二十九話 予想以上でした!
「ようマノア! 待たせちまったか?」
「いえ、大丈夫ですよ。」
翌朝、お店に来たレーサさんを迎える。
今日はレーサさんと一緒に遠出して、教えられていたお店に行く予定だ。
近場のお店は普段の休日に行けるので、今回のお休みで少し遠い町のお店に行くことにしていた。
と言っても、遠いのは今日行く一件だけだけどね。
「…マノア、そんなに何を持っていくんだ?」
「実際に入ってる荷物はこのバッグの半分もないですよ。」
レーサさんが疑問に思うのも無理は無い。
僕が持っているバッグは大きめで、子供の頃の僕が入って遊べていたくらいだ。
その後母さんに怒られたのもうっすらと覚えている。猫じゃないんだからとかなんとか…
…そう言えば、そのあとしばらく軽く猫扱いされたっけ。懐かしいなぁ、当時の僕はすごい嫌がってたけど。
「なんでそんなでかいやつ使ってるんだ?」
「家を探してもこれか普段使いの小さいやつしか無くて…」
「ふーん…まあ、良いんだけどさ。」
旅行した記憶と言えば小さいころに一度、あったかなかったかといった感じだ。
基本的にお店が忙しかったため、僕も両親もあまり旅行にはいかなかった。
なので遠出用のバッグが少ない、というかほぼ無いのは仕方のない事だ。
「それに、帰ってくるときはお土産も入れられますし。大きくて損は無いですから。」
「それもそうか。」
「レーサさんは仕事の時の?」
「ああ、いつ魔物やら獣やらに襲われるか分からないからな。マノアも気を付けろよ?」
「分かってますよ、僕も短剣くらいは持って行きます。」
レーサさんの格好はレザーアーマーと二本の剣。最初にお店に来た時と同じ格好だった。
そのせいでもしかしてこれから仕事なのかなと思ってしまった。断りに来たとかじゃなくてよかった。
「じゃあ出発するか。
…ところでマノア、本当に歩きで大丈夫なのか? 馬車代くらいは出すぞ?」
移動手段は徒歩。
馬車代がもったいないというのもあるけど、調理からウェイターまで全て一人でこなしているので体力には少し自信があった。
「大丈夫ですよ。疲れたら休憩をとれば良いだけです。
急いでいるわけではないんですから、ゆっくり行きましょう。」
「それなら良いんだけどさ…無理はするなよ?」
「はい、疲れた時はちゃんと言いますから。」
まるでお母さんみたいだという感想は胸にしまっておいて、僕とレーサさんは店を出た。
「どうだ? まだ大丈夫か?」
「はい、まだ、大丈夫です…」
僕の息が少し上がり始めた頃、レーサさんが尋ねる。
彼女はまだまだ平気そうだ。男として複雑な気持ちにはなったけど…こればかりは得意分野の違いだろうと割り切ることにした。
僕に魔物は倒せない。いくら強がってもそれは変わらない。
「…一回休むぞ。
ゆっくりで良いんだろ?」
レーサさんは近くの木陰に近寄ると、どかりと腰を下ろした。
どうやらそこからしばらく動く気はないらしい。
「……そうですね。
お腹もすいてきましたし、お昼にしましょうか!
今日はお弁当を作ってきました! レーサさんの分もありますよ!」
「おお! サンキューな!」
レーサさんの隣に座り、バッグの底から弁当箱を取り出す。
今日のお昼はサンドウィッチだ。具もハムやら卵やら、オーソドックスながら色々と用意してきた。
「美味そうだな! 食って良いか?」
「はい、もちろんです。」
「やっぱりうまいな! お前の料理は!」
フライング気味に食いついたレーサさんに苦笑しながら僕も一口。
うん、おいしい。味見したから味は知ってたけど。
でも喜んでもらえて良かった。
いつでも思う。今の彼女みたいな笑顔を見るのは良いものだと。
だって、僕が笑顔にしていると思えるから。
「…マノア、休憩は中断だ。」
「え?」
昼食を楽しんでいたはずだった彼女は突然形相を変えて剣を取る。
「レーサさん?」
「あれを見ろ。」
…本当だ。少し遠いけど魔物が見える。
「マノアの弁当の匂いに誘われたのかもな。」
「まさか。」
食べてもせいぜい挟まれているハムくらいしかない。
軽口を叩きながら片付け、僕も短剣を握りしめる。
彼女も剣を一本抜き、構えながら移動を始めた。
「…もう一本の方は良いんですか?」
柄も鞘も黒い、少し短い剣は抜いていない。
二本差しているので、てっきり二刀流かと思ってたんだけど…
「良いんだ。
オレ、そもそも二本も剣使えねーし。」
「…じゃあなんで持ってるんですか?」
「お守りって感じかな。まあ、詳しい話はアレを倒してからだ。
っていっても一匹みたいだしすぐ終わるけどな。なんなら弁当広げ直してても良いぞ?」
「すぐって…」
マジックウルフは知能が高く、魔法を使える数少ない魔物だ。
強力な噛みつきだけでなく遠距離攻撃もしてくるし、爪による攻撃は魔法で強化してリーチや威力を高くする。決して侮れない魔物だ。
「まあ見てろ!」
近付いて来ていたこともあって、レーサさんが駆け出すとすぐに魔物に発見される。
その瞬間魔法による威圧が飛んでくるけど、レーサさんは意に介さずそのまま突っ込む。
「ハッ…!」
一瞬レーサさんが消えたかと思うと、マジックウルフの後ろに現れる。
そのマジックウルフは断末魔を上げる間もなく真っ二つになり、絶命していた。
「な? オレ、結構強いんだよ。」
「そ、そうみたいですね…」
正直、予想以上…というか想定外だった。こんなにあっさり魔物を倒せるなんて…
今まで知らなかったけど、実は物凄く強かったりするのかな?
「さて、じゃあ昼飯の続きと行くか。
ついでにこの剣の話もしてやるよ。」
「…はい。」
呆けが残ったまま返事をして移動し、片づけた昼食を広げ直す。
…さっき盛大に飛び散った血を見たからだろうか。あまり食欲がわかない。
「ングッ、それで、アム、さっきの…剣のゴクッ、話なんんっ!? …だけどな。」
「あ、はい。食べるか喋るかのどっちかにしてください。今喉に詰まりかけましたよね?」
「じゃあ、ちょっと待っててくれ。っていうかお前も食えよ。腹減ってないのか?」
「ちょっと食欲が…」
「んなこと言ってるとオレが全部食っちまうぞ? マノアの料理はうまいからな。」
「はは…ありがとうございます。」
食欲はあまり戻ってきてなかったけど、一つ手に取って小さく一口。
食べているうちに食欲が戻ってきて元のペースに。それでもレーサさんの方が早い。
「は~…食った食った。」
「じゃあ、出発しますか?」
「いや、食休みだ。食ってすぐ動くのは体に良くない。
それに、お前が聞いたんだろ? この剣の事。」
「あ、そうでしたね。」
訊いてたお前が忘れてどうするんだ。
そんな顔を一瞬した後、レーサさんは短い剣をゆっくりと抜いた。




