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シーサイドへようこそ!  作者: じりゅー
第三章 『食べ歩きと新人!』
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三十三話 考えました!

 

『お前は早く逃げろ! 俺は後で逃げる!』


 レーサ(オレ)がまだまだ未熟で、もっと弱かった頃。

 この頃はとーちゃんに依頼のコツやら、魔物との戦い方やらを教わりながら依頼をこなしていた。

 先輩冒険者への顔つなぎ、敬意を持った接し方も教えてもらってたので、公私ともに四六時中とーちゃんと一緒だった。

 いつも通りとーちゃんに教えてもらいながら依頼をこなし、帰っているとマスラプター(魔物)の大群に襲われた。

 この時、オレもとーちゃんも依頼で疲れていて、コンディションは最悪だった。

 だから真正面から戦って、どちらも無傷で帰ることは不可能に近い状況だというのはあの時のオレにも分かっていた。


『そんなこと出来るか! オレも』

『良いから逃げろ! 今の俺はお前のとーちゃんじゃねぇ! お前の先輩の冒険者だ!

 散々教えてやったろうが! 先輩の言葉は素直に聞いとけってよ!』


 確かに、いつも聞かされていた。

 先輩の言葉なら多少の理不尽くらいまでは聞いておけと。

 仕事では自分はオレの父親ではなく、一人の先輩だと。


『分かったよ…!』


 とーちゃんならきっと大丈夫だ。だって、とーちゃんは強いから。

 オレなんかよりもずっと。むしろオレは足手まといになりかねない。

 そう、自分に何度も言い聞かせて足を動かした。

 だが…


『嘘だろ…』


 そんなオレに待っていたのは魔物の大群(死)だった。

 動いていた足は止まり、死に抗おうとする意思すら生まれなかった。

 生への諦念が心を多い、膝をついたその時に魔物の一匹が飛び掛かって来た。


(ああ、オレはもう死ぬんだな…)


 かーちゃんが死んで、オレが死んで、残されたとーちゃんは…いや、とーちゃんも生きて帰れるか分からないのか…

 その後、もしとーちゃんが生きて帰ったら…どうなるのだろうか。

 ゆっくりと迫ってくる牙を見ながら、そんなことを考える。


『馬鹿野郎!!』


 次の瞬間、その魔物の首は無くなっていた。

 代わりに居たのは傷だらけのとーちゃんだった。


『人がせっかく逃がして生き残らせてやろうって頑張ってんのに、諦めんじゃねぇ!

 良いか!? お前の命はな、俺と、お前のかーちゃんのモンでもあるんだ! 勝手にそれを殺すんじゃねぇ!!』


『……ごめん、とーちゃん…』


 驚くよりも先に、謝罪の気持ちと涙が出てきた。

 そうだ、オレの命は勝手になくして良いモンじゃないんだ。

 それに、この剣に、命の恩人に誓ったじゃないか。この黒い剣を持って旅に出るって。


『泣くんじゃねぇ! 謝る暇があるなら走りやがれ!! このウスノロ!!』


『ああ! 叱ってくれた礼に一発ぶん殴ってやるからな! とーちゃんも絶対に帰って来いよ!!』


 とーちゃんが魔物を引き付けている横を通り過ぎる。


『親が叱るのは当たり前だ、礼を言われることじゃねぇ!』


『今のとーちゃんはとーちゃんじゃなくて、先輩なんだろ!? 約束破ったら承知しねーぞ!!』


 ――結局この約束が果たされることは無かった。

 オレは無事に町まで辿り着けたが、救援が駆け付けた頃には既に―――


 …そして、オレは一人になった。







「レーサさん! これ!

 僕はこれがあるから大丈夫です!」


 レーサが受け取ったのは、先程まで身に付けていた黒い剣だった。

 それを投げ渡したマノアは既に短剣を構えている。


「…マノア、3まで数えたら魔法を解け。

 アイツ、全く火を恐れてない。」


 彼女が言った通り、マスラプターを蹴散らしながら現れた魔物――レックスは2人を囲む炎に全く怯んでいない。それどころかどんどん近付いている。

 このままでは炎の壁により逃げ場も無くレックスに蹂躙されるのは火を見るよりも明らかだ。


「1。」


 レーサが黒い剣を抜き放つ。

 その瞬間、彼女が感じたのは懐古だった。


(昔はこんなに短くて、軽い武器じゃなかったな…)


 黒き剣を握り、過ごしていった日々を思い出す。

 素振りしか許されなかった小学生(エレス)時代。

 刃を突き立てることに躊躇いを感じていた駆け出し時代。

 丈が合わなくなり、買い替えることになった中堅時代。


(だが、よく手に馴染む。)


 しかし、不思議と手に馴染む感覚だけは昔から変わらなかった。


「2。」


 そして、構える。

 レックスも彼女の殺気を感じたのか、彼女を見る。


「3!」


 炎の壁が消える。

 彼女は飛び出し、レックスの噛みつきを避けて一撃を叩き込む。


「硬い…!」


 当たった剣はその部分の鱗を割り、内側を浅く切っただけだった。

 かの魔物が強敵とされる所以はその強力な攻撃だけでなく、強固な鱗による防御力にもあるらしい。

 すぐさま尻尾による攻撃が飛んでくるが、これは跳躍して躱した。


「………」


 マノアは短刀を構えたまま、動けなかった。

 逃げろ、と言われないのは逃げたところでさっきのマスラプターが居るかもしれないから。

 立ち向かえ、と言われないのは敵う相手ではないから。

 だから、何も言われなかった。

 だから、何もできなかった。


(…せめて、何か…レーサさんの為に、なにか出来れば…!)


 ヒットアンドアウェイの要領で戦い続ける彼女を見て、強く思う。

 きっと、彼女は逆転の一手を探している。その目が生きることを、諦めていないから。


(…それなら。)


 彼は考え始めた。

 あの魔物が如何なる存在だろうと、絶対に有効な攻撃があることを信じて。


(どれだけ鱗が硬くても、その中は柔らかいはず。

 さっきの攻撃を繰り返して、鱗を剥がす?

 現実的じゃない。)


(さっきと同じ場所を攻撃し続けて、鱗の内部を傷つけるか?

 …いや、そんなことを出来る余裕は無いな…)


 彼女もまた、彼と同じように考えていた。

 今度こそ生を諦めないように。


(最初から鱗が無い場所…口の中は危ない。その前に噛まれたら終わり。)


(目は小さすぎて狙いずらい、無理じゃないが、とりあえずパスだ。)


(なら排泄口は――)


(鼻は――)


 2人は思考を巡らせる。


((狙うなら―――腹!))


 同じ結論に達したのは、ほぼ同時だった。


「レーサさん! 今から魔法で地面に穴を開けます! その後――」


「ああ! 腹を狙う! 頼むぞ!

 その間はオレがコイツを引き付ける!」


 攻撃を避けながら鱗を削り続けるレーサを見ながら、マノアは魔法の準備をする。


(イメージは基本的にさっきと同じ…けど、今回は拡散させないように集中して…)


 イメージしながら魔力を使い始めた瞬間から、マノアの横に赤い炎が発生する。


(もっと、強く…!)


 魔力をつぎ込み、イメージをグレードアップさせ、炎の光が強くなっていく。

 しかし、ある時。


(……あれ…?)


 力を失い、眩暈を起こした。

 そのまま彼は倒れ込み、炎も消えていく。


(魔力が…こんな、時に…)


 彼が倒れた原因は、魔力切れだった。

 魔力切れは魔法などにより過度に魔力を行使し、枯渇した時の状態のこと。

 そうなってしまえば気絶し、最悪の場合そのまま目を覚まさない。


「マノア!」


 駆け寄りたくても、目の前の敵はよそ見すら許してくれない。

 彼女は腹をくくった。たった一人でこの魔物を打ち倒すと、覚悟した。


(……せめて。

 せめて、レーサさんの援護くらいは…命を、削ってでもいいから…)


 彼はなけなしの魔力を振りしぼり、消えかかっていた炎に燃料を継ぎ始める。

 意識は既に失いかけていて、彼にはもう目の前の景色すらよく見えていない。


「マノア! 無理するな!」


 彼女の声も届いていなかった。


(……あぁ…)


 そして、とうとう燃料が完全に切れる。

 赤い炎は消滅し、夜の闇に包まれる。


 ―――そう、思われた時だった。


「!?」


「なんだ…!?」


 消滅したはずの炎が、再び燃え上がり始める。

 しかし、色は先程の赤とは違う。不思議な黒い光を放つ炎。

 レーサどころか、レックスにも驚きを隠せなかった。


「グアアアアアアアアア!!」


 黒き炎から何を感じ取ったのか、戦っていたはずのレーサを放ってマノアに向かう。


(………)


 かろうじて意識を保っていたマノアは、迫り来る魔物を知覚して死を直感する。

 意識を失う直前、彼の視界は黒く塗りつぶされた。

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