八十一話 落ち着けませんでした!
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
なんか午前2時ごろから寝られないので執筆しました。最近寝すぎ説はある。
一日目。
マノアの体と入れ替わったセシカは昼頃から出掛け、フォリスと一緒に洋服屋を回っていた。
「セシ…マノア先輩、いつまで着替えてるの?」
「待って、今目に焼き付けてるところだから…!」
更衣室の鏡をじっと見つめながら答える。
洋服屋を回る前、魔道具のお店にも寄ったのだけれど風景を撮って置けるカメラという魔道具は見つからなかった。実家から手配すれば手に入るとは思うけれど、マノアの体である今それはできない。
だから今着替えてこの目で見て、焼き付けていくしかない。
「他のお客さんもいるんだから早くしてね!」
「分かったから待ってて。」
…もういいか。
充分記憶できたので、試着した服を脱いで………
(………)
やっぱり、きれいな体だ。
全体的に男の子としては細いめだからか、下着姿では男の子だとわからない。男物の下着がミスマッチにすら見える。
全身の肌も産毛一つ無くすべすべだし、柔らかい。頬もだけど二の腕も良い触り心地だ。
けれどもお腹は引き締まっている。余分な脂肪が無く、つまめない。緩やかではあるがくびれがあるように見えなくもない。
…本当に付いてるのよね?
「ちょっとー? せんぱーい? 並び始めたから早くしてー!」
「あ、すぐ着替えるから待って!」
フォリスの声で下着に掛けた手を止め、元々来ていた服を手に取る。
もう付いてるかどうかの確認はしてたけど、その上でそう思わせるなんて…
マノア、恐ろしい子…!
「……はぁ~…」
暇だ。
今日から三日間仮病で通さなければならないというのに、一日目から退屈に打ちひしがれそうになっていた。
事故だし僕の責任とは言え、お店をサボっているという感覚も少し残っているのでよく分からない焦燥感もある。いっそ今から厨房に行って何か料理でもしようか…
…そんなことしたらバレかねないか。
今僕はセシカさんの体。そんな状態で料理したらまるでセシカさんが料理をしているように見えてしまう。
セシカさんが料理出来るかどうかは分からないけど、貴族だし家事は全部使用人にさせてそうだし――
――あれ? けど前に料理してたような。
いや、あの時は確か僕が帰ってきた直後で、ということはつまりその時にはフォリスと入れ替わっていたと言うことで―――
………あれ? 良いんだよね?
まあいいや、今度直接本人に訊こう。訳わかんなくなってきた。
そもそも体調不良のはずのお嬢様が包丁を握っていた、なんてなったら確実に誰か止めるし仮病がバレてしまう危険性もあるだろう。
コックさんが居る以上厨房が無人になることも考えづらいし。調理してなくても下ごしらえしてたりするかも。
「セシカ様、お加減はいかがでしょうか?」
「あ、執事さ…大丈夫よ。」
不意打ちで化けの皮が剥がれかけたけど、なんとか持ち直す。
ドアを開けた手の反対の手には軽食や水が載ったお盆が載せられている。もうお昼だったか。
執事さんには出来るだけ一人にしてもらえるよう頼んでいるけど、食事の時や用事がある時だけ来てもらっている。
食事は部屋に置いてもらい、空になった食器は次の食事の時に下げてもらう。
こうすれば他の人への接触は最低限になるし、僕の正体がバレる心配が無くなる――
――また僕正体隠してるよ。ウォンリー島から帰って来て4日しか経ってないのに。
まあ、今回の隠し事は全然方向性が違うんだけどね…
「そうでございますか。ですが、くれぐれもご無理だけはなさらないように。
お父様もお母様もお嬢様の身を案じておられているのですから。」
「ええ、分かってるわ…」
布団を被ったままなるべく元気が無いように答える。
演技力はそこまで磨いてないけど、持ちうる全てを出しているつもりだ。
「それならば結構です。では、私はこれで。」
執事さんが去っていき、大きなため息をつく。
こんな演技なんて慣れてないし、誰かを騙すなんて状況も少ない。いつバレるものかと思うと精神が磨り減るし、こんなことをして良いのだろうかという葛藤も無くならない。
それに、執事さんやメイドさんはリアクションが無いというかなんというか。本当に騙せているのか内心疑っているのか、その素振りも見せてくれないので尚更怖い。従順すぎるのも考え物だ。
昨日メイドさんに魔道具の魔力充填をお願いしたから、この苦労もあと3日なんだけど…
「…不安だなあ。」
つい口に出してしまうくらい、落ち着けなかった。
「先輩、そろそろ服以外も見ない?」
もう何軒服屋を見て回っただろうか。色々な服を着るマノアを想像して、気に入ったものは試着して目に焼き付けて。そんなことを繰り返したせいか目が乾いたような気がする。
服以外の物を見るのも良いけど、休憩は必要そうだ。
「そうね、ちょっと休みましょう。
フォリス、どこか丁度いい場所を知らない?」
まだ満足しきれていないからお出かけは継続する。距離的な問題もあって一度帰るという選択肢は無かった。
「先輩、喋り方。」
「あ…ゴメンなさ、ゴメンフォリス。今変だった?」
「うん、今セシカさんが出て来てたよ。
気を付けてね、最悪先輩がオカマになっちゃったーって噂になるから。」
「それは責任重大ね…でも、マノアなら特に違和感無さそう。」
「無いだろうね。言ってて思ったんだけどオカマ呼ばわりは常連でもしないかも。」
「そうね。そんなこと言う人が居たら絶対に許さないけど。」
マノア本人に言ったら絶対に傷つくだろう。彼の性格上激しく怒るということもしなさそうだし、意気消沈して終わりそうだ。
その時は私が制裁するとしよう。私もマノアが悪く言われるのは嫌だ。
「権力怖い…
それより、休憩だったよね。それならそこのお店とかどう?」
彼女が向かっていた先はカフェだった。
確かに休憩には良さそうな場所だ。お昼だから軽食を頼むのも良いだろう。
「そうだね、そこにしよう。」
あ、今のすごくマノアっぽかった。なんだか嬉しい。
「セシカさん、そんなに分かりやすかったかな…? もしかして先輩の表情筋が活発だから?」
「どうしたのフォリス?」
「うーん…なんでもない。
早く入ろう、立ちっぱなしで疲れちゃったし。」
「それはごめんなさい…そんなに待たせちゃってた?」
「うん、かなり。」
「フォリスにそう言わせるなら相当だね…気をつけるよ。」
「本当?」
「…善処します。」
そんななんでもない話をしてお店に入る。
この瞬間、いや今日一日は貴族である自覚を捨てて本当に自由に過ごせていると思う。
たまにはこんな一日も良いな、なんて考えながらメニュー表に目を通した。




