三十六話 予想外でした!
こちらは本日二話目となっております。
「着いたよ、この辺で良いかい?」
馬車から身を乗り出して見てみると、そこは確かに僕の家の近くだった。
「はい! ここで大丈夫です!
ありがとうございました! 助かりました!」
お礼を言いながら荷物を持って、改めて馬車から出ていく。
そこから細い路地に入って進むと、すぐにシーサイドに着いた。
「やっぱり、落ち着くなぁ。」
見飽きるを超越し、安心感を覚える玄関。
生まれ育った実家というのはやはり落ち着く。長い間離れ、遠出から帰ってきた今なら尚更だ。
「おーい、マノアー!」
唐突な呼び声に振り返ってみると、さっきのコックさんが来ていた。
手には白い袋がある。どうしたんだろ?
「忘れ物だよ。コレ、マノアのでしょ?」
「え? 違いますよ?」
僕が持ってきたのは今持っているバッグだけだ。
白い袋に荷物を詰め替えた覚えも無い。それでもバッグには空いてるスペースがあったくらいだし。
「食材を持って帰るのはマノアしかいないよ。お屋敷で使う食材ならそれ用の馬車に載せてくるからね。」
と、袋を開けて見せて言うコックさん。
中身は確かに僕が買ったものと同じだ。細部まではわからないけど、少なくとも見覚えの無いものはない。
「じゃあ、馬車待たせてるから! 今度来るからね~!」
「あ、はい! またいつか!」
…見送ったはいいけど。
──じゃあ、僕のバッグは?
袋に買ったものが入っている以上、確かに感じる背の重みが気になり始める。
僕は玄関の外であるにも関わらず、慌ててバッグを降ろして…
「………」
唾を飲み込み、覚悟した上で開いた。
「あ…」
「…………」
開いた途端、バッグの中から声がした。
僕の目が正しい景色を映しているのなら、或いは脳が正しく認識しているのならば。
バッグの中には少女が居た。
10歳前後だろうか。服も体も汚れていて、頬はやつれている。腕も健康な子供と比べれば細いように見えた。明らかに栄養状態が良くなさそうだ。
…おそらく、孤児だろう。昼間にぶつかった子供と同じ。
「オー…ナー…」
オーナー?
確かに僕はシーサイドのオーナーだけど…なんで初対面の女の子からそんな呼び方されるの?
「オーナー…! オーナー!」
「うわっ!?」
涙を流しながら、オーナーと連呼している女の子は何故か僕に抱きついてきた。
大きな疑問は残ったままだけど、震えて泣いている彼女が可哀想に感じ、抱き返して頭を撫でた。
「どうして、僕のバッグに入ってたの?」
最初はオーナーとしか言ってなかったので、もしかしたら言葉が通じない異国の人なのかと思ったけど普通に話せることが判明したため事情聴取を始めていた。
汚れたままの状態でお店のスペースを使ってほしくなかったし、何より女の子なのに可哀想だと思ったので、一度お風呂に入って貰っている。その間に充分頭を整理できただろう。
とにかく、彼女のことはわからないことが多すぎる。特に、今訊いたところとか。
「…えっと、食べ物を盗もうとしたから…」
「…………」
なんでバッグに入ったの。
別に、バッグの中身を盗ろうとしてもバッグに入ろうとは思わないだろう。むしろバッグごと持っていきそうなものだけど…
…目が泳いでるし、恐らく嘘だ。この子は嘘を付けないタイプらしい。
「…本当は? 嘘はつかなくて良いから、正直に言いなさい。」
子供を諭す親みたいになってしまった。子供相手だと誰でもそうなってしまうものなのだろうか。
「…貴方に、会いたかったから…」
「………」
…正直、理解できなかった。納得出来なかったとも言う。
何故なら目の前の女の子には全く見覚えがないからだ。初対面の女の子になんでそう思われるのだろうか。
「正直にって言ったよね?」
「正直です! 正直に言いました!」
「じゃあ、なんで僕に会いたかったの? 初対面だよね?」
「初対面…そうだよね、そうなるよね…」
え、なんで泣きそうなの?
「貴方は…前世って信じる?」
「前世? 前世って…あの前世?」
「その前世であってます…」
「…じゃあ、何?
前世の僕は前世の君となにかしらの関わりがあって、それで僕に会いたいと思ったって言うこと?」
「…そんな感じです、はい。」
「………」
疑惑の視線が突き刺さるのは覚悟の上で言ったのだろう。
でも、さっきと違って嘘をついてる感じてもないし…それに、バッグから出てきた時の反応にも、一応説明が付く。
…どうでもいいけど、その設定でいくと僕は前世でもお店を経営してたのかな。最初に“オーナー”って言ってたし。
けど、現実的に考えれば最初に言ってた盗もうとしたってが方が信じられる。そのくせバッグの中身をわざわざ移し替えたり自分が入ったりと穴だらけの犯行ってところには引っ掛かるけど。
「…もう良いや。」
「…え?」
「もう帰って良いよ。今回は許してあげるから、仲間のところにでも何処にでも。」
「…え? え?」
まさか許されると思ってはいなかったのだろう。
半分はもう話しても得られるものはなさそうだし、よく分からない子だからさっさと帰ってもらいたいって思ったけど…実は、親が居ないということに同情していた。
甘いかもしれないけど、そもそも彼女をどうこうしようと思ってた訳じゃない。事情を聞きたかっただけだったんだ。だから帰っていいって言った。
孤児って言ってもグループがあるだろうし、後はそこに戻っていくだけだろう。
「…居ません。」
「え?」
「居ません……」
………と思ってたけど、グループに入ってない場合もある、らしい。
「え、えっと…じゃあ、どうするの?」
僕が訊いてどうする!
と、セルフツッコミを心の中でかましていると予想外の一言が放たれた。
「ここで働きたいです…」
「え?」
「ここで働かせてください! お願いします!」
………
「ええええええええええええ!!??」




