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シーサイドへようこそ!  作者: じりゅー
第六章 『絶対にバレてはいけない女性だけの島X時!』
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七十二話 見つかりました!

 ずっと彼女と話したいと思っていた。

 ずっと彼女と一緒に居たいと思っていた。

 彼女を一目見た時から、ずっと。

 それが一目惚れだと気付いたのは、彼女がどれだけ手を伸ばしても届かない場所に行ってしまってからだった。

 離れていく彼女を見て、胸が引き裂かれたようだった。

 行かないでくれ、という叫びを心に残したまま死んでいくのかと思うと、とても耐えられなかった。

 だから――







「ここに来て、運がありませんでしたね…」


「…そうですね。」


 高く昇った陽の中、がっくりと肩を落としながら並んで歩く。

 性転換薬はどこも品切れで、昨日行ったお店にも売っていなかったのだ。

 理由は島の閉鎖により性転換薬の供給が全面的に断たれてしまった事。性転換薬はこの島で製造しているのではなく、完全に輸入に頼っているらしい。

 昨日購入出来たのは奇跡だったのだろう。今思いかえしたらあの時も性転換薬の在庫はあまりなかったような気がする。


「もしかしたら、島中のカップルが買い占めているのかもしれませんね…」


「状況もですけど、物が物なだけに分けて欲しいなんて言えませんしね。」


 カモフラージュの為とは言え、そういうことの為に譲ってほしいなんて言いたくない。しかも次いつ手に入るか分からないから断られるだろうし恥をかくだけだろう。

 それはさておき、とりあえず腰を落ち着けられる場所にと言うことで今僕たちはウィラさんが泊っている宿の一室に向かっている。

 ちなみにレーサさんは今日の仕事があるため別れた。元々この島に住んでいる狩人が少ない上に、島が封鎖されているせいで新たな狩人が来ることも無いのでそのしわ寄せがきているらしい。

 おかげでレーサさんもそれ以外の狩人も依頼をいくつも掛け持ちしながら仕事をしなければならないそうだ。そのせいで一日で十件も同時に依頼を受けた日もあったのだとか。場違いかもしれないけど全部達成する当たりやっぱりレーサさんは凄い人なんだなって改めて思った。

 早く侵入者が捕まって、その状況も好転すればいいけど…

 いや、早く捕まえてなんとかしなきゃ。それが僕にとってもこの島にとっても一番の道なんだから。


「マノア様はこの島に来た男性を捕まえるつもりなんですよね?」


「はい、なんとしてでも。」


 僕がこれからすることについては既にウィラさんに話している。

 理由はウィラさんにも協力してもらいたいから。まあ、少しの情報収集で済ませるつもりだったんだけどね。危ない事だし、強制させるわけにはいかない。

 でも、彼女自身の希望により全面的に協力してもらうことになった。人手は多い方が良いのは確かだし、彼女もいざという時には戦力に加われるだけの力は持っているからだ。なんでも故郷に居た頃は狩人に稽古を付けてもらったことがあるとか。少なくとも僕よりは強いだろう。

 …僕よりは。


「具体的に侵入者を探す手立てはあるのですか?」


「あー…いえ。今までもはっきり言って闇雲に歩き回ってただけでしたし…」


「それでは見つかるものも見つかりませんよ。こういう時はちゃんと頭を使うんです。」


 そうは言ってもなぁ…

 情報と言えば男が出たということだけ。具体的な目撃現場も知らなければ特徴一つも分からない。

 ……捜索しようとしてる人が持ってる情報量じゃないなぁ。改めて考えても。


「まずは聞き込みから始めましょう。町の人、狩人ギルド、港、探せる箇所はたくさんあるはずですよ?」


「…それはその、出来なかったんですよ。もしもの事を考えたら。」


「もしも?」


「ほら、その。バレたら。」


「…あ。」


 僕が男である以上、迂闊に島の人間と関わることは出来ない。

 一番ネックになっていたのはそこだった。なんらかのきっかけで正体がバレるかもしれないし、僕自身がボロを出してもおかしくないのだから。


「し、失礼しました。私の思慮不足でした…」


「いえ、御尤もだと思います。よく考えればそのリスクもよっぽどのことが無い限りは被ることを考えることは無いですしね…」


「そ、それは分かりませんよ? マノア様だって結構男っぽいですから。視線とか。」


「…………」


 自己嫌悪に陥る。

 確かに皆無防備だったかもしれないけど。意識しないようにしてたはずだけど。


「あ、その、そう言う意味ではなく、って、そう言う意味にしか聞こえませんよね、ごめんなさい…」


 純粋に落ち込んだ僕とフォローに失敗したウィラさん。

 僕たちは再び肩を落とした。


「…お、お昼、食べましょうか!」


 目に見えて分かる空元気。だけどずっと落ち込んでいる訳にもいかないのでそれに乗ることにする。


「いいですね、ウィラさんは何食べたいですか?」


「お肉が良いですかね。脂っこいのをガッツリと。」


 男っぽい。見た目とは違う方向で。

 僕もこういう風に受け答え出来れば男っぽさが増すのかな。

 こんな感じで。


『マノアは何が食べたい?』


『僕はお肉が良いです! ガッツリと!』


『…太るわよ?』


 ………なんで相手がセシカさんで考えちゃったんだろう。意識しちゃってるのかなぁ。

 でも、他の人に言っても同じこと言われそうな気がするんだよなぁ…

 そう言えば、ウィラさんはどうなんだろ。脂肪は女性の敵ってどこかで聞いたし…やっぱり気になるんじゃないかな?


「失礼かもしれませんけど、太らないんですか?」


「大丈夫ですよ。ダイエット目的と言う訳ではありませんけど、毎日鍛錬しているので。

 お上品に油が少ない物ばかり食べてられませんよ。」


 ワイルドだなぁ。

 鍛錬なんて僕の口からは出ない単語だ。僕も鍛えた方が良いのかな。


「あ、もしかしてマノア様…太るとか気にしてるんですか?」


「いえ、そんなことは無いですよ。そりゃ脂肪のつけすぎは嫌ですけど。」


 そりゃ無駄に太るのは男だって嫌だ。不養生の証でもあるからね。

 元々僕はあまり食べないし、仕事ではかなり動くので特別なことをしなくても勝手に脂肪が燃えていくけど。


「そうでしたか、では決まりですね。

 付いて来てください。とても美味しかったお店を紹介しま…」


 ティーサさんが言葉を切る。

 眼差しは鋭く、僕の後ろを捉えていた。

 どうしたのか、という疑問を解消するために振り向く。


「……!」


 見えた。

 すぐに引っ込んでしまったけど、物陰に潜む誰かの横顔のような影が。


「ウィラさん!」


「ええ。それに…まずいですね。奴の狙いは―――」


「マノア!」


「えっ…」


 一瞬、信じられなかった。

 今だけは一番聞きたくない声だったから。

 居るはずが無いって、来るはずが無いって心のどこかで決めつけていたから。


「ティーサ、さん?」


「ごめんなさい、その、怖かった…はずよね。だから、逃げちゃったんでしょう?」


 恐る恐る、泣きそうな顔でゆっくりと近付いて来ている。

 彼女は既に女の子に戻っている。けど、僕はほぼ反射的に後退りしてしまった。

 今僕の心が彼女を拒絶している、決定的な証拠。

 それを察したのは僕だけじゃなかった。


「やっぱり…」


 それだけ言って、彼女は振り返って走り出した。

次話は明日12時に予約投稿します。

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