六十二話 話しかけました!
あの子可愛くないー?
ねー、あんな娘見たことなーい。
島の外から来たのかなー?
お友達になりたいねぇ~!
「………」
視線を感じる。
観光とお店探しがてら街の中を歩いているとそう感じた。
僕は別に目立った行動はしていない。ただ歩いているだけだ。
誘拐があったから人目に敏感になってるのかもしれない。それはあるだろう。
けど、この視線の量は明らかにおかしい。お店の中でもこんなに注目はされない。
他の街を歩いても同じだ。主に男の人から見られはするけどこれほどでもない。
ましてや女の人ばかりになんてあり得ない。
さっきも思ったけど、やはりここは男の人が少ないらしく女性ばっかりだ。
それなのに、どう言う訳か男の人から時々向けられるものと同種のなにかを含んだ視線を浴びている。
皆が皆僕を見てるわけじゃないけど、視線を辿るとふいっと顔を逸らされる。表情は皆素知らぬ顔と言った感じだった。
ハッキリ言って居心地が悪い。早くお店を見つけて食べて帰ろう…
「あの、すみません!」
視線を向けてこなかった、近くに居た人に声を掛けた。
「……」
振り向いた顔に面倒が隠れていなかったけど、それでも美人だった。どこか冷たさを感じるけど、大人っぽく清楚そう。間違いなく僕よりは年上だろう。
他にも人は居るのに美人を選んでしまったのは認めたくないけど僕がむっつりだからだろうか。
いや、誰だってそうするよね…多分。
「えと、この辺りに美味しいウォンリーダイのお店ってありますか?」
「……お店ってどっち? 買う方? 食べる方?」
「食べる方です。」
「そう。
ならそこが良いと思う。」
彼女の指は大通りに面したレストランに向けられていた。入り口の上に取り付けられたやや古びた魚の看板が目を引くお店だ。
僕もなんとなくだけど確かにあそこなら良さそうだなと思った。看板に親近感でも覚えたのだろうか。
「ありがとうございます! 行ってみます!」
「…ナンパじゃないの?」
「へ?」
ナンパ?
「そこは一緒に行こうとか、お礼に連れて行ってあげるとか…」
「え?
…ああ! そうですね、そう言う気遣いも必要ですよね! すみません、気が回らなくて…」
この人お腹すいてたんだ、全く気が付かなかった。
まあ、せっかく教えてもらっておいて一言だけじゃ悪いよね。
「……そうね。
貴女、ここの人じゃないみたいだしこの島のルールを教えてあげる。
この島ではお礼や恩は言葉だけじゃ返せないの。食べながら話しましょう?」
彼女はにっこりと笑ってそう言った。
その笑みの直前、一瞬だけ別種の笑みが映ったような気がしたけど―――
「はい! よろしくお願いします!」
―――僕は気にせず、彼女に付いて行った。
「調子狂うわね…」
「どうしてこの島に?」
「ウォンリーダイを食べに来ました。」
「どこでウォンリーダイの事を知ったの?」
「僕、レストランやってるんですけどお客さんから言われたんですよ。ウォンリーダイの料理は無いかって。
聞いたことも食べたことも無い食材だったので、料理人として気になって気になって。それで食べに来たと言う訳です。」
ルールを教える、と聞いて身構えていたら普通に雑談が始まった。
まあいいんだけどね。
「見た目に反して食いしん坊なのね。」
「食いしん坊ってそんな…気になるのはあくまで料理人としてです。そりゃ食べてみたい気持ちもありますけど。」
「やっぱり食いしん坊じゃない。」
「違います!」
「いっぱい食べられるのは良い事じゃない。
ダイエット中だって食事を控えめにする娘に比べれば、お腹いっぱい楽しんで食べられる娘の方が良いわ。もちろん、太らなければだけど。」
「食べた分は全部仕事で使っちゃいますからね。
料理して、お店を歩き回って注文を集めて、料理を運んで、時々お皿やフライパンを洗って…」
「1人でやってるの?」
「いえ、僕と…もう一人従業員が居て、2人で。
とっても良い子で賢いんですよ。こんなことを聞かれたら怒られちゃいそうですけど。」
「どうして? 褒めてるようにしか聞こえないけど。」
「子ども扱いするなって言われそうで。」
仮にこの場に居たら「前世の分を含めれば先輩より何十歳も年上なんだからね!」なんて言いそうだ。
流石にこのお姉さんには言えないけど。絶対信じてもらえない。
「ふふっ、随分と可愛らしい従業員なのね。」
「ええ、僕よりも年下なのにずっと色々なことを知ってて…本当にすごいと思ってます。」
「ちなみにその子って男の子? 女の子?」
「女の子ですよ。」
「へぇ、若い店主さんも隅に置けないわけ?」
「ち、違いますよ。僕と彼女はそんな関係じゃないです。」
どっちかと言うと保護者と子供だ。もう最近どっちが保護者なのかわかんなくなってきたけど。
っていうか最近の僕フォリスに助けられすぎ。不甲斐ない。
「本当? じゃあ、好きな子とかは居ないの?」
「好きなっ…!」
廃屋での一件を思い出す。
『じゃあ、結婚する?』
疲れ果てていた僕に覆いかぶさり、そう囁いた彼女の顔。
焼ききれそうだった思考。動かなくなった体。
思い出していく度に現実から思考が離れていく。そんな錯覚に陥る。
「ねえ、ね~え、聞いてる?」
「ぇあ! はい! もちろんです!」
「…顔赤いけど何想像してるの? エッチ。」
「僕はエッチじゃないです!」
「顔がいやらしかったけど?」
「えっ、嘘、本当に?」
「う~そ。」
「嘘!?」
「でもその反応で分かった、今貴女がエッチなコト考えてたって事。」
「………」
「相手は誰? 白状しなさい?」
「…………」
こ、答えたくない。
滅茶苦茶恥ずかしい。そんなの言えない。
「ふ~ん、そう…
もしかして、私? 会ったばっかりなのに?」
「いえ、違います。」
「そこで即答は傷つくわ…」
それを否定するのは別に恥ずかしくない。
「じゃあ、誰?」
「だ、誰でも良いじゃないですか…少なくとも貴女ではないんですから。安全は確保されてるんですから。
って言うか僕は別に変なことは考えてないです。エッチじゃありませんから。普通ですから。」
「それはこっちを見て言いなさい。」
「だってもう料理が来るかもしれませんし。あっちかなー? こっちかなー?」
「もう見苦しくなってきたんだけど。いい加減白状すれば?」
「それはしません出来ません。」
「お待たせしました~!」
ナイスタイミング店員さん。
「あ、お料理が来たので頂きますね。」
「…私も追加注文しようかしら。お腹空いてきたし。」
「どうぞ。」
「じゃあ、この人が頼んだのとそっちの人が食べてるのと、そこの人が飲んでるのとあっちの人が食べてるのと…」
「頼み過ぎでは!? 食いしん坊は貴女じゃないですか!」
「…ごめんなさい、この人が頼んだのと同じヤツだけ。」
「かしこまりました。」
びっくりした。店員さんもちょっと引いてたし。
と僕も引きつつまずは一口頂く。
「美味しい!」
「気に入ってもらえたなら嬉しいけど、気を遣ってるならその演技を止めなさい?」
「演技なんかじゃないですよ。やっぱり薦められるだけの味はあるなぁ…!」
「あら、そう…」
彼女はちょっと意外そうな顔をした後、少し赤い顔でしおらしくなった。
今の発言はちょっと卑屈だったし、もしかしたら素直に褒められることに慣れていないのかもしれない。照れ屋さんだなぁ。




