六十一話 一人旅を始めました!
連載前から考えていた構想はこの章で終わりです。
ウォンリー島。
そこは大陸に近いやや大きな島。
人の営みもあり、森や山などの自然も数多く残されている。
ある一点を除けばごく普通の島だ。
「あれがウォンリー島…!」
そんな場所へ向かう船の中に彼の姿があった。
彼の名はマノア。
マノアはまだ見ぬ景色に、まだ味わっていない味に思いを馳せている。
彼はまだ知らない。
待ち受けているのは楽しい旅行ではなく、地獄の入り口であることを。
…彼はまだ知らない。
その島が男子禁制の、女人だけの島であることを。
「あっはっは! それでせっかく男に戻れたのにまた女の子になっちゃったの!?」
「笑わないでくださいよぉ!」
後日、何とか薬を再調達して僕は男に戻れた。
営業を再開するとアユミさんが来て、その件の話をしていたらついそこまで話してしまった。女の子のトークスキルってそこまでできるんだ…人によるか。特にアユミさんがすごいだけだろう。
「案外マノア君もドジだねぇ、私てっきりしっかり者だと思ってたのに!」
「ドジで悪かったですね! もう!」
「姉ちゃん、そこまでにしとけよ。本人だって気にしてるんだから。」
「だってさー、もう途中まで聞いて『あっ…』ってなるじゃん? 進矢もちょっと察しがついたでしょ?」
「そりゃそうだけどさ。
なんか似たような話はいくつか聞いたような気がするんだけど実際何で聞いたのかは思い出せないんだよな。少なくともTSでは見たことなかったような気はするけど。」
「あ、TSで思い出したんだけど、マノア君あれやった? 『ある、無い!』って奴!」
「ちょ、ちょっと待ってください。TSってなんですか? あと、ある無いって何が…」
「TSは性転換、つまりマノア君が女の子になったでしょ? あれのこと。
あと、あるのがこう…あれで無いのがナニだよ!」
「姉ちゃん、思い出して見ろ。
あの時のマノアにそんな豊満なヤツが付いてたか?」
「ハッ! じゃあ、『無い無い』?」
「『無い』単発じゃないか? あっても。」
何の話を…段々分からなくなってきた。
2人で談義してるみたいだし、注文も取ってたから次のお客さんのところに行こう。
「すみません、次のお客さんのところに行くので。」
「あ、はーい。ゴメンね、長い事引き止めちゃって。」
「いえいえ、お気になさらず。」
そう言ってオータク姉弟の席を離れる。
あ、あのお客さんは初見さんだ。
「すみません、お待たせしました。
ご注文をどうぞ。」
「この店、ウォンリーダイの料理って無い?」
「ウォンリーダイ?」
初めてのお客さんから初めての単語を聞いた。
「その反応だと無いみたいだな。
まあ、それも仕方ねぇか。所詮ぽっと出の食材…この近くで獲れたとは言え、つい最近発見された食材だしな。」
「その話、詳しく伺っても?」
近場の食材。メニューの開発をすれば料理のレパートリーを増やせるかもしれない。
料理人としては非常に気になる。是非とも作りたい。そして食べたい。
「おう、良いぞ。お嬢ちゃんは可愛いから特別に話してやろう。」
…聞き流しておこう。
せっかく情報をくれる相手だ。少しでも気分は良くしておいた方がいい。
「ここからちょっと離れたトコにウォンリー島って言う島があってな。」
「ウォンリー島?」
「まあそこからだよな。
ウォンリー島ってのはつい最近まで他の島との交流を絶ってたってこともあってそこまで有名な島じゃなかったんだ。この町で育った嬢ちゃんにも聞き覚えが無いのは無理ないさ。
で、最近その島からの交易品にさっき言ってた魚が卸されてな。それがすっげー美味いって話なんだ。
ここらでもいくつかの店が出してたはずだ。機会があったら食いに行ってみりゃいいんじゃねーか?」
「へぇ~…」
この辺りでも。
なら僕の店でも仕入れることは出来そうだ。美味しい料理は出せれば出せる程良い。
「ありがとうございます。情報料ということで、今日は特別にお安くしておきますね。」
「へへっ、あんがとな!」
…それにしても、この辺りのお店か。以前の悪評のわだかまりは完全に溶けているのだろうか。
調べようにも不安だ。もしかしたら入店拒否とかもありそう…
……なら、ちょっと遠出してでも行くしかないか。
本場、ウォンリー島へ!
「……」
週末。
僕はウォンリー島に降り立っていた。
お休みの日を使って日帰りでウォンリー島へ行くことにしたのだ。
フォリスは前世で船に嫌な思い出があるらしく付いて来ないとのことだった。なので今日は僕一人の旅行だ。
(……緊張してきた。)
一人での旅行なんて初めてだ。
今までは両親やレーサさん、セシカさんと誰かが付いて来ていたけど、今回は完全に一人。レーサさんに関しては隣町程度の距離だったので旅行って言える距離じゃないかもしれないけど。
とにかく、準備は万全。抜けは無いはずだ。
船を降りて進み、検問を問題無く通過すると港を出ることが出来た。
異国の地(島自体は国の領土内だから正しい意味では異国ではないけど)に足を踏み入れているという特別感。なんだか大声を上げてはしゃぎたい気持ちになった。
…まあ、一人で来てるからぐっと我慢はするんだけどね。発散相手が居ないことが本当に悔やまれる。
「す~は~…
…?」
少しでも気を楽にしようと深呼吸をして気付いた。
なんだか甘い匂いで満ちているような気がする。
ふと、歩きながら見渡してみる。
(……あれ? なんだか男の人が見当たらないような…)
思い返してみれば船の中でもそうだった。
乗っていたのは女性ばかりだったし、島に着いた後も一度も男の人を見ていない。
(………僕が見てないだけ?
この島の女性人口が多いだけかな…?)
実際に男性の比率が多い国や女性の比率が多い国と言うのは聞いたことがある。
なんでも、理由としては最大派閥の部族が過去に女性を追い出したとか、男性は過去の戦争でほとんど死んでしまったとか…
この島も過去に似たようなことがあって、その爪痕が残っているとか?
(………まあいいか。)
何にしてもすることは同じだ。
ウォンリー島の海の幸を堪能して、街並みを見て回る。フォリスやレーサさん、セシカさんにもお土産を買って…
うん、楽しみだ!




