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シーサイドへようこそ!  作者: じりゅー
第三章 『食べ歩きと新人!』
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三十五話 幸運でした!

 

「美味しかったですね!」


「おう! その店紹介してくれた奴にはオレも礼を言いたいな!」


 お店から出て歓談しながら街をぶらつく。

 せっかく遠出してここまで来たのにこのまま帰るのはもったいないということで、レーサさんと一緒に街を回ることにした。

 見慣れない街並みと言うのはワクワクする。どこにどんなお店があるのか、どんな家があるのか。自分の目が輝いているのが分かるくらいだ。


 ドン!


「うわっ…」


 突然ぶつかってきたのは小さな子供だった。

 横からの衝撃は軽いとはいえ勢いがあったので、対応できずに尻もちをつく。


「いたた…」


「大丈夫か?」


「はい、大丈夫で――」


 横を見ると、レーサさんはそこにはいなかった。


「うわあ! 放せ! 放せよ!」


 代わりに聞こえてきたのは小さな少年の声。

 見てみるとレーサさんがその少年を捕まえていた。


「レーサさん! どうして…あ!」


 少年の手には僕の財布があった。

 急いで荷物を確認したけど、やはりその財布は荷物の中から見つからなかった。


「その財布を返したら放してやる。」


「くそっ…」


 少年は財布を投げ捨てると、着地と同時に走り去っていった。

 レーサさんは僕の財布を拾い、砂を払って僕に差し出した。


「…ありがとうございます。」


「浮かない顔だな。

 まあ、気持ちは分かる。」


「……」


 事故か、殺人か、捨てられたか…原因はともかく、親を失った孤児はどこかへのコネが無い限りああして稼ぐ他ない。

 両親を失い必死に生きる様を見て、必死だった頃の僕を重ねてしまった。

 レーサさんもきっと同じだったのだろう。彼女も同じ顔をしていた。


「…同情するのは止めた方が良い。

 ああいうのは世の中に溢れすぎてる。一人二人同情したって全部助けられる訳じゃない。キリがないんだ。」


「…分かってます。」


 財布を受け取り、バッグにしまう。

 一度目を閉じて、深く息を吸って吐く。


「…行きましょうか。

 せっかくの観光、楽しまなきゃ損ですからね!」


「…そうだな、思いっきり遊ぶぞ!」


「はい!」







「もう夕暮れだな。」


「遊びすぎちゃいましたね…」


 ……流石に遊びすぎてしまった。

 暗い気持ちはすぐに払拭できたし、今日一日は非常に充実したと言えるけど…今日買ったお土産の一部には料理の試作の為に仕入れた食材もある。

 今日中に帰って魔道具(冷蔵箱)に入れておきたいと思ってたけど、遊びすぎてしまった僕が悪いわけだし…

 この時間から走らせている馬車なんてある訳が無い。移動手段が徒歩しかない以上、これから帰るとなれば野宿は避けられないだろう。


「どうするマノア? 今日は宿でもとるか?」


「そうですね…

 う~ん…帰ります。」


 少し悩んで結論を出した。最悪徹夜で帰れば食材は間に合う…はずだ。


「帰るって、こんな時間からか?

 昨日みたいなことも考えられるし、素直に宿とって一晩明けてからの方が良いんじゃないか?」


「そうかもしれないですけど…」


 もちろん、それも一理ある。

 昨日みたいな強い魔物(例外)を上げたらきりがなくなりそうだけど、レーサさんが居るからって安心はしきれない。一時的に離れた時に、なんてことも考えられる。

 でも、そうなると今日仕入れた食材が…


「おや、こんなところで会うとは奇遇だね。」


 と、2人で悩んでいると意外な声が聞こえた。

 セシカさんの家にいたコックさんだ。なんでこんなところに?


「マノア、コイツは誰だ?」


 疑問は後回し。先にレーサさんに紹介するとしよう。


「一昨日まで僕が働いていたところのコックさんです。お久しぶり…と言う程でもないですね。」


「うんうん、お久しぶりモドキ!

 この街に来たってことはそう言うことなんだね?」


「はい、お察しの通りおすすめのお店回りです。今日食べてきましたけど、おいしかったです。ありがとうございました。」


「いやいや、そう言ってもらえると嬉しいよ! 他のお店も美味しいから、是非とも回ってみてね!」


「はい!」


 今回来たお店を教えてくれたのは他でもない、このコックさんだった。

 早速お礼が言えたあたり、もしかしたら僕は運が良いのかも…なんて、都合が良すぎるか。


「…なるほど、ソイツが薦めた店だったのか。」


「ん? マノア、そこの狩人さんとは知り合い?」


「はい、友人のレーサさんです。」


「美味い店教えてくれてありがとな。マノアにも良い息抜きになると思う。

 マノアのヤツ、基本仕事ばっかりだからちゃんと休んでんのか今でも心配でさ。」


「あ~、分かる分かる! この子休みの時ってずっとお嬢様と一緒だったから!

 お嬢様が忙しい時は暇そうだったし、ちゃんと息抜きできてるか不安だったよ。」


「僕のお休み事情どれだけ心配なんですか!? ちゃんと休みの時は休んでましたからね!?」


 なんでそんなことで意気投合してるのこの人たち!?

 まあ、僕の趣味って言ったら料理くらいだしね…厨房は使えなかったし、確かに暇を持て余してた時はあった。

 でも、セシカさんから借りた知恵の輪は面白かった。お屋敷の書庫にある本もいくらか面白いのがあったし、心配させるほど息抜きが出来てなかったわけでもない。


「それより、どうしてここに?」


「ああ、ちょっとお休みを利用して来てたんだ。時間外れちゃったみたいだけど、マノアに紹介したお店に食べに来てたんだ。

 それで、今から帰るとこだけど…せっかくだしお屋敷に遊びに来る? 部屋もそのままだから泊っても良いよ? 宿代も要らないし。」


「あ、いえ。今日は食材を仕入れたので、帰ります。」


「今からかい?

 それなら、確か私が乗る馬車に空きがあったはずだし送っていくよ?」


「そこまでしてもらうのはちょっと…」


「遠慮はいらないさ! 実は一緒に帰るって人がそっちの町に用事があるって言っててね。お屋敷にも遅れることも伝えてあるのさ。」


「……じゃあ、それなら。」


 用事のついでに送ってくれるなら良いか。


「あ、でも狩人さんまでは乗れないかな。ゴメンね。」


「オレは別に良い。

 明日は依頼を受けたいからな。新しい剣に慣れとかないとだしな。」


 そう言えばレーサさんの剣、新しくなったんだった。

 武器が命の職業だし、新しい武器の使い心地は気になるところだろう。


「じゃあ、オレは宿取りに行くから。またな。」


「はい! またいつか!

 では、お願いしますね。」


「はいはーい! じゃ、その馬車に乗って。」


「はい!」


 馬車の中を覗くと、荷台の両端に座席を付けたような乗り合いの馬車のようになっていた。

 座っているのはお屋敷で見た顔ばかりだった。もしかしてセシカさんの家の使用人専用の馬車とか?

 送迎までしてくれるんだ…僕はお休みの日は外に行かなかったから知らなかったけど。


「あれ? マノア君?」


「マノアちゃんじゃん! あれ? どうしたの? 辞めたんじゃないの?」


「ちゃん付けは止めてください!

 使用人は辞めたんですが、ちょっと事情があってこの馬車に乗せて頂くことになって…」


「事情って?」


「あーえっと…食材を買ったんですが、ここまで遠出したのは初めてだったので。

 つい浮かれて遊びすぎてしまって、今日中に帰るつもりが気付けばこんな時間に…」


「まあ、可愛い失敗だよね。」


 …ちょっと可愛いに反応しそうになってしまった。過去のせいとはいえ過敏になりすぎてるかな。


「それで、その食材は?」


「あ、ちょっと持ってきます。」


 少しの間とは言え馬車の外に置いて来てしまった。ちょっと覗くだけのつもりだったとはいえ、昼間のこともあったのに不用心か。


「……?」


 荷物を取ろうとした時、僕の荷物の隣に白い袋があることに気付いた。

 誰だろ、こんなところに荷物置いたの。僕が言えることじゃないかもしれないけど、不用心だなぁ。


「あれ? マノア、まだ入ってなかったの?」


「いえ、ちょっと荷物をと。貴女はどうしたんですか?」


「私はちょっと、ね。お花を摘みに…

 それより、早く乗った乗った!」


「そうでしたね、ではお先に。」


 バッグを背負って馬車に乗り直す。

 女性ばかりに囲まれるのはちょっと抵抗があったので、端に座らせてもらって隣に荷物を下ろす。


「…っ!?」


「…? どうかしましたか?」


「え? 何が?」


 何か聞こえたと思ったんだけどな…

 隣の人じゃないなら、まあ気のせいかな。


「……ん? なんだコレ…

 あ、これがさっき言ってた食材かな? 荷物を取りに来て取り忘れるなんて、マノアは結構おっちょこちょいだなぁ。」


 この時は、そう思っただけだった。

 後の僕は思った。きっと、気まぐれでもここでバッグを開けていたのなら未来は変わっていたのかもしれない。

 …いや、変わらなかったかもしれない、と。

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