六十六話 手がかりを見つけました!
明けましておめでとうございます。
新年初の更新に時間が掛かってしまいましたが、こんな作者で、作品で良ければ今年もよろしくお願いします。
……年末年始忙しすぎません? ホント。
レーサさんと話した後、島に不法侵入したと思われる男について考えながらぼんやりと街を歩き回った。
もしかしたらその人を探していたのかもしれない。探してどうするのかなんて考えもしないくせに。
その人に何を言ったって、全部僕に跳ね返ってくるだけなのに。
こういうの、フォリスはなんて言ってたかな…確か、ブーメランだったか。
言い得て妙だ。手を離れても戻ってくる武器のように口を離れた言葉が自分に戻り、突き刺さる。
でも、もし。
もしも、本当にその人を見つけたのなら。
僕はその人になんて言うべきなんだろう?
「すみません、そこのお嬢さん。」
お嬢さんって言ってるけど、女性なのだろう…この島にいるということは。
…あれ? この島では女性が女性を口説くのが普通なの?
いや、いくら女の子しかいない島だからって流石に違うよね。いくらなんでも女の子同士が普通だなんて……
「無視は悲しいですよ、お嬢さん。」
「あ、僕!?」
口説かれ初心者の僕は自分に声を掛けられているとは露ほども思わなかった。
そんな僕でも流石に今みたく肩を叩かれたら気付く。っていうかちょっと痛い。
驚きながら振り返り、その人を確認して更に驚いた。
(男の人!?)
その人が深くかぶられたフードから覗く端正な顔と短く揃えられた金髪。十人中十人が王子様かと思うであろうイケメンだったからだ。
もしかして、この人が島に入り込んだ…!
「少し、良いですか?」
「………」
今、ここで大声を上げて回りの人に協力してもらってこの人を捕まえるのは簡単だ。
けど、もしかしたら…
…もしかしたら、やむにやまれぬ事情があるのかもしれない。
今まではさっぱりそんなことを考えていなかったくせに、その人を見た途端にそう思ってしまった。まるで怖気づいたかのように。
もしかしたらほんのりと同情を感じていたのかもしれない。この女性だけの島で、ただ一人いる同類に。
「…はい。お話しと言うのは?」
「お恥ずかしながら、私はつい最近ここに来たばかりでして。
近くに良いカフェはありませんか? 良ければ奢って差し上げましょう。」
「………では、こちらに。」
と言って、僕はさっき見かけた良さげなカフェへと足を運ぶ。
…僕もこの辺のカフェなんて入ったことないからね。あてずっぽうだけどそれっぽくふるまっておこう。
この人からは色々と話を聞きたいからね。
「すみません、声を掛けておきながらエスコートも出来なくて。」
「いえ、来たばっかりなら仕方ないですよ。僕も実は来たばかりですし。」
ついさっき見ただけだったし。僕の直感…観察眼? もなかなかに捨てたものではないようだ。
「…? さっきから気になっていたのですが、その、ボク? と言うのは?」
「それは僕がおと―――お、乙女! 乙女すぎて封印されたんですよ! 他の呼び方を!」
「はぁ…?」
「と、とにかくあんまり気にしないでください。昔からこうなので。」
「そうですか。」
苦しい言い訳だったけど、これ以上の追求はなさそうだった。
っていうか自分で乙女って…無いなぁ、仮に男じゃなかったとしても。
「おっと、自己紹介がまだでしたね。
私はウィラと言います。貴女の名を伺いたい。」
「マノアです。」
「マノア様ですか。
名前まで可愛らしいとは。いや、恐れ入りました。」
……可愛いかな? 僕の名前。
「そうですかね?」
「そうですとも、おっと、過度に褒められては却って不快ですよね。すみません。
ですが、私は貴女と仲を深めたいだけなのです。どうかお分かりいただきたい。」
「はぁ…」
あれだけ露骨に褒められればそのくらいは分かる。
だけど、僕の話はまだ出来てない。
ここで攻めよう。
「…ウィラさん。
貴方はここに来たばかりと言ってましたよね?
どうしてここに来たんですか?」
「……観光です。」
少し間があっただけでなく、目を逸らした。
やっぱり言えないような邪な動機だったか――いや、言うことがはばかられるような重い理由なのかもしれない。
「本当に?」
更に問い詰める。
「………本当です。」
全く目線がこちらに来ない。
どうも真相を聞くのは難しそうだ。
「そ、そうでした。貴方はどうなんですか? 貴方も来たばかりと!」
「僕はウォンリーダイを食べに来ました。どんな風に料理するのかなって。
今のところまだ一軒しか食べられてませんけどね…」
「それなら私料理できますよ! ウォンリーダイですよね!?
何を隠そう私の得意料理はウォンリーダイの煮つけ! 唐揚げ! 刺身! あとついでに野菜炒め!」
「おお!」
まさかこんなところで有力な情報源に出会えるなんて…!
「お願いします! 僕にウォンリーダイの料理を教えて下さい!」
「良いでしょう、しかし、私の教えは厳しいですよ?」
「構いません! お願いします!」
「良い返事です。
では、調理場の用意をお願いします。食材はこれから買ってきますので。」
「食材選び、僕も連れていって下さい!」
「これは熱心ですね、鍛えがいがあるというものです。
では、行きましょう!」
「はい!」
僕たちはお代を払ってカフェを出て行った。
何かを忘れてる気がするけど、それはそれだ。やっとこの島に来た目的が果たせるんだから…!
何やら家が騒がしい。
古い家ではあるけど曰くは無いし悪霊の類も出たことが無い。
確かに今マノアは泊めてるけど…彼女一人で騒いだりしないだろう。もししてたら追い出すことを視野に入れる。
…予想なんてしても仕方ない。
足は既に玄関の前にある。もう入るしかないのだから。
「マノア、どうしたの?」
「あ、ティーサさん! おかえりなさい!」
「ただいま…何? その料理。そんなに作ったの?」
リビングに入ると私を迎えたのはマノアと食べきれそうにない程大量の料理だった。
この島特産のウォンリーダイがふんだんに使われていて、どれも美味しそうだ。
「あ、家主の方ですか。お邪魔しております。」
追加の料理を持ってリビングに入ってきたのは見知らぬ人だった。
被っているフードがその怪しさを増幅させている。外ならともかく家の中でどうして被っているのだろう。
「貴女、誰?」
「この料理を作ってくれた人ですよ!
実はこの人に料理を教えてもらえるということになったんですが、料理出来る場所が見つからなくて。
それで、悪いとは思ったんですけどここを使わせて頂いてました。」
「勝手に来てしまって申し訳ない、美しい家主さん。
お詫びと言っては何ですが、こちらの料理を是非お召し上がりください。」
「………」
乱雑に料理を一切れ取り、口に運ぶ。
「おいし…っ!」
例え美味しくてもいちゃもんを付ける気だったけど、思わず素の感想が出てしまった。
口を塞いでも漏れてしまった声は引っ込まない。
「そうでしょうそうでしょう! 家主様とマノア様の為、腕によりをかけて作ったのですから!」
「そう…ありがと。」
美味しい料理をふるまってくれる分には悪い気はしない。私に無断で家に上がり込んだことを除けば。
後はどれだけ家の調味料が減っているか。チェックが必要そうだ。
「ウィラさん、料理はこれで全部ですか?」
「もっと色々と教えたいのですが…今日はここまでにしましょう。
余ったものは明日にでも回して…あ、それには家主様の許可が必要ですね。
すみません、しばらくここでマノア様に料理を教えてもよろしいでしょうか?」
「……今日のところは合格だけど、食べられないもの出したら即刻追い出すから。」
「そのような物を出す訳がありません! 私は料理を作り、教える為に来ているのです!
ましてや貴女方のようなお美しいお方に食べて頂くのであれば粗相など万一にも出来るものですか!」
……女たらしが入ってる人だったらしい。ちょっと追い出したくなってきた。
そう言うのが煩わしいから一人で居るのに。
「はぁ、その心意気は買ってあげる。
じゃあしばらくよろしく。」
「はい!」
ウィラ、という人は料理を食べ、皿を洗った後宿に戻ると言って帰って行った。
マノアが彼女の後ろ姿を見て『あ…』とか言って呆けてたけど、特に気にも留めなかった。




