーチの結果だし、そう考えてみると今のマノアの様子に当てはまるので両者の勘違いと言う訳でもないだろう。
オレ自身もマノアを憎からず思っている…というか友人としては普通に好きなのだが、恋愛対象としてはどうなのかと言われると首をかしげざるを得ない。
ただ、マノアから好意を向けられていると思うと…なんだか落ち着かない。それも、悪い意味ではなく。
確かにマノアは好きだし、可愛い奴だとは思っている。思ってはいるが…
…あの笑顔の破壊力は、今までの比じゃない。
これまでに無いほど心の奥の奥、そこから湧き出る笑顔が今まで通りに見える訳が無い。
ましてやその理由が自分への好意。眩しすぎて直視すらできない。
今までしてなかったはずの意識も、少なからずしてしまうというものだ。
「レーサさん、まだかかりますか?」
「あ、ああ。悪い。もうちょっと待っててくれ。」
早く着替えなければと思い冷静さを取り戻し、服に手を掛ける。
こういうのも悪くない、と満足のような物をしている自分と、困惑する自分が同居している。
…相談事が増えてしまったとため息をつき、着替えを進めた。
「わぁ! その服可愛い!」
「レーサさん、こういうのも合うんですね!」
「攻めすぎたと思いましたけど…結構良いですね!」
初恋フィルターもあってか、レーサさんに着せた服は何でも似合っていた。
可大人っぽいコーディネーションもクールな感じの服も全て着こなしていた。素材が良いからだろう。
レーサさんは美人顔だけど、可愛い服も似合う。本人は恥ずかしそうだったけど、他の可愛い服も見てみたい。
…けど、あんまり着せ替えても迷惑かな? 確かにいろんなレーサさんを見たいけど、それで彼女が困るのは嫌だ。
「疲れちゃいましたか?」
「まあな…いや、嫌ではなかったんだけどさ。ちょっと休憩しないか?」
「そうですね、僕もはしゃぎ疲れちゃいました。」
「終始テンション高かったな…お前もこういうことあるんだな。」
「…嫌でしたか?」
「嫌じゃない、ただちょっと意外だっただけだ。
今までオレが見てきたマノアは、いつもどこか落ち着いてて…慌てても最低限の理性は働かせてるって感じだったからな。
純粋に楽しそうなお前を見て、ちょっと安心した。ここまで楽しそうなマノアは見たことが無かったからな。」
…事実、今はこれまでのどの瞬間よりも楽しい。両親が亡くなってから、と前置きが付くけど。
あの日以降ずっと楽しさを感じたことが無かったわけではない。
もちろん辛い時が無かったわけではなかったけど色々なお客さんの為に働いて働き甲斐は感じていたし、出会えた友人と一緒に出掛けて詰まらないと思ったわけではなかった。
それなのにこんなに楽しいのは…やっぱり、恋のおかげなのだろうか。
言葉にするとクサいけど、実際にそうなのだから仕方ない。
「ふふ、そうですね。こんな僕、今まで見せたことありませんでしたね。
けど、今の僕は…レーサさんは、好きですか? それとも…」
「もちろん、好きだ。」
「……!」
ドキリ、と心臓が跳ねる。
もちろんそういう意味で言ったわけじゃないことは理解していた。そこがもどかしいけどとても嬉しい。
…今まで見せたことの無い一面を、好きだと言ってもらえる。それがとても嬉しかった。
もっと色々な自分を見せても良いのだと、許された気すらしてくる。
「……ところで、お前は良いのか?」
「えへへへ…え?」
だらしなく笑う僕に、謎の言葉をかけてきた。
「何がですか?」
「いや、お前の服だよ。
なんか出掛ける時着てる服似てるってか同じみたいな服しか着てこないだろ?」
「あぁ、どうせあんまりお休みないので、私服もそんなに着ないんですよね。お店の時は制服着ますし。
だからそう多く持つ必要は無いのかなって思っていて。あ、もちろん毎回洗濯はしてますからね?」
「そこは疑ってないけどさ…この際だ、お前も買ってけ。金はあるんだろ?」
「ある程度は持って来てますけど…良いんですか?」
「良いも何も、オレがお前に服を選んでやりたいんだ。オレだって一応女だからな、可愛い奴を着せ替えてみたいって気持ちくらいはある。」
「一応じゃありません! レーサさんは立派な一人の女性です!」
「お、おう…ありがとな?
けどオレ魔物相手に剣振り回してるしなぁ…」
「戦ってても戦ってなくても関係ありません! 女の子は女の子ですし綺麗な人は綺麗なんです!
大体、レーサさんは女性だという自覚が少なすぎます! お淑やかになれとは言いませんが、男性に対する接し方をしっかり考えてください!」
「ん? なんでオレ説教されてんの…?」
「レーサさんは何かと男性へのボディータッチが多すぎるんですよ! 背中を叩くのはまあいいですけど、この前後ろから地図を覗き込んでた時なんて男の狩人さんに胸が当たってたじゃないですか! あの人鼻の下伸ばしてましたよ!?」
「マジか!?」
「マジです! 少しは気を付けてくださいよ! それだけじゃなくてよく足をテーブルに上げてましたけど―――」
この後、何故か僕の説教は止まらなかった。
ある時嫌われたんじゃないかと気付いて必死に頭を下げたけど、気にしてないし忠告として受け取っておくと言われて落ち着いた。やっぱりレーサさんは良い人だ。




