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シーサイドへようこそ!  作者: じりゅー
第八章 『マノア君の初恋事情!』
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九十一話 ちょっと悩んだ!?

そう言えばマノア君なんかの混血でしたね。

つまり彼も人外男の娘…!?

 

「ただいま!」


 元気に玄関を開けるマノア。余程レーサとのお出かけが楽しかったのだろう、心地よい疲労と充実感を感じさせる声だった。


「お帰り先輩、楽しそうだね。」


「うん、楽しかった! あんなに楽しかったのはいつぶりだったかなって思うくらい!」


「……」


 見たことも無いほど楽し気なマノアを見て、フォリスはふと思った。

 仮にマノアがおかしいのは淫魔のせいだとして、マノアを元に戻すのは正しい事なのだろうかと。

 きっかけはともかく恋は恋なのだ。

 例えそれが淫魔の術や惚れ薬でも、それ以外の理由…例えば長年共に過ごしたとか、窮地を救われたとか、そういったきっかけで抱いた恋心となんの変わりも無いのではないのではないかと。

 結局のところ倫理観に反していると思われているのは指向性の有無。薬を使って襲うとかならともかく、そうして抱いた気持ちが本物ならそれもまた運命と言っても過言ではないのではないか。

 無論、彼女は彼を懸命に振り向かせようと努力している人がいることは知っている。しかし、少なくとも今のフォリスはこんなに楽しそうなマノアから楽しみの一つ…というかその主要部分を奪うのは気が引けた。

 …実際、彼は頑張ってきた。

 唐突に両親を亡くし、苦労しながらも今へとたどり着き、今もまた店を経営しながら苦労している。

 そんな彼にご褒美が、幸せがあっても良いのではないか。それを享受する資格は充分にあるのではないか。


「…フォリス?」


「……どうしたの先輩?」


「急に黙っちゃったから、どうしたのかなって…大丈夫? もしかして体調悪いとか?」


「ううん、平気だよ。」


 …葛藤しても仕方が無い。事は進み続けている。

 それに、もしマノア本人がレーサへの恋心が作られた物だと知ればどう思うか。それが最早手遅れの段階で知られてしまえばどうなってしまうか。

 それこそ誰も幸せにならなくなってしまうかもしれない。だからこそ――


「…先輩、もしかしてレーサさんと付き合ってたりする?」


「えぇっ!? ぼ、僕が? レーサさんと?

 そんな訳無いでしょ? まさか、レーサさんが良いって言ってくれるとは限らないし…」


「じゃあさ、もし告白するならもっと後の方が良いよ。

 お店がもっと安定して、いっぱいお金を貯めて…無理なく高いアクセサリーを買えるようになるとか、子供を充分育てて行けるとか、そういう大きな目標を立てて、達成してからとか。」


 ――出来るだけ遅延させる。それまでには自分たちで淫魔のことを何とか出来ると信じて。


「う、うん! そうだね! それが責任とか、甲斐性とかって奴だよね!」


 …掲げようとしている目標が最早結婚間近の目標であることは棚に置いておくとして、マノアは丸め込まれた。

 フォリスは心の中で謝ってから、これからの方針を思い出していた。







「やる事がありません!」


「なんだ急に。」


 日を改めて集まった4人の会議は、彩弓の手によって早速頓挫する。


「あるでしょう、聞き込みとか…」


「そうそれ! その聞き込みが出来ないのでやる事がないんです!」


「……どういうこと? 姉ちゃん。」


 わざとかと疑うほど下手すぎる姉の説明をかみ砕くべく訊く弟、進矢。


「どういうことも何も、聞き込みってどこでするべきだと思う?」


「……現場か。」


「そう、その現場!

 そしてその現場には現在誰も居ない! 何故なら今日シーサイドは休みだから!」


 彼は返ってきた姉の質問により全てを察する。

 マノアが術を掛けられた時の状況や店の状態について知りたいのであれば、当然シーサイドの客に訊くのが一番だ。

 しかし今日は休みの日。マノアはレーサと共に出掛けてしまっているし、質問どころでは無いだろう。むしろ邪魔したら馬に蹴られてしまいそうだった。

 ちなみにフォリスはマノアが術を掛けられた際厨房に居たので分からない。そもそも術を掛けられたことを知ったのが姉弟に指摘されてからだったので知る由も無かったのだろう。まさか業務中ずっと彼の事を見ている訳でもないし。


「常連の内何人かは事件当日に居合わせたはずだし、もしかしたらマノア君に術が掛けられた瞬間を見た人が居るかもしれない。」


「そして、犯人は現場に戻る…もしかするとまた淫魔が店に来るかもしれないって事か。」


「魅了に失敗したならあり得る可能性ね。

 …魅了の掛け直しなら私に頼めないかしら。」


「ぶれないなこの人。」


「セシカさん、振り向かせるなら自力の方が良いと思うよ?」


「どうして?」


「もし、それで付き合うまでは上手くいったとしても…幸せに暮らしてる時に突然術が解けて、それで冷めちゃうのって嫌じゃない?」


「最悪そのまま破局して二度と関係の修復が見込めなくなるかも…」


「………止めておくわ。やっぱりそんなものに頼っちゃだめね。自分に自信が無いって言ってるようなものだもの。」


「あ、手のひら返した。ブレブレだった。」


 フォリスと彩弓の脅しで手のひらを返したセシカに容赦なくツッコミを入れる進矢。

 そんなツッコミに耳を傾けず、セシカは続けた。


「…これからの方針がまとまったわね。

 シーサイドで常連さんに聞き込みをして、もし淫魔がまた魅了しようとしてた場合は止める。」


「そして、淫魔の術を解く方法を教えてもらうか直接解いてもらうと。」


「…なら、最初から術を解く方法を調べてみるのもありかもな。

 今日は術の解除方法を当たってみるか。なんだ、やる事あるじゃん姉ちゃん。」


「うるさいな、進矢だって思いつきもしなかったくせに。」


「………」


「…フォリス、どうしたの?」


 会話を続ける2人を他所に突然黙り込むフォリス。

 何事かとセシカが問うと、今更感あふれる答えが返ってきた。


「いや、前もなんだけど…なんか、こうして無償で先輩の事で手伝ってもらってるの悪いなって思って…

 これが終わったら何か報酬とか用意した方が良いのかなって…」


「…それもそうね。」


 言わんとすることは分かるセシカ。貸しをかけっぱなしというのもあまり気分が良いものではない。

 返報性の心理である。


「あ、他人事みたいに言ってるけどセシカさんもだよ?」


「私も?

 …なら、マノアを貸して。」


「それは先輩が拒否しそうだから…い、一日デート権とか? もちろん先輩の合意を得た上で。」


「おっとフォリスちゃん、水臭いじゃないか。

 報酬は要らねぇ、取っときな。」


 フォリスとセシカの会話を聞いていた彩弓も加わる。微妙に頑張って出した低音の声で。


「照れくさいからってかっこつけんなよ。

 俺も姉ちゃんもさ、こっちの世界だとフォリスやセシカさんみたいな友達が居ないから結構心細いんだ。

 仲良くしてもらってるだけで充分だ、いつもありがとな。」


「ばっかやろーう! 別に照れてねーし! そんなんじゃねーし!

 けど仲良くしてくれてるのはホントありがとうフォリスちゃん!」


 素直に感謝する進矢(弟)と、最早わざとらしい照れ隠し感を出しながら感謝の意を述べる彩弓(姉)。

 姉弟でここまで違うものかと思いながらも減らない罪悪感に駆られて言葉を続ける。


「…そうは言うけど、流石にお友達料だけで手伝ってもらうのは気が引けるかな。

 今度何か奢るよ、ウチあんまり物を買わないからお金が余っちゃってて…」


「年下に奢ってもらうのはちょっと気が…」


「精神年齢では数倍上取ってるけど?」


「そういえばそうだった!」


「フォリスちゃん転生者って設定忘れがちになるよね…年の割に利発ってことで納得しちゃって。」


「第一印象がそれだしな。」


「せっかくだしパーティーというのはどう? お金が足りなければ私からも出すわ。」


「良い良い良い! ただでさえこの前誘拐の件の謝礼貰って持て余してるから! それくらい余裕で払えるから!」


 パーティーの件はともかく、更なる資金援助はフォリスの心理的にも止めてもらいたいしそもそもフォリスも返礼の対象だ。彼女からもらってしまっては申し訳ない。

 ちなみに件の謝礼は彼女の前世の年収を倍にしても優に超えている。フォリス本人は誰にも言っていないが。


「なんなら先輩とレーサさんも誘っていいくらいだよ!」


「レーサは止めて。」


「別にレーサさんに悪気があったわけじゃないから…」


「…私がどうこうじゃなくて、マノアが顔を合わせづらそうと思っただけ。」


「それは確かに…レーサさんからしても気まずいよな。」


 淫魔の魅了による作られた好意。

 その事実を知ってしまったのなら互いを避けてしまうであろうことは想像に難くない。偽の好意を向けた

 者も、向けられた者も。

 その2人の顔合わせの機会を作るというのは、事実を知って間を持たない場合においては酷かもしれない。


「自由参加で良いんじゃない? 気まずくても、お互いに向き合いたいって思うならその機会を作ってあげた方が良いかもしれないし。」


「それもそうね…仲間外れは可哀想だわ。」


「そうは言うけどセシカさん、真っ先にレーサさん外そうとしてなかった?」


「………」


「あの、悪かったのでその冷たい視線止めてください…」


 歯に衣着せぬ物言いにとうとう我慢の限界が来そうなのか、セシカは進矢に冷たい目を向ける。


「デリカシーがない弟でごめんなさい…私の教育が甘かったばかりに!」


「教育って…年変わんないだろ。我ら双子ぞ。」


「あれは別にレーサを仲間外れにしようとした訳じゃないわ。

 マノアとレーサが顔を合わせずらいのは想像できたし、マノアとレーサのどっちかって言ったらマノアを呼びたかったし…決してレーサが嫌いな訳ではないし、イチャつかれてイラついてる訳じゃないわ。」


「イチャつかれてイラついてそう。」


「姉ちゃんも人の事言えないな。やっぱ俺ら姉弟だわ。」


 ぶっちゃける彩弓(姉)を見て謎の納得をする進矢。

 こうしてこの一件に関する方針及び終わった後の事が決まり、各々動き出すのであった。

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