二十三話 疲れました!
「今日はありがとう、マノア。お陰で楽しかったわ。」
「………いえ、こちらこそお店に連れていって頂いたので…」
帰りの馬車の中。上機嫌なセシカさんに対して、僕は疲労困憊だった。
理由はあの後。お互いに小物を購入し、交換した後、続いて向かったのはやや高めの服屋だった。
僕には買えそうにない服の値札を見て、高いな~とやや他人事のように見て回っていたらセシカさんに捕まり、そこらじゅうの服を着させられた。
…女物を。
まるで人形の服を着せかえるように。一着一着、楽しんで。
そして、セシカさんが気に入ったものは全て購入され、これからは僕の部屋のタンスに仕舞われるのだとか…
「さっき買った服、また着て見せてね。」
「勘弁してくださいよ…
時々思うんですけど、セシカさんは僕が男だってことを忘れてませんか?」
「分かってるわ。だから女装させてたんじゃない。」
「分かっててさせてたんですか…どうしてですか?」
「私が見たいから、って言うのもあるけど…一応、貴方のためでもあるわ。」
「…僕のため? どう言うことですか?」
意外な言い分が出てきたので、ほぼ反射的に聞き返してしまった。
言ってから気付いた。どうせ似合ってるからとかそう言う感じなんじゃないかって。
「貴方、男らしくなりたくない?」
「…なりたい、ですけど。」
あれ? 違うの?
っていうか、男らしく? なんで女装なんてさせてそんな事言えるの?
「じゃあ、よく聞きなさい。
女の子が女の子の格好をしても、女装とは言わないの。」
「…そうでしょうね。」
「女装、っていうのは男の子が女の子の格好をするからそう呼べるの。
女の子には出来ない、男の子にしかできないこと…
つまり、女装って男らしい事なの。」
「すみません、言ってる意味がよく分からないです。」
「…だから、女装は男の子にしかできない事なの。つまり、貴方がやってることはとっても男らしいって事。」
「えっと…そもそも女の子の格好をしてるんですよ? それのどこが男らしいんですか。」
「え? でも…あれ? そう言われるとそんな気が…でも…」
混乱してる。
よく分からない理屈を信じるから…
「…正直に言ってください。
それ、セシカさんが考えたことじゃないですよね? 誰から聞いたんですか?」
ちょっとの指摘でボロを出したのが証拠だ。本当に自分で考えたならもっと粘る。
「…お母様。」
「やっぱり。」
メイドさんはともかく、お父様や執事さんがそんなことを言う訳が無いだろう。
そのメイドさんとはあまり話さないみたいだし…候補はほぼ一人に絞り切れてはいたけど、念のためセシカさんの口から聞きたかった。
「良いですか? そもそも、僕は女装なんてしたくありません。
最初メイド服を着るのに渋ったのも知っているはずですよ?」
「…ごめんなさい、もう慣れて嫌じゃなくなってるかと思ってて…」
「慣れてませんから。」
…多分。
「それに、慣れてても嫌なものは嫌です。」
「そう………残念。」
「今なんて言いました?」
「何も言ってないわ。」
確かに小声で何か言ってたと思うんだけどな…
まあ、気にしないでおこう。
「そういえば…僕の執事服、いつ届くんですか?」
一週間くらい経つけど、僕の制服はまだメイド服だ。
お屋敷に来た日に仕立ててくれる、みたいなことは言ってたと思うんだけど。
「私が注文したわけじゃないから…お父様かお母様に訊いて。」
「そうですか…分かりました。」
まだしばらくあの服か…
早くお店直らないかな…あ、でも直ったらセシカさんのご家族と夕食を食べる機会はもうなさそう。それは寂しい。
夕食の時に一人じゃないということにも慣れつつあるのかもしれない。お店に戻った時辛そうだ。
「…マノア、正直に答えてほしいのだけど…今日は楽しかった?」
「はい。楽しかったですよ。」
「…正直に、って言ったはずだけど。」
「?
ちゃんと正直に答えましたよ?」
何が不服なんだろう。
「…さっき女装が嫌だって言ってたから…もしかして私、貴方に嫌なことをして楽しんでたんじゃないかって思って。」
「確かに女装は嫌でしたけど、セシカさんと出掛けて楽しかったのは本当です。
だって、友達と出掛けるのが嫌な訳ないじゃないですか。」
「…そう。」
心の底からだと分かる、輝かしい笑み。
僕はそれに一瞬見惚れ、なんだか気恥しくなってすぐに目を逸らした。
…ちょっと恥ずかしい台詞言った気もするし。




