四十九話 なにしてるの!?
「どうしよう…」
「まさか、こんなことになるなんて…」
作戦決行の日。
フォリスから緊急招集がかかり、進矢、彩弓、レーサの三人が休業中のシーサイドに来ていた。
四人中三人は頭を抱え、レーサが一人腕を組んで考えている。その理由は…
「こんなに朝早くから出て行くなんてね…」
…マノアが既に外出していたからだ。
彼にはレーサから外出する約束を取り付けていたのだが、朝起きてみれば彼の部屋はもぬけの殻。杖も残されていなかった。
書置きも無いため、彼を辿ることも出来ない。
四人が集まって数時間。昼まで待っても帰ってくる気配は無かった。
「…けど、これではっきりしたね。
マノア先輩は約束を破るような人じゃない。つまり…」
「洗脳されてる可能性が高い、と。
でもさ、もしかしたらやむにやまれずみたいな事情があったかもしれないんじゃないか?」
「もしくは感付かれた可能性もある。
シンヤとアユミはともかく、オレとフォリスはマノカがマノアってことを気付いてるかもしれないって思われててもおかしくはないからな。」
「それなら、もう作戦の決行は不可能か…?」
「…落ち込むのは早いんじゃない?
チャンスが一回無くなっただけだし、次の休みにでも約束すれば良いじゃない。」
「……それもそうか。
次の休みにもう一回誘ってみよう。作戦はその時だ。」
と、話し合いがひと段落付いた頃。
ドンドンドン!
強いノックがシーサイドの扉を鳴らした。
「すみません! 今日はお店やってないんです!」
フォリスはいぶかしみながら返事をする。ドアに休業の張り紙をしているので、休業に気付かないなどと言うことは無いはずだが…
「フォリス様! いらっしゃるのですか!? 大変です!」
声はセシカの家の執事のものだった。
フォリスは切羽詰まった声に異常を感じ、急いで鍵を開ける。
「どうしたの?」
「大変です! マノア様が入院なされました!」
「「「「入院!?」」」」
「…来たわね。」
執事に連れられ、四人はマノアが入院したという病院に来た。
部屋に居たのはベッドの上で眠るマノアとその隣に腰掛けるセシカの2人だ。
「アンタがマノアを雇ってた貴族様か?」
「そうだけど…それがどうしたの?
…そう言えば、貴方はマノアの知り合いみたいね。随分と仲が良さそうだったけど?」
この時のセシカの言葉にはやや棘があったが、レーサはそれに気付くことなく答える。
「ああ、マノアの友達だ。
その件だが…ありがとな。オレだったらあんなに完璧にマノアを助けられなかったからさ。いつか礼を言いたいと思ってたんだ。」
「………別に、私は私の家族を助けただけだから。」
「え? 家族?」
「ええ。今は離れて暮らしているけれど、一時は同じ屋根の下で眠って、同じ食卓に着いた家族よ。」
「同じ釜の飯って奴だな。だったら、オレもマノアが作ってくれたサンドイッチを食ったぜ?」
「同じ釜の飯って…」
「どこまで日本の言葉が伝わってるんだろ?
あ、でもこの世界の人たちって皆翻訳魔法をかけられてるんだよね。それが私達の世界の言葉に治されてるだけかも。
この世界にはお米も普及してるみたいだし、近い言葉があっても不思議じゃないんじゃない?」
「そう言うものか?」
「そう言うものなんでしょ。」
「そう言えば、その2人は?」
セシカはこれ以上の言い合いは不毛だと悟り、フォリスとレーサの後ろに居る2人に視線を移した。
「フォリスちゃんとレーサさんの友達だよ。コイツは私の弟。
それで、マノア君に何が起こったの?」
「ウチ達も、夜遅くにこの病院に運ばれて来たって話は聞いたよ。」
「ええ、それも町の外から。
何が起こったかは聞いてた?」
「ううん、何も聞いてないよ。」
「そう…
マノアは、人質を取られて盗賊達から攻撃されたみたい。
以前マノアが捕まえた盗賊の中に今回の盗賊と長い付き合いの人が居たらしいわ。
一瞬の隙をついて盗賊達は気絶させたけど、執拗な攻撃を受けてて酷い傷を負ったみたい。
一応、気絶する直前にほとんどの傷を治したみたいだけど…かなり血を流してたからか、まだ目を覚まさないの。」
「……」
自分たちがもっと早く行動していれば…
そう悔やんでももう遅い。目の前の彼は既に傷を負ってしまっている。
「…やっぱり、止めるべきだった。
人助けになるからとか、本人の意思かもしれないとか、そんなの関係なしに。」
「フォリス…
…気を落とすな。オレだってマノアがそういうことをしてたのは知ってたし、止めようともしなかったんだ。
それに、あんな力を見たらこんなことになるなんて思いもしないさ。お前達も助けられたんだろ?」
「「………」」
己が助けられた時に見た、圧倒的な力。
彼は無敵だと、皆勝手に思い込んでしまっていた。万一の傷すら許さないだろうと。
「…そう暗い顔すんな。
マノアなら多分大丈夫だ。ある程度の治癒は間に合ったんならきっとすぐ元気になるさ。
後はオレ達が行動するだけだ。もうこんなことにならないようにな。」
そう言って、レーサは寝ているマノアへと足を進める。
「行動…? どうするの?」
「っと、貴族様は知らなかったな。
実はオレ達、マノアを止めようとしてたんだ。
今回の事は予想外だったけど…マノアにはあんなの性に合わないだろうしな。いつか限界が来るはずだと思ってたんだ。
そう言う訳で…」
マノアの目の前に差し掛かったところで、彼にかかった毛布を剥がし取った。
「ちょ、ちょっと! 何してるの!?」
慌ててレーサを止めようとするセシカだったが、力ではレーサの方が上。しがみつかれた上でも平然と行動を続行する。
「んー、無いな。じゃあ…」
レーサは毛布やマノアの周辺を調べ終えると、何の躊躇もなくマノアが来ている患者用の服に手を掛けた。
「誰かちょっと遠くから見ててくれ。逃げられるかもしれん。」
「本当に何やってるの!? あ、そ、そんなところまで…!」
「誰かあの狩人止めて!」
「(レーサ)1人10人で行けるか!?」
「ネタに走ってる場合じゃないぞ姉ちゃん! レーサさんストップストップ! ここには女の子も居るんだぞ!?」
「失礼な、オレだって女だ。」
「そうだけどそうじゃなくて! やりたいことは分かってますから俺にやらせてください!」
「え…進矢、それは流石に我が弟ながら引くよ?」
「そういう目的じゃねーから!」
「さーて本当にあるかな~っと…」
「何しようとしてるんですか!?」
『い、いい加減止めてください出て行きますから!』
とうとうズボンにまで手を掛け始めたレーサに慌て、目的の物はマノアのベッドの下から姿を現した。




