七十一話 バレちゃいました!
誕生日なので頑張って投稿しました。
「ごめんなさい! ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
込み上げてくる恥ずかしさと申し訳ない気持ちでいっぱいになり、ひたすら謝り続ける。
最早錯乱近い状態だった。
「落ち着いて、そう言う訳じゃないってどういうこと? 誤解って何?」
「えっと、それは僕が性転換薬を使いたかった理由っていうか、別にそういうことの為に欲しかったと言う訳じゃないって言うか…」
「じゃあ、どうして? なんで性転換薬が欲しかったの?」
「…そっ…それは…」
錯乱状態でもそれを言ってはいけないと自制が働いた。
けど、こんな状態でうまい言い訳を考えることも出来ず。
「ご、ごめんなさいーーー!!」
僕はティーサさんから逃げ出した。
「はぁ、はぁ、はぁー…」
もう振り返っても彼女はいない。見えるのは街並みとそこを歩く通行人だけだ。
…ティーサさんの家には、もう帰れないな。
着の身着のままで来ちゃったから、荷物も置いて行きっ放しだし…これからどうしよう。
「マノア、何やってんだ?」
そこにレーサさんが通りかかった。服装はいつもの皮鎧に以前誰かに貰ったという不思議な剣。これから依頼を受けに行くところだったのだろうか。
「レーサさん…いえ、大丈夫です。なんでもないですから。」
「大丈夫な人間の言葉じゃないだろ、付いて来い。」
僕の事情を慮ってか、場所を変えるつもりらしい。
レーサさんが僕の腕を取ったその時。
「…おい、マノアに何をしている。」
冷えた声がした。
いつもとは全く違う声、全く違う口調。おかげで一瞬誰だかわからなかった。
ウィラさんだ。理由は分からないけど表情は怒りに満ちている。
「誰だか知らねーけど、なんだよいきなり。お前には関係ないだろ?」
「いや、ある。大有りだ。
お前が連れていこうとしている相手は私の友人でな。」
連れていこうとしている…あ。
レーサさんは僕の手首を掴み、やや強引に引っ張っていこうとしていた。
その光景はレーサさんが僕を無理矢理どこかに連れていこうとしているように見えなくも無いわけで…
「ま、待ってくださいウィラさん! 多分誤解です!
この人は僕の友達なんですよ!」
「「え?」」
一触即発の空気は霧散し、二人は同時に僕を見た。
「マノア、そいつと知り合いなのか?」
「はい、この島で知り合った人でウィラさんって言います。」
「ど、どうも…」
場所を変え、改めて事情を説明しあうこととなった。
まずはウィラさんの紹介だ。彼女はどうも最初に勘違いしてしまったことを気にしているようで居心地が悪そうだ。
「オレはレーサ、この島の外から来た狩人だ。
…さっきのことならもう気にしてねーし、オレも悪かったからさ。そんなにオドオドすんなよ。」
「は、はい…」
「…で、マノアは何してたんだ?」
「あ、そうでしたね。
…実は僕、逃げてきちゃったんです。ティーサさんから。」
「ティーサ様から?」
「どういうことだ? 何があった?」
「…性転換薬を買ったんです。」
「何…!? ここに売ってるのか!? っていうか買いに行ったのか!?」
「はい。
それで、買ってたはずの薬をいつの間にかティーサさんに取られていて…」
「薬を使って男性になったティーサ様に迫られ、逃げて来たということですか。」
続けるはずの台詞をウィラさんに言われた。驚いて彼女を見る。
「別に恥ずかしい事ではありません、ここではよくあることです。」
「よくあること?」
「はい。行為をするために薬を服用して男性になったパートナーの姿が受け入れられないとか、いざとなってつい逃げ出してしまったとか…理由こそ様々ですが、パートナーが薬を服用して、行為に至る直前で破局するというのは珍しくないんです。
男性にトラウマが出来た結果この島に移住したという女性も珍しくは無いですからね。その時の事を思い出してしまうこともあるんだとか。」
「そうなのかー、確かにオレもマノアが急に男っぽくなったら嫌かもな…あ、悪い。」
かなりショック。僕男っぽくなると嫌がられるんだ…
自分の顔嫌なのに男っぽくなっても駄目なの? もうどうすれば良いんだろう。
…嫌でも現状維持かぁ。
「まあ、そうですね。私だってマノア様が急に筋骨隆々の男性になられたら嫌です。」
「筋骨隆々じゃなくても、マノアは男だけどな。」
「え?」
「ん? あ。」
「レーサさん!?」
数日間誰にもバレなかったその秘密は、レーサさんの誤爆によってあっさりとバレてしまった。
本当に、信じられないくらいあっさり。
「…嘘ですよね?」
ウィラさんは真顔で問う。今更否定してもウィラさんの疑念を払いきることは出来ないだろう。
嘘と言うにはあまりにもなんでもないことのように言い過ぎた。口が滑ってしまったかのような僕とレーサさんのリアクションもそれを後押ししてしまった。
「………本当です。」
僕は、観念して肯定した。
「…すみません、聞いておいてなんですけどやっぱり信じられません。」
「なんなんだお前は。」
えぇ~…?
「まあ、気持ちは分かる。オレも最初はマノアの事を女だと思ってたしな。
っていうかマノア、最初から男だって思われてたことあったか?」
「…事前に言っても改めて訊かれたのが12回中12回。」
言ってそれなら初見はお察しの通りだ。中には全く信じてくれない人も居た。
「100パーじゃないですか…
じゃあ、この島に侵入した男と言うのはマノア様の事だったと?」
「いや、違う。この島でマノアが男だって知ってるのはここにいる3人だけだ。他は誰も知りやしない。
マノアも事故で来たようなもんだしな。」
事故と言うには少し語弊があるけど、近い物はあるのは間違いない。
「事故? 船が壊れて流れ着いたとかですか?
しかし、そんなニュースは訊いてませんしマノア様はウォンリーダイの料理を知りたいから来たと言っていたはずですが。」
「それは本当です。別に船が壊れたとかじゃなくて、普通にこの島の船に乗ってきました。」
これ以上説明をレーサさんに任せる訳にはいかないと口を開く。尻ぬぐいさせてるような感じがして居心地が悪くなる。
「僕、この島の事を何も知らなかったんです。ただただウォンリーダイの名産地ということしか知りませんでした。
この島が女性しかいない島だと知ったのは、ここでレーサさんに会って教えてもらってからです。」
「…なるほど。」
船に乗る時、島に入る時の検問に至ってはさっぱり訊かれなかったことから多分察しているのだろう。
正直ちょっと助かる。女の子にしか見られないって言うのなんだか抵抗あるし。
「では、悪意や下心があってここに来た訳ではないんですね?」
「もちろんです! それを最初から知っていれば、そもそも来ることもありませんでしたから!
…けど、それを知った時にはもう遅かったんです。既に港は封鎖されていて…」
「帰ることも出来なくなってしまったと。
船に乗せる前に、船員がしっかりと確認を取っていればこんなことには…なんて理不尽ですよね。」
「ああ、まさかこんな男が居るなんて思わないだろうからな。」
なんかちょっと刺々しくないですかレーサさん。
とは思ったけど僕の調査不足が招いたことなので強く出られない。そう、大元の原因は結局のところ僕なんだ。やっぱり自首するべきかなぁ…
「…事情は分かりました。
それでは、私と一緒に薬を買いに行きましょう。」
「良いんですか?」
確認したのは一緒に薬を買いに行くこと、というよりも共犯者になっても良いのか、ということがメインだった。
共犯者がどうなるのかは分からないけど、もし仮に僕が男だとバレて、2人が僕の正体を隠す為に協力していたとなればきっと2人にも刑罰は下る。
ここで通報すれば、少なくともウィラさんは無罪になるだろう。
「もちろんです。
そもそも、その件に関しては船員、いえ、この島の過失でもあるんですから。決してマノアさん一人の責任なんかじゃありません。
それを言えばマノア様ではない侵入した男性についてもそうです。みすみす侵入させてしまったのは揺るぎない事実でしょう。
ですから…マノア様がそこまで責任を感じることは無いと思うのです。
確かに、正体を隠しているのは間違っているのかもしれません。
けど、それが理不尽によってもたらされた物ならば。
この島にも過失があるものならば。
そして、マノア様に悪意が無いのであれば。
私は許されることが正しいのだと思うのです。」
「ウィラさん…ありがとうございます!」
口から飛び出したのは感謝の言葉。
ウィラさんは笑みを浮かべた後、僕の手を引いて歩き出した。




