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シーサイドへようこそ!  作者: じりゅー
第四章 『魔法少女(?)爆誕!』
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四十七話 笑われた!?

 夜闇に包まれ、物音一つしない雑踏を窓から眺める。

 この宿の隣には酒場があったはずだが、今日は明かりも無く静かだ。

 酒場と言えば夜中も飲んだ食ったのどんちゃん騒ぎをしているイメージがあったが、現実としてそう毎日毎日お祭り騒ぎとはいかないらしい。

 考えても見れば当たり前だ。いくら稼いでいても、毎日毎日仕事終わりに飲んだくれていたのではどう考えてもお金が尽きてしまう。


「くかー…」


 …部屋の反対側にあるベッドでがっつり間抜けな寝顔をさらけ出している姉を見て呆れる。

 忘れてるのかそうでないのか、どっちにしろ眠ってしまっては仕方ないだろうに。


 コンコン


 と考えていると、ノックの音が聞こえた。

 扉の向こうには誰が立っているのか、予想は付いているので立ち上がって返事をした。


「ちょっと待ってくれ、姉ちゃんを起こすから。」


「寝てるの? ならそのままでも良いよ。」


 進矢(俺)がドアの鍵を開けると、ゆっくりとドアが開いた。


「ゴメンね、待たせちゃったみたいで。」


「いや、悪いのは約束をすっぽかして爆睡かましてるウチの姉だ。フォリスは悪くない。」


 開いたドアの先には、約束通りフォリスが来ていた。

 レストランに行った時、夜に宿に行くから待っていてほしいと言われたのだ。


「…本当に来きたな。」


「そりゃ、行くって言ってたし。」


「いや、そうじゃなくて…

 俺達はお前にどの宿に泊まるかって言ってなかっただろ? どうしてわかったんだ?」


 俺が驚いていたのは夜中にこんなに幼い子が平気で出歩いていたからだけではない。

 昼間の時、店では雑談ですら宿の事を話題に出していなかったにも関わらず、泊っていた宿を当てられたからだ。

 教えようとはしたのだが、当てて見せるからと言わせてくれなかった。

 当てられるにしても、こんなことに意味があるのだろうか?

 彼女への疑問は尽きない。


「分かってるからね。

 貴方の秘密と同じで。」


「………それ、マジでどこにも言うなよ?」


 …彼女は、俺の秘密を握っている。

 今日会ったばかりなのにどうして? と第三者が居れば問いたいだろうが、俺だって訊きたい。

 どうして会ったばかりの女の子が人のこっぱずかしい黒歴史を知ってるのか…!

 昼食の直前に俺と姉の前で暴露された黒歴史。

 内容は伏せるが、それは脚色も美化も何も無い、俺達姉弟とごく一部の人間にしか分からないはずの事実だった。

 出来れば忘れていたかったが、彼女の待ち合わせを待つきっかけとなったのがそれだ。それを言われていなければそんな約束なんてしなかっただろう。


「で、理由なんだけどね。

 私は別の平行世界の記憶を持ったまま生まれた人間なんだよ。

 タイムリープとも転生ともちょっと違うのかな。

 とにかく、フォリスっていう人間として生きるのは二回目。だから、前回…じゃなくて、別の平行世界で出会った貴方の事を知ってたんだ。

 もちろん、シンヤが別の世界…ニホンっていう所から来たって言うのも知ってるよ。

 その記憶をたどって、以前貴方が泊ってた宿に来たって訳。」


「…なるほど、それで分かったのか。

 わざわざ当てるって言ったのもこの話の信憑性を上げる為だったんだな。


「そうだよ、当たってるかどうかちょっと不安だったけどね。」


「不安? なんでだ?」


「っていうのも、向こうの世界とこっちの世界だとちょっと違うみたいなんだ。

 マノア先輩から聞いた話には食い違いがあるみたいだし、貴方の姉なんて人も居なかったし。」


「そうなのか?」


「うん。

 それで、貴方が向こうの世界と同じで信用できる人間だと信じた上での相談なんだけど…」


 …本題か。

 そもそも、この待ち合わせは彼女から話があるということでしていたものだった。

 本題に入る前から大分衝撃的な事実を訊かされたのだが、一体これからどんな話をされるのか…


「チューニビョーって、どうにか治せないの?」


「………は?」


 全く想像してない単語が出てきた。

 覚悟はしていたが、驚くのベクトルが違い過ぎる。斜め上というか下というか…


「くっ、ふふふ…」


「あの! 笑わないでほしいんだけど! ウチは真剣に話してるんだよ!?」


「あ、いや、今のは俺じゃなくて…」


 聞えて来た笑い声は壁側を向いて眠っていたはずの姉だった。


「アッハッハッハッハッハ! ハハハハハ…ふぅ~…ゴメンゴメン。

 何やら重い話かなって思ってたら急に中二病の治し方を教えてほしいなんて言うもんだから…つい…」


 ………客観的に考えてみると確かにおかしいな。

 いや、だからこそ俺は思考が停止したわけだし、姉ちゃんは笑ったんだけど。本題がシュール過ぎる。


「何がそんなにおかしいの!?」


「だって、そりゃ…一応聞くけど、中二病ってなんだか知ってるの?」


「ええっと…十四歳前後で発生する病気で、不治の病だとか…」


「いい機会だから教えてあげるけど、中二病っていうのは別に病気の事じゃないよ?」


「え?」


「中二病って言うのはね、所謂ネットスラングなんだけど…

 十四歳くらいの子供っていうのは、背伸びしたい年頃なの。それで実際にありもしないことを言ったり、かっこいいなんて理由で横文字を使ったり…そういうのを病気って例えただけ。

 それで、後になって思い返すとそう言う背伸びって言うのは恥ずかしくなってくるもんなの。フォリスちゃんも経験ない? ありもしないホラを吹いて、後になってからそれが恥ずかしくなったってこと。

 中二病って言うのはそれの繰り返しとか、延長みたいなものなの。」


「………?

 …………!」


 少しの間何かを考えた後、何かに気付いたような顔になって顔を赤くするフォリス。


「…つまり、ウチは…誤診したってこと?」


「誤診?

 どういうこと? ちょっとお姉さんに聞かせてみなさい?」


 彼女は顔を赤くしたまま俺達姉弟に事情を話し始めた。







「やっぱり、あの人がマノカさんだったのか…」


「っていうか、マノアさん男だったんだ…

 …これは萌える。」


「おい駄目姉今なんてった?」


「うっさい! あんただって男の娘は好きじゃない!」


「そうだけど俺は男の娘のハーレムものが好きなだけだからな!? いや、主人公が嫌いって訳じゃないしむしろ好きではあるんだけどそう言う意味じゃないんだからな!?」


 …事情を説明し終えると、2人は唐突に口喧嘩…いや、じゃれあいに近いものだろう。そんなやりとりを始めた。

 前の世界の影響で何となくわかってしまう自分に自己嫌悪を抱いていると、一通りの決着がついたのか顔をウチに戻した。


「フォリスちゃん、改めて訊くけど…

 マノア君は本当に女装が嫌いだったの?」


「うん、それは前の世界と変わってないみたい。」


 まあ、向こうのマノア先輩(オーナー)ならお金が絡んだら嫌々でもやりそうだけど…

 こっちの先輩は向こう程お金に執着してるわけじゃないし、余程のことが無い限りはそんなことしないだろう。

 …その余程がつい最近あったばかりみたいだけど。


「で、その杖は喋ってたのか?」


「多分…

 マノア先輩と話してたけど、もしかしたら、先輩がそんな感じでテレパシーを使ってただけかもしれない。」


「そして、杖を持ってる時だけ強い魔法が使えると…」


「普段のマノア先輩は…どうだろう。

 向こうの先輩が強い魔法を使えなかったのは知ってるけど、こっちの先輩は魔法を使ってるところなんて見たことない。職業柄そうなるのも仕方ないと思うけど。」


「……そして、自称してる魔法少女…

 うん、これはあれかな。杖が主導のパターンかな。」


「魔法少女って言ったら大体そうじゃないか? 言うて俺もあんまり見ないけど。」


「けど、魔法少女のコスは決してマノア君の趣味じゃないよね…

 嫌々魔法少女やらされてるってパターン…にしては、役に入りすぎてるように見えるし。」


「つまり?」


「…洗脳。」


 ……!


「じゃあ、先輩は操られてるって事?」


「ま、待ってフォリスちゃん。あくまでこれは可能性の話だから…」


「もしそうなら止めされてあげてください! きっと、先輩は今やってることを後悔するから!

 人前であんな格好して、ノリノリで名乗りを上げて…仕草まで女の子になっちゃったところなんて思い出したら本当に命を絶ちかね…るかどうかは分からないけど、心に大きな傷を負うはずだから…」


「…フォリスちゃんは、マノア君を守ってあげたいんだね。」


「当たり前だよ…!

 前の世界でも、今の世界でも助けてくれた人なんだから助けたい!」


「……幸せだね、マノア君は。

 こんなに健気な後輩に恵まれたんだから。

 わかった。

 私達も協力するよ。マノア君を元に戻すの。

 …良いよね、進矢?」


「ああ、もちろんだ。」


「…ありがとう。アユミ、シンヤ…」


 自分は一体、どんな表情をしているのだろう。

 そう言ったウチの顔を見て、2人は小さく微笑んだ。

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