八十話 流されました!
今年最後の更新です。
(……)
仕事も終わり、下げた食器を洗っている最中。僕は手を動かしながら考えていた。
オータク姉弟との話し合いにより、今のフォリスはセシカさんが魔道具や薬を用いて変装しているのではないかという結論に至った。
仕事中だったからその時点で解散し、二人は帰ったんだけど…一つだけ、腑に落ちない点があった。
(もし、セシカさんがフォリスに変装してるとしたら…本物のフォリスは今どうしてるんだろう?)
僕に変装がばれないようにするには、フォリスをどうにかしなければならない。
いくらうまく変装出来ても、本物と偽物が一緒に居る場面を僕が目撃したら偽物が紛れているということに気付かれてしまう。
第一、本物が偽物を見てどう思うか。確実に他の人に知らせるだろう。
それが無いということは、きっと本物はここに居ない。
セシカさんに限ってフォリスに危害を加えるとは思えないけど、とりあえず別の場所にいると考えて良いだろう。
動機も大方また一緒に寝たいとかそういう理由だろう。セシカさんは何故か僕と寝たがるし…抱き枕にでもしたいのだろうか。
そこまでするなら、家族に言ってお泊りに……いや、できないか。きっと僕が断ることも想定してこんなことに及んだのだろう。
彼女の家族も止めるに違いない。貴族の娘が護衛も無い庶民の家に泊まろうというのだ。この国だって平和だけど、もしセシカさんに何かあれば大事になる。
と、なると…
(…ん?)
フォリスは、どうしたのだろうか。
セシカさんが彼女をどこか別の場所で保護しているだけならまだいい。いや良くないしそんなこと考えられないけど。
けど、もし…もし、フォリスに何かあったとしたら?
フォリスの様子がおかしくなった、というかセシカさんがフォリスのふりをし始めたのは僕が居なくなった後のこと。
もしかしてフォリスが大怪我してるとか、あるいは死…
…それで、セシカさんは僕の為にわざわざ変装して?
………どうあれ、覚悟して訊かなきゃいけない。
本物のフォリスはどこに行ったのか。そして、どうしてセシカさんがフォリスの真似をしてるのか。
もうすぐ仕事は終わる。
その時、全てを聞き出そう。
お店の掃除が終わったと声を掛けたら、マノアから話があると言われてリビングに呼び出された。
セシカのフォリスの真似は完璧…ではないけれど、板についてきたはず。だからバレてるということは無いはずだ。
…そのはずなのだけど、緊張は止まらない。
隠し事をしているせいなのか、安心しても良いはずなのにしきれない。
もしかして、お仕事で失敗ばっかりしてるから?
もしかして、クビ…?
…そうなったら、フォリスを路頭に迷わせることになる。
どうしよう。もしそうならノースランダー家で引き取るし、腕も良いからきっとメイドにもなれるけどフォリスはきっとマノアのお店で働きたいはず。
怒られるだけならまだいい。軽蔑されるのも辛いけど…絶交なんてされたら嫌だ。
こんなことになる前から、私は彼女に対して友情のようなものを感じていた。
マノアが魔法少女を名乗った時も一緒に行動したし、マノアが居なくなった時も一緒に心配した。
それが無くなるのは嫌だ。だから、なんとしてでもこのお店に留まらないと…
「お待たせ、セシカさん。」
「マノア、どうしたの? 急に呼び出しなんて…」
「……やっぱり。」
?
何がやっぱり…
「あ…!」
「やっぱり、セシカさんだったんですね。」
バレちゃった…
ど、どうしましょう…今更取り繕ってもしょうがないし、言い訳もできない。
「焦らなくて良いですから、落ち着いて正直に教えてください。
本物のフォリスは、どうしたんですか?」
「…え? どうしたもなにも…」
マノアと私の間に、決定的なズレがあると感じたその時。
「セシカさん! これ!」
私…の姿をしたフォリスが例のナイフを持って元気に部屋に入ってきた。
「セシカさん!? あれ、そう言えばあの時もセシカさんいたっけ…どういうこと? っていうかセシカさん、それ危ないですよ! 一度置いてください!」
「あ、マノア!」
「あ、せんぱ…じゃなくてマノア! これに触っちゃダメ! わっ、あっ…」
「「危ない!」」
マノアがフォリスからナイフを取ろうとして落としてしまい、落ちていくナイフに反応するマノアと私。
フォリスもキャッチしようとしてナイフに触れ、そして――――
「「「………」」」
最初にナイフに触れたのは、マノアだった。
次にナイフを取り落としたセシカさん(?)が触れ、最後に後ろからセシカさんがナイフに触れた。
そこまでは覚えてるし、分かる。
だけど…目の前にいる何とも言えない顔をしたフォリスと僕はなんなのだろう。
何だか分からないけど僕(?)が持ったナイフを触らされたけど…何が起こったんだろうか。
「えっと…ウチから全部話させてもらうね。」
「あ、うん、よろしく…お願いします?」
「今のウチは…あ、いや、なんでもない。すぐわかるし良いや。
まず、先輩が居なくなってた時のことなんだけど―――」
僕がウォンリー島に閉じ込められていた間、セシカさんがお店に来て店前で暴漢に襲われたらしい。
暴漢が取り落としたナイフを調べようとした時にセシカさんとフォリスが入れ替わり、話し合った結果2人は心が入れ替わったままお互いの生活を送ろうと言うことになった。
僕やオータク姉弟が感じた違和感はそのせいだったようだ。
突拍子もない話だけどそれなら本物のフォリスが居なくなってることにも説明がつくし、セシカさんがもう一人(?)いたことにも説明がつく。
そして入れ替わりの元になったナイフの魔力充填を終え、セシカさんと入れ替わったフォリスが戻ってきたところにあの揉み合いが発生。
結果、最初にナイフに触った僕とセシカさんと入れ替わったフォリスが、僕と入れ替わったフォリスとフォリスと入れ替わったセシカさんが入れ替わり、そのままナイフの魔力が切れた。
最終的に僕がセシカさんの体で、セシカさんが僕の体に。フォリスは元の体を取り戻した、と。
そういうことらしかった。
「……ごめんなさい! 本当に申し訳ありません!
僕が余計な事しようとしたばっかりに!」
「…マノア、私の体で頭を下げないで。」
「あ、ごめんなさい!」
直立姿勢で謝る。そういえば僕が頭を下げたらセシカさんが謝ってるみたいになるんだった。
「それに、良いの。しょうがないじゃない。事故だったのだから。」
「そんな、でも…」
「…先輩、罪悪感は捨てて良いよ。
セシカさん、内心絶対喜んでるから。」
「え?」
喜んでる? そんな訳無いじゃないか。
だって男の体になっちゃった訳だし、自分の体が男に取られたわけだし。
「何言ってるのフォリス。これは事故なのだから仕方ないじゃない。」
あれ? なんだかいい笑顔? 何か怖い。
「え、えと…僕の体で女の子みたいな喋り方はやめてください…」
「はっ! 今女の子の格好をして鏡を見ればマノアの女装が見られるということ…? カメラとかいう魔道具を発注しなきゃ!」
「何しようとしてるんですか!? 本当に止めてください!」
「けどマノア、この責任はかなり重いわ。このくらいの役得良いじゃない。」
「さっき事故だから仕方ないって言ってましたよね!?」
今度は役得とか言い始めた!?
確かにそうだ、セシカさんはこの状況を喜んでるし楽しんでる!
「舞い上がるのは良いけど、今回はどうするのセシカさん。」
「どうするのって?」
「正体を隠してお互いになり切るのか、最初からバラすのかって。」
「もちろん隠すわ。」
「…お店は?」
「………フォリス、お料理出来るわよね?」
「出来るけど、接客増やしたらお客さんに怪しまれちゃうんじゃない? 先輩だって貴族の勉強には付いて行けないだろうし。」
「…………マノアは仮病、お店はお休みでどう? 休業分のお金は私が補填するから。」
「え、それは流石に悪いですよ。何もしてないのにお金を貰うなんて。」
「私になり切るのは大変じゃない? 特に、女の子に見られたくないマノアにとっては。」
「そうかもしれませんけど、セシカさんには何のメリットも無いじゃないですか。」
「…あるわ。この体が使えるっていう最大のメリットが。」
「そんなの僕も同じじゃないですか。むしろ庶民が貴族の体を使う方がよっぽどじゃないですか?」
「いえ、むしろ逆よ。
庶民が貴族の体を使うと言うのは大変よ。普段負わない責任を負うことになるし、仕事だってそれなりに忙しい。
けど、その逆はどう?
お仕事は大変だけど、普段のしがらみから外れて庶民の暮らしを自由に体験できる。これは却ってお金を払ってもいいくらいだわ。
その時に使ったお金に関しても私が後から負担するから、費用に関してはちょっと立て替えてもらうだけで問題無いわ。出費も常識の範囲内程度に収めておくから。」
「う~ん…けど、僕はその間ずっと仮病なんですよね? 期間によっては流石にバレませんか?」
「魔道具の魔力の充填には5日かかったけど、充填関係の解析込みだったからね。充填だけなら3日くらいで終わるんじゃないかな?
それなら風邪でもごまかせるんじゃない?」
「それは…そうかな?」
あれ。話の流れが段々まずい方向に流れているような気がする。
セシカさんの事を知らないとは言わないけど、なりきれと言われても正直厳しい。どこかでボロを出してバレる気しかしない。
「お嬢様、そろそろ出発なさいましょう。」
「ひぃっ?!」
急に後ろから声がしてびっくりした。しかもバレちゃいけない相手の声が聞こえて。
「そうですか。ではセシカさん、魔道具の魔力充填お願いしますね。」
「魔道具?」
「肌艶が良くなる魔道具だよ! 貸してくれてありがとう! メイドさんに返しておいてね!」
「……分かったわ。」
危うくうんとか言っちゃうところだった、とヒヤヒヤしながら執事さんに付いて行く。
付いて行った先で馬車に乗った僕は、セシカさんの屋敷へ向かった…いや、帰った。
良いお年を。




