八十四話 止められました!
最近後書きでブクマ宣伝してる人が多いような気がします。気のせいですかね?
確かにブクマ件数とか評価ポイントとかは結構モチベに響きますからね。気持ちはわかります。
…あ、別に批判とかじゃないですからね!?
「じゃあ、フォリスはマノアが居なくなってたからおかしくなったってことか?」
「言い方もうちょっとなんとかならない? 間違ってはないんだけど…」
「…それはわりぃ。」
マノア達の推理を聞いたフォリスは、自分が一時的におかしくなっていたのはマノアが行方不明になっていたことで心が不安定になっていたということにして話していた。
入れ替わりについて全く話さないでおいてくれるのはありがたい。もし誰でも入れ替わりが可能という話が広まれば混乱を招くだろうし、何を信じれば良いのかわからなくなってしまいそうだ。
…あの魔道具を悪用されれば大変なことになる。
一般人が国の主要人物…貴族もそうだし、重鎮や王と入れ替われば国を動かすことだってできる。
それだけでなく、入れ替わった者の印象操作も容易く行えてしまう。他の貴族に対して酷い態度や対応をして、関係性を悪くする。国への反逆なんてしたら入れ替わった人どころかその家族までお終いだ。牢の中の自分と元の人が入れ替わることが出来なければ自分が死刑になる訳だけど。
入れ替わりの事例が頻発すれば、誰の中に誰が居るのか。全く分からなくなってしまう可能性だってある。下手をすれば入れ替わっても居ないのに他人の名前で名乗り出すかもしれない。
存在自体が危険だ。マノアと再度入れ替わった後、あの魔道具は即刻処分しなければならないだろう。
……だからこそ、今じゃなきゃできないことを探さなきゃいけない。
一生に一度の機会だ。むしろなにかしなきゃもったいないと、そう思ってしまうことはいけない事なのだろうか。いや、そんなことはないはずだ。
「…マノア、聞いてるか?」
「は、はい! 聞いてます! なにかしなきゃ、ですよね!」
「はぁ?」
……声に出てしまった。これで入れ替わりがバレることは無いだろうけどヒヤッとする。
「そうだね。マノア君はここまでフォリスちゃんを心配させちゃったんだから、何かしてあげたら?
埋め合わせ、って訳じゃないけど。」
何かしてあげる?
5日間。それだけの期間帰ってきたマノアと一緒に居られたのは、入れ替わりを隠すことに協力してくれたフォリスのおかげだ。
それが無ければ毎日シーサイドに通っても深刻なマノア不足になっていただろう。自分でも思うけどマノア不足って何だろう。
とにかく禁断症状とまではいかなくても毎日シーサイドに行って、そのまま家に帰らずマノアを眺め続けて隙あらばスキンシップを図り……それはもう充分禁断症状だ。
そう考えるとフォリスに恩を感じなくもない。確かに何かしてあげた方が良いかも。
「何かしてほしいこととかってある?」
「うーん、特に無いかな…」
「無欲だねぇ。」
無欲というか無茶ぶりだったかもしれない。いきなりそんなことを言われてもそう答えられないだろう。
こういう場合は私から提案するのが筋か。
「フォリスは欲しいものとかないの? 宝石とか。」
「宝石!? そこまでしなくて良いよ!」
拒否された。
「マノア、宝石買えんの?」
「この世界の宝石は高いからね、そうやすやすと買うだなんて言うもんじゃないよ。」
「大丈…夫じゃないんでした。」
そうだった、マノアの体でそんなこと言ったらそう言われるに決まってる。
「そうだよ、カツカツって訳でもないけどそこまでの余裕は無いよね?」
「あはは、ちょっと見栄張っちゃったかな?」
見せたのは見栄じゃなくてボロだったけど。
「けど、本当になにかあるなら言ってね? 僕に出来る事ならなんでもするから。」
「ん? 今なんでもって?」
「姉ちゃんじゃねえ!」
姉弟の反応は無視して、考え込んでいるフォリスを見る。
「何でも…うーん…」
彼女は真剣に悩んでいた。
大抵のことはしてあげるつもりだし、彼女がこういう時に無理難題を言ってくるとも思えないけど…フォリスがどんなお願いをするのかは気になる。彼女からこの手のお願い――ワガママのようなものだろうか。そんなものは聞いたことがなかったから。
正直全く想像がつかない。
「……今は止めておくよ。」
「「え?」」
「どうして?」
思わぬ言葉に、浮かんだのは疑問だった。
オータク姉弟も同じだったようで、虚を突かれた顔をしていた。
「今は、ね。ホントにしてもらいたいことがあったら遠慮なくお願いから。
それを今無理に考えて言わなくても良いかなって思ったんだ。」
そう言って、フォリスは私にウインクした。
もしかして、今私がマノアと入れ替わってるから?
マノアにしてもらいたいことはマノアに言うということか。
「分かった。じゃあ、待ってる。」
私もフォリスの頼みごとの一つや二つ聞いてあげるくらいはしてもいいけど、きっとマノアもそうだろう。
彼女のお願いなら埋め合わせもなにも関係なく聞いてくれると思う。
マノアも私と同じなんだろう、と思うとなんだかちょっと嬉しくなった。
「お嬢様、こちらを。」
朝、起きて着替えたばかりのマノアの元にリスリーさんがやってきた。
彼女の手に握られていたのは僕とセシカさんの体を入れ替えたナイフだった。フォリスが言ってた通り三日で魔力の充填が終わったみたいだ。
「ありがとうございます!」
「おい、どこで誰が見てるか分からないんだ。一応演技はしろ。」
「すみま…いえ、ごめんなさい。」
「分かって頂ければよいのです。」
そうだった、危ない危ない。
もし今リスリーさん以外のメイドさんやセシカさんのご両親が来てしまったら大変だ。
この部屋の掃除はセシカさんの勉強の時間に合わせてるからしばらく後なので、メイドさんは心配ない。
だけど、セシカさんのご両親はたまに僕…というかセシカさんの様子を見に来るから注意が必要だ。
心配してくれているのだろう。心が痛むけど、これもセシカさんのため。
セシカさんはお店が壊された時、建物の再建とその間の僕を雇用することで助けてくれた。
その大きすぎる恩に対して、僕がセシカさんにしてあげられることは少ない。
いつも出している料理は対価を貰ってるし、あくまでお客さんとして提供しているだけだ。これは恩返しには入らないだろう。むしろ他のお店でも良いところをわざわざシーサイドを選んで足を運んでもらっているので、感謝すべきは僕の方だ。
…つまるところ、これは数少ないセシカさんへの恩を返す機会なので完遂させたいということ。
まあ、これだけじゃ返せないから他の事もしてしっかり恩を返すつもりだけど。
「セシカさんも大変かもしれないし、早く行ってあげなきゃ。」
リスリーさんが床に置いたナイフを拾い、ポケットにしまう。
本来はこんなナイフが入るポケットなんてこの服に無かったけど、リスリーさんがナイフを入れても違和感が無いように作ってくれた。この人本当に何でもできるね。
「…本当に、苦労しているのでしょうか?」
「え?」
「いえ、なんでも。」
苦労していない訳が無い。貴族だった人がいきなり平民になったんだから。
そうでなくても体は女の子から男の体になっちゃってる訳だし、大変どころの話じゃなさそうだけど。
僕は一回女の子になったからそこはマシだけど、異性の友達の体を使ってるから別の気まずさはあるんだよね…割り切るしかないんだけどさ。
「それより、そうですね。確かに出来るだけお早く会いに行かれた方が良いかと。
既に馬車は手配しております。後は行くだけ――」
コンコン
「…はい、どうぞ。」
話の途中でノックの音が響き、返事をする。
開いたドアの先に居たのは…お父様だった。恐らくセシカさんの様子を見に来たのだろう。
「お父様。もう体調に関しては大丈夫だから、心配しなくてもいいわ。」
「それは良かった、安心したよ。快復祝いにシェフに特別なデザートを頼んでおこう。」
「あ、ありがとう。」
快復祝いでデザートを食べるなんて風習あるの?
…重い病気からの快復ならともかく、風邪が治ったくらいじゃパーティーも開けないか。妥当なラインなのかもしれない。
「ところでセシカ。外の馬車は何かな?」
さっきリスリーさんが手配したと言っていた馬車だろうか。お父様には言ってなかったのかな?
「その馬車は私が手配したものです。お嬢様がマノア様に直接快復を伝えたいとのことでしたので。」
「ふむ、そうだったか。
セシカ。こう言うのもなんなのだが…」
珍しくお父様が遠慮したような、言いづらそうな雰囲気を出した。
突然感じ始めた嫌な予感は、的中することになる。
「もうマノア君のお店に行くのは止めないか?」
「え…?」
その言葉を聞いた途端、血の気が引いて地面が無くなったかのような錯覚を覚えた。




