三十四話 はぐらかされました!
『…僕の両親は、少し前に亡くなったんですよ。』
その言葉を聞いた時、感じたのは深い同情、強い共感。それと、仲間意識だった。
心配にもなったが、同時に不謹慎ながら仲良くなれそうだと思ってしまった。それは全部、自分と同じだと思ったからだ。
『………あの、僕男なんですけど。』
『僕はずっと可愛いって言われてたから、羨ましいなーって…』
だが、接していくうちに自分と彼との違いを認識し始める。
それで彼を嫌いになったかと言えば、もちろん違う。むしろアイツの事を知っていくことは嬉しかったし、自分のことを話すのも悪くないと思っていた。
きっと、いずれ地元の友人よりも仲が良い、かけがえのない親友になるだろう。
―――だが、オレはアイツを守れない。
「マノア! 逃げろ!」
無理だと分かっていても、気が付けば口が動いていた。
倒れ伏したマノアに向かう魔物は勢いを弱めず、そのままマノアを踏みつける。
もう間に合わない。
もう守れない。
またオレは…大切な人を―――
「グアアアアアアアアアア!!」
勝ち鬨のような咆哮から耳を塞ぎ、目を強く瞑る。
聞きたくなかった。見たくなかった。
目を開ければ足元に広がる血と、次はお前だと言わんばかりに見ている恐ろしい顔が見えるから。
「グァ! グァ! グル、グアアアアア!!」
……いつまで経っても魔物はオレに向かってこない。
疑問を感じ、恐る恐る目を開けるとおかしなことに気付いた。
「足が…」
地面まで届いていない。血溜まりも無い。
それはもちろん魔物の足が短いからと言う訳ではなく、まるで何かに阻まれるかのように空で止まっている。何度踏みつけてもそれは変わらなかった。
ザッ…
不意に足音が耳に届く。
こんな夜中に、こんな場所で、こんな状況で。
一体、誰が? 一体、何が?
全ての疑問を振り払うべく、振り返る。
「あ…」
そこにいたのは、知っていた人物だった。
あれから十年も経ったはずだというのに、何一つ変わっていないように見える。
「お前は―――――」
「……ん…」
感覚が徐々に戻ってくる。
目を開けながら体を起こすと僅かな気怠さを感じた。そう言えば魔力を使い過ぎちゃったんだった…
…魔力を?
「そうだった…!」
レーサさんが戦ってる、寝てる場合じゃ…!
「お、やっと起きたか。」
……あれ?
レーサさんは穏やかな笑みを浮かべ、眠っていた僕の隣に腰掛けていた。
よく見ると、ここは外じゃなくて部屋の中だ。調度品やベッドからして病院だろうか。
「体は大丈夫か? 出来るだけ急いで処置をしてもらったはずだが、どこか悪いところはあるか?」
「ちょっとだるいですけど、特には…
…えっと、もしかしてあの魔物は…」
「ああ、もう大丈夫だ。討伐されてるから町の被害も心配しなくていいぞ。」
「そうですか…」
良かった。あんな魔物を放っておいたら大惨事だろうからね…
「やっぱり、レーサさんが一人で?」
「いや、オレじゃない。
…ちょっと、通りすがりの奴がな。」
首を振って否定し、自らの腰に視線を落とした。
視線の先を辿ると黒い剣があった。
「えっ…まさか…」
その剣はレーサさんがさっきまで使っていた長い方の剣と同じくらいの長さだった。
色は同じだけど、明らかに別物…というか新しい。柄や鞘にあった小さな傷が無い。
「………まあ、な。」
浮かべたのは小さな笑顔と、懐かしむような眼差しだった。
しかしそれも一瞬の事、次の瞬間にはいつもの笑顔が戻っていた。
「それより、飯行こうぜ! お前が起きるのずっと待ってたから腹減ってんだ。この町のうまい店知ってるんだろ?」
「それよりって、お医者さんは…」
「おっと、そうだった…一応意識が戻ったら呼べって言われてたっけ。
でも、しっかり治療したから問題無いだろうってさ。多分すぐ終わると思うぞ。」
「じゃあ、終わったらすぐにご飯に行きましょう。僕もお腹ペコペコですから。」
「おう!」
しばらくして、“不抜の黒剣”と呼ばれた狩人は居なくなった。
その狩人は後に別の二つ名を付けられたらしいけど――僕がその二つ名と、それがレーサさんであることを知るのはまだ先の話。
「そう言えば、魔力切れの治療ってどうするんですか?」
多少の問診の後、問題無しと診断されたので宣言通り紹介されていたお店に来た。
料理を待っている間、ちょっと気になったのでレーサさんに質問してみた。魔力切れなんてそうそうないし、どうやって直すのか気になっていたのだ。
「……あー、それなんだけどさ…
魔力切れって何年か前までは自然治癒を待つしか無くて、死んだ奴もいるってのは知ってるよな?」
「あれ? そうなんですか?
あ、いえ。最悪死ぬことは知ってましたけど…」
「知っててあんな無茶を…まあ、仕方ない場面だったけどさ。」
「す、すみません。」
「責める気はねーから、謝らなくていい。むしろ悪いのは無茶させたオレだ。悪かったな。
で、話戻すけどさ。
その何年か前、魔力を補充できる薬ってのが開発されたんだよ。」
「へー…」
それは知らなかった。
なんだ、魔力切れになったらもう後は運任せなのかと思ってた。
「その薬には二種類あってだな…一つは飲むタイプ。もう一つのヤツに比べれば回復までに時間はかかるけど、そっちよりよく使われてるんだ。狩人とかにな。」
「回復が早いならそっちよりもう一つの方を使うのでは?」
「いや、それがな…
今回、マノアに使ったのももう一つのヤツなんだが…」
…妙に渋る。
なんか目を逸らしてるし、怪しい…
「……もう一つはな、塗るタイプなんだ。
それも、服の上からとかじゃなくて、直に。」
「…なるほど。」
確かに、そっちの方が即効性は高そうだけど…
仕事の最中に魔力が無くなったからと脱ぎだして、薬を塗りたくるなんてしづらいだろう。
特にレーサさん達女性の狩人は男の仲間もいるだろうし、そうでなくても戦ってる最中なんてそんな暇なさそうだし。
他にも、虫が居るところで使うのは嫌そうだ。依頼が終わるまでにどれだけ虫に刺されているか…
「でも、さっきのマノアみたいに薬を飲めない状態でも使えるし、回復が早いからより早く魔力切れの対策ができる。その辺は一長一短なんだ。」
「あー、なるほど、そうやって使い分けられるんですか。
「ああ。
…それで、さ。実は…塗ったのオレなんだ。」
「…え? お医者さんじゃないんですか?」
普通そういう場合お医者さんが塗りそうなものだけど。
「ああ。さっきの医者、男だったろ? 医療行為とは言え、気にするヤツも居るからってさ…多分前に一悶着あったんだろうな。」
「僕は気にしませんけど…っていうか、僕も男なんですけど。」
「あ、そうなのか? てっきり気にするかと思ってた。」
「……あのですね、僕だって男ですよ?
そりゃ、ジロジロと裸を見られるのは恥ずかしいですけど…」
「恥ずかしいんだろ?」
「そう凝視される程じゃなければ気にしませんよ、ましてや医療行為なんてむしろ助けてもらってるんじゃないですか。」
「なんだ、そうだったのか。」
「そうですよ、エレスに居た頃着替えを凝視されたせいで男でも見られるのが嫌になったことがありましたけど…流石に改善してますって。」
「じゃあ、こっそりパンツめくっちゃってたけど」
「めくっちゃったんですか!?」
「……やっぱり気にするじゃねーか。」
「いや、だって、流石に…っていうか、塗るならソコ関係ないですよね!? しかも塗ったじゃなくてめくったって言いましたよね!? 完全に見るのが目的じゃないですか!!」
「いや、ちょっと好奇心に負けてな。スマン、なんならオレの見て良いから。」
「見ませんよ!?」
なんてこと言ってるんだよりによって飲食店で!
「なんてな、冗談だ。
安心しろ、本当は上とズボン脱がしただけだ。」
な、なんだ…良かった…
「お待ちどうさま。」
「お、ありがとな。
………ところでマノア。」
「なんですか?」
「嘘も方便って良い言葉だよな。」
「………え?
ちょ、ちょっと? どういうことですか? レーサさん?」
「おお、確かに美味いな。」
「レーサさん、今のってもしかして…もしかして、本当に?」
「スマン、食ってるから後にしてくれ。」
「ちょっとレーサさん!? 片手間でも良いから答えてください! 本当に冗談だったんですよね!?」
「あー、美味い美味い。」
「レーサさん!!」
結局、僕はモヤモヤを抱えたままご飯を食べることになった。
…食べ終わる頃には冗談だと思い込んでおくのが一番だと気付いて、そのまま忘れ去ることにした。
Q.今回遅れていましたがついにネタ切れですか?
A.違います。展開なら数話先までの分がありますし書きたいネタならまだまだあります。
Q.では、展開的にシリアスのせいで書き辛かった?
A.いいえ。
Q.では何故遅れたのですか?
A.イベント忙し…リアルでゴタゴタしてました。




