四十八話 作戦決定!?
後日。
大卓姉弟が借りている部屋に新たな来客が招かれた。
「……」
来客は三人の共有の知人であるレーサ。
彼女は三人から一通りの事情を聞き、招待に応じたのだ。
「それでは、作戦会議を始めます。
議題は知っての通り、マノア君の魔法少女活動についてです。」
仰々しく宣言したのはアユミ。両手を顔の前で組むお決まりのポーズを取っている。どうやら議長を気取っているらしい。
「…姉ちゃん、仕切るのは良いけど後から進行を俺に丸投げしないでくれよ?」
「そこ、静粛に。
…レーサさんはさっきの話を聞いてどう思った?」
三人の意見はほぼまとまっているので、残ったレーサに問われる。
「…オレが思うに、確証に欠けるな。
マノアがあんな格好して喜々として人前に出るとは思えねーけど、アイツが洗脳されてる証拠は無い。
万が一本人の意思の場合はどうしようもないと思う。
むしろやってることは人助けだ。止める方がまずいって可能性も考えられる。
実際、ここ最近盗賊やら悪人やらの検挙率は格段に上がってるそうだからな。」
レーサは自身の意見を率直に述べる。
客観的に見れば人助けをしているだけなので止められる道理が無いことは全員がわかっていた。
「ふむ…私もそこは考えていなかったわけではなかったけど、かといって放っておくと…」
「先輩が後で思い出して苦しむことになるかもしれない。
もう手遅れかもしれないけど、出来るだけ傷は浅いうちに何とかしたい。
あんなに女装が嫌なはずなのに、あのテンションでって言うとすごいストレスがかかってるかも…」
しかし、それで本人が不幸になってしまっては仕方ない。
一生その件に悩まされる危険すらあるし、仮に正気でマノカとして活動していた場合現時点で多大なストレスに悩まされている可能性もある。
いずれにせよ、彼にとっては負荷のかかる急激過ぎる変化であることには違いない彼女達はそう考えていた。
「…一つ良いか?」
「はい、進矢。」
「マノアは本当にシラを切ってるだけなのか?」
「というと?」
「皆、マノアがマノカの話をされた時シラを切ってるだけって感じで見てるみたいだけどさ…
様子を見た限り、シラを切ってるって言うより本当に知らないみたいじゃないか?」
「どうしてそう思うの?」
「あの『またか』みたいな顔、純粋にげんなりしてるように見えたんだ。表情からはまた騙すのか、みたいな罪悪感は感じられなかった。
それに、レーサさんとフォリスが助けられたって言った時、驚いてただろ? そこにも不自然さは無かったんだ。」
「…昔から思ってたけど、アンタよく見てるね。人の顔色。」
「姉ちゃんは気にしなさすぎる気がするけどな。」
「失敬な、アンタ程じゃないけど空気くらい読んでるって。」
「2人ともその辺にしとけ。
けど、言われてみるとそう言う気がしないでもないな…」
「そうだね…」
「…どうあれ、私達の意見も、シンヤの意見も推論に過ぎない。
まず、オレ達は確証を得るべきだと思う。それについて異論はあるか?」
「無いな。」
「ありません。」
「ないです。」
「じゃあ、次だ。
次はマノアの真意を確かめる方法を探ろう。」
「とは言っても…」
「シラを切られるのがオチだと思うけど。」
「とはいえ、無下にはできないよね。本当に先輩の意志だったら邪魔する理由が無いもん。むしろ手伝っても罰は当たらないと思う。」
「…俺は洗脳説を推すけどな。さっき言った点も踏まえて。
それにさ、男は可愛いなんて言われたらムッと来るものだぞ? わざわざそんなこと言われることするか?」
「進矢せんせー、それじゃあ女装してる男の子とかその他色々な男の子の説明が付きませーん。」
「普通にしててだよ! もしくは、その…嫌々女装させられたとかそう言う場合の話だ!
経験談だから間違いない。俺自身のだから個人差はあるだろうけどさ。」
「う~む…オレにはどうもシンヤが可愛く見えないんだが。」
「私もよく分からないかな…」
妙に実感のこもった言葉に疑問を持つレーサとフォリス。
その疑問に答えたのは姉の彩弓だった。
「昔の話よ。進矢が小5とか6…じゃなくて、大体11歳ごろの話。
何故か突然女の子達から可愛いって言われ始めてモテたんだけど、後になってそれがすごく嫌になったんだって。最初はまんざらでもなかったっぽいけど。」
「…まあ、モテて悪い気はしなかったよ。最初はそうだった。それは認めるけどさ。
でも、当時自分の顔が可愛いだなんて思えなかったんだ。むしろ悪い方だと今でも思ってるくらいさ。
それなのに男なのに可愛いだなんて言われ始めたら、揶揄われてるんじゃないのかって邪推もするさ。」
「それはアンタの心がねじ曲がってたからだと思うけど…丁度その時軽い人間不信だったじゃない。」
「それも一因かもしれんが、とにかくそう言う訳でアイツの気持ちはちょっと分かるんだよ。」
「そうなのか。」
「…ちょっと見てみたいかも。」
「……時に進矢、今の下りは若返りかTSフラグだと思わないかい?」
「マジで止めろ。
…話を戻すぞ。
マノアの真意だったよな。ただ、それを直接問い詰めてもほぼ確実にシラを切られる。
だから確かめようが無いと。」
「ああ。」
「そう考えると本当に厄介だね…」
「……そもそも、人の気持ちなんて証明しづらい物だしな。
本人が隠す気なら尚更、不可能と言っても良いだろう。」
「出来ないって認めたら進めないだろ。」
「そこでだ。
俺はさっき洗脳説を推すと言ったな。
では、仮にマノアが洗脳されているとして、洗脳しているのはなんなのか?」
「…アンタ、まさか…」
「さすが姉ちゃん。もう察しがついたみたいだな。
そう、あの杖だ。
魔法少女に意思を持った杖なんて組み合わせだ、どう考えても杖が黒だ。
よって、俺は杖を奪うことを提案する。」
「理由とか情報を一足跳びに一気に手段に走ったわね…私はそれ反対だけど、2人は?」
「……認めたくはねーけど、それ以上の案は思いつかない。」
「同じかな…頭ごなしに反対しても会議が全く進まないで終わりそう。」
「何その日本の会社。」
「日本バカにすんな。故郷だろうが。」
「はーい。
でもさ進矢。こういう場合ってマスコットみたいな謎生物が居たりとか表に出ない黒幕が居るって言うのが相場じゃないかい?」
「そういう奴をあの杖が見逃すようには思えないんだよな…
だって正義感強いだろ? マノカも同じ方向の正義感持ってるし。」
「ああ、確かにあの二人ならそうかも…
…待って、だから洗脳ってこと?」
「そう。
マノアがどんな奴かはまだ分からないけどさ、あの杖と同じような正義感…っていうより、価値観を持ってるのが単なる偶然とか同調とかには思えないんだ。
…ただの直感だけどな。どうなんだ?」
と、ここでフォリスとレーサに問いかける進矢。
大卓姉弟はマノアと知り合って浅い。その経験を2人に求めるのは当然であった。
「…私はおかしいと思う。
先輩ならいくら悪人でもあんなに躊躇なく攻撃しないはずだよ。戦わない方向に持って行こうとすると思う。」
フォリスが迷いなく断言する。
付き合いの長さによるものなのだが、フォリスが平行世界の記憶を持っていることを知らないレーサは驚いた。
「……そう言えば、オレと一緒に隣町に行った時もあんまり戦いたくなさそうだったな。
戦う力が無いからってのもあると思うが、多分性格的なところもあると思う。
…それには気が付かなかった。すげーなフォリス、短い付き合いなのにそこまで分かってるなんてさ。」
「え? う、うん…
まあ、あくまで今までの先輩ならってだけで、ああいう人に出会い続けて擦れたってことも考えられるけど。」
フォリスは少し照れくさそうに、ちょっとした罪悪感を感じながら話を進める。
「話を戻すけど、杖を奪うってことで良いの?」
「…改めて考えると危険そうだな。最悪マノカと敵対するかもしれない。」
「でも、虎穴に入らずんば虎子を得ず。ここでやらなきゃマノア君はずっとこのままかもしれない。
…とはいえ、作戦は必要そうね。何かいい案はある?」
「そうだな…まずは杖の所在からか。
フォリス、何か知らないか?」
「先輩の部屋をちょっと探してみたけど、目に付くところには無かったよ。隠してるのかも。」
「そうか…じゃあ、まずは杖を探すところからだな。可能性として考えられるところはあるか?
って、そういやオレはマノアの部屋に入った事ないんだっけ。」
「…それなら、先輩が留守のタイミングで探る? お休みの日とか。」
「いや、それじゃ杖を持って行かれる可能性が高い。マノアが活動できるとしたら休みの日くらいなんだろ? その時に置いて行くなんて考えられない。」
「……じゃあ、二手に分かれよう。
フォリスちゃんと私がマノア君の部屋を調べる。
進矢とレーサさんはマノア君を誘って遊びに行って、隙があれば杖を奪う。
丁度挟み撃ちの形になるね。」
「ならねーよ。
あと、その作戦には問題がある。」
「問題?」
「ああ。俺とレーサさんが杖を奪おうとしても、杖が部屋にあった場合は無駄骨になる。
逆に、杖が部屋にあっても見つけられなかった場合は? 俺達が杖を奪えなかった時は?」
「問題ってそれ、後者はただの敗北条件じゃない。そうなったら終わりだから、絶対に失敗しないでね。私達も頑張るから。
前者の方だけど、見つからなかったらその時は知らせに行くから。どこに行くかは事前に聞かせてね。」
「…了解。
ちなみに、人選に理由はあるのか?」
「マノア君の部屋を知ってるのはフォリスちゃんだけだし、もし進矢がフォリスちゃんに手を出したらまずいでしょ?」
「しねーよそんな事!」
「どうかなー? 男は狼って言うから、気を付けなきゃだよ?
それと、レーサさんは戦闘面では進矢なんかより圧倒的に上だから襲われる心配も無いしね。
仮にマノカちゃんと戦闘になっても、レーサさんなら勝てるかもしれないし。私達姉弟はそっち方面駄目だから。
そう言う訳で、少なくともレーサさんとフォリスちゃんがばらける。そして、私達も必然的にばらけるって訳。異論はある?」
「…ちゃんと理由があるなら良い。」
「オレも大丈夫だ。よろしくな、シンヤ。」
「ああ、よろしく…っていっても、戦うことになったら任せっきりだろうけどな。」
「私も良いよ! よろしくね、アユミ!」
「うん! じゃあ、作戦の成功を祈ろう!
日時は次の休日で良いかな?」
こうして、作戦は決定された。




