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シーサイドへようこそ!  作者: じりゅー
第三章 『食べ歩きと新人!』
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三十二話 自棄になりました!

 

「えいっ!」


 小学校(エレス)の授業には剣術もある。

 僕が今剣を振れているのはそのおかげだ。一生活用することはないだろう、なんて思ってたけどそれがこうして役に立ってくれている。授業にも入る訳だ。


「マノア! 大丈夫か!?」


「はい!」


 尤も、それが役に立っているのはレーサさんがほとんどの魔物(マスラプター)を切り倒しているからだ。僕一人なら剣を振る前に死んでいる。


「ハッ!」


 レーサさんの一閃は多量の魔物を屠っている。

 そんな一振りを何度も何度も繰り返してくれているおかげで、僕に来る魔物は非常に少ない。

 あと少しで突破できそうだ。


「マノア! 行ったぞ!」


「はい!」


 魔物を視認し、剣を振りかぶる。

 一振りで深い傷をつけ、もう一振りで仕留める。

 狙いも太刀筋も素人な僕でも、この黒い剣は魔物を倒してくれる。一流の剣士は剣を選ばないって聞くけど、それは剣の方にも言えるのかもしれない。


「うっ…くそっ!」


 ここだけを見ると、順調に見えたかもしれない。

 けど、レーサさんは既に多くの手傷を負っている。

 まだ戦えそうではあるけど、後ろからも魔物の群れが来る。

 なので、消耗を抑えつつ突破して逃げ延びなければならない。

 僕という荷物(ハンデ)を背負ったレーサさんには、厳しいだろう。

 せめて僕がまともに戦えたら…いや、僕さえいなければ誰かをかばいながら戦う必要は無いのに…


「レーサさん!」


「大丈夫だ! いいから進め!!」


 足を止める事は出来ない。

 けど、進むごとにレーサさんの傷は増えていく。

 まだまだ魔物は残っている。

 どうしたら…


「…!

 レーサさん!」


「チッ…なんてこった…!」


 とうとう、後ろに居た群れがこちらに追いついてきた。

 これじゃあ…レーサさん一人では…


「マノア! 魔法でもなんでもいい、なんか無いか!?」


「え!? え、えーっと…こんな群れをなんとかできる魔法なんて使った事無いです!」


「オレは魔力が少ないから魔法使い向きじゃないんだ!

 もう炎でも爆発なんでもいい、やれるだけやってくれ! 例え倒れてもオレが運んでやる!」


「わかりましたよ!!」


 目を瞑り、半ば自棄になりながら大きく広がる炎をイメージする。

 思い浮かんだのは、調理の時に見る炎だった。それをもっと大きく、強く…


「良いぞ! もっと広げられるか!?」


 目を開けてみると、丁度人と同じ大きさの炎が出来ていた。

 これをもっと広げて…強くして…


「もっとだマノア!」


「……これ以上は、無理そうです…」


 炎が広がったのは魔物が十匹通るかどうかの幅。後は維持だけで精いっぱいだ。


「じゃあ、それでオレ達を囲んでくれ。

 そろそろ足止めも限界が近い。」


「え…レーサ、さん…?」


 そうだ、この間もずっとレーサさんは足止めを…

 炎で回りを囲みながら振り返ると、レーサさんの剣が刀身の半ばから折れていた。


「しくじっちまった…無理をさせ過ぎたらしい。

 あとちょっと遅かったら完全に折れてた。ありがとな、マノア。」


 剣の根本にはヒビが入っている。

 もう攻撃を受け止める事すらできないであろう、と言うのは僕でも分かった。

 剣がこんなになるまで戦ってくれてたのに…僕は、あんな弱気なことを言ってしまった。

 本当は、レーサさんの方が分かっていたはずなのに。この状況がいかに絶望的なのかってことを。


「…ごめんなさい、弱音を吐いてしまって。」


「戦闘職でもないお前がこの状況に弱音を吐くなんて当たり前だ。もっとわめきたててる奴もいるくらいさ。

 でも、お前はちゃんとなんとかしてくれただろ? 見ろよ。」


 突然現れた炎の壁に、マスラプターは攻めあぐねているようだった。

 それなりの高さにはしたので、跳び越えられることも無いだろう。


「でも、気は抜くなよ。向こうから来る魔物もいるんだからな。」


 気なんて抜けない。その瞬間僕たちを守っている炎の壁が消失しかねないから。

 その時、後方から来た魔物の群れの中から、一匹がその群から抜けてきた。


「…来るぞ。特攻してくるかもしれない、注意しろ!」


「はい!」


 炎の出力を一段高める。

 しかし、その魔物は炎の壁を素通りして反対側へと走り去っていった。


「……?」


 最初は壁を避けて走っていただけだと思ったが、戻ってくる様子もない。

 それを観察している間にも、何匹も何匹も、炎の壁を素通りされていく。


「…様子がおかしい。

 あの魔物たち…もしかして怯えてるのか?」


「怯えてる?」


「オレ達は奴らにとって餌だ。それを前にして走り去っていくなんておかしい。

 オレ達に恐れをなしたって様子じゃなかったし、それなら向こうの方に逃げてるはずだ。

 ってことは…答えは一つ。」


 ズシン、ズシン。

 マスラプター達が走り去る中、大きな足音が聞えてきた。

 シルエットだけでも分かる、その巨大な体躯。

 その首は時折大きく揺れ、その度にマスラプターをかみ砕いている。

 生きているマスラプターが全て散り散りになると、やがてその存在は炎に照らされた。


「グルルルルルル…」


 鋭い牙がびっしりと生えた、巨大な顔のほとんどを占める口。

 それに対して小さな眼、前足は小さく、地面には届かないが強靭な後ろ脚によって二足歩行を行っている。

 鱗に覆われた、巨大過ぎるトカゲのような魔物。


「テュランノス・レックス…!」


 最高ランクの冒険者すら殺すと言われた、最強の一角とまで言われる魔物。

 僕たちは、絶望(ソレ)と対峙した。

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