二十二話 仲良くなれました!
「マノア、次はあそこ!」
……僕の決心はどこへやら。
心の底から楽しそうなセシカさんを見て、内心ため息をつく。
大層立派な事をおっしゃった後、何故か執事さんを馬車に待機させ、僕と2人で街を回り始めたセシカさん。
世直しみたいなことをするなら、僕と2人きりではなく執事さんも連れてきた方が良いと思うんだけど…
見た目がこんなだから舐められかねないし……………うん、自覚が無いわけじゃないんだ。
でも、そう思っただけでも気分が落ち込む。面倒な僕…
「…どうしたの? 元気無いみたいだけど…もしかして、嫌?」
「い、いえ! そんなことは! ちょっと考え事をしてて…
…っていうか、本当にこれで良いんですか? ただ街を見て回ってるだけみたいなんですが…」
「良いの。
もちろん、そういう場面が目に付いたら止めに行く。けど、それまでは楽しんじゃ駄目って訳じゃないでしょう?」
堅苦しすぎてやる気が無くなるよりはいいかもしれないけど…それにしても緊張感が足りないって言うか、なんていうか…
まあ、僕にはなにも言えないんだけどね。使用人という立場を差し置いても、彼女の方が立場は上だから。
「…実はね。
貴方のお店に行く時、いくらか気になるお店があったの。
それっぽいことを言って執事には下がってもらったけど…本当は、そういう場所をマノアに案内してもらいたかったの。」
「そうだったんですか…」
お屋敷に居て、夕食と寝る前以外となるとセシカさんを見る機会はほぼ無い。
同じ屋根の下、と言ってもセシカさんは日中ずっと勉強しているからだ。例え一日中部屋の前を掃除していたとしても、トイレか何かで出てきた時に会うくらいだろう。僕は全く関係ないところが掃除の担当箇所だから尚更だ。
…まあ、一回だけ見られてたことはあったけど。本当に職場に馴染めてるか心配だったとかで。
夕食の時に大丈夫だって言ってるはずだけど…実際に見ないと信じられないって言う人もいるから、たぶんそれだろう。
っと、そうじゃなくて。
毎日そこまで勉強浸けなら、多少は遊びたくなっても仕方のない事だ。だからそれに付き合うくらいならする。例え逆らえないという条件が無くても、同じことをしていただろう。
「そういう訳だから、引き続き案内よろしく。
…それにしても、こうしてるとデートみたいね。」
「デっ!?」
全くそう思ってなかった訳じゃないけど、そう言われるとなんだか照れ臭い…じゃなくて。
貴族相手にそんな…どうしよう、不敬かも。
二人だけで街を歩いたとか、お父様に喋らない方が良いかな?
でも、執事さんとは二人きりで歩いてるし…とはいえ、僕の場合は年が近いから…
「…そんなに恥ずかしい?」
なんだかニヤニヤしてるような…からかってるのかな。
「い、いえ!
でも、お父様には秘密にした方が良いかもしれませんね!」
とは思っても焦りは収まらなかった。だから揶揄われるんだろうなぁ…
「どうして?」
「どうしてって…」
…そうか。
本気で分かっていない顔をしているセシカさんを見て頭が冷えた。
そりゃそうだよね、まさか僕とセシカさんがそんな関係になるなんて全く想像してないよね…
身分の壁は厚い。
今までにその壁に阻まれて淘汰されてきた恋は数知れない。ご両親が納得しなかったり、両親はともかく周囲の人間が反発したり…
まあ、僕はその心配が無いみたいだけど。
「…いえ、なんでもないです。
それより、あの店ですよね。あそこは確か可愛いアクセサリーがいっぱいあったはずですよ。
実は、僕の髪飾りもあの店から買ってもらったんです。」
「あ、それ。」
「…?」
「それよ。どうして貴方はその髪飾りを付けているの?
ただでさえ女の子みたいな顔なのに、そんなに可愛い髪飾りなんて付けてたらもっと誤解されるわ。」
「……」
そりゃ、男で髪飾り付けてる人ってそんなにいないよね…
でも――
「一応、承知の上ではあります。
でも――これは、友人からのプレゼントですから。」
レーサさんからの、友達から初めてプレゼントされた物だ。
だからより一層性別を間違えられるとしても、付け続けている。
「………いいなあ…」
…僕は、知っている。
セシカさんには、友人と呼べる人が居ないことを。
確かに両親は居る。貴族としての付き合いもあるだろう。
だけど、プライベートを共にできるような…家族以外の人はいない。
だから僕の店に度々来ていたのだろう、と言っていたのはセシカさんのご両親だった。
そして、頼まれた。
「せっかくですし、僕もセシカさんに何か選んで差し上げましょうか?」
「え…?」
「僕はセシカさんの友人ですから。
友人にされて嬉しかったことは、他の友人にもしてあげたいんです。
…もしかして、嫌でしたか? 勝手に友人にされてることも含めて…」
「そ、そんな訳無い!
ただ…嬉しくて。」
彼女の友人で居ることを。
正確には、もし良ければと言うことだったけど…ご両親が許してくれるなら、僕の答えは決まっている。
いつも店に来てくれるから、というだけじゃない。
ただ、打算抜きで純粋に彼女と仲良くなりたい。そう思っている。
「そうでしたか。
それなら、行きましょう!」
「ええ…!」
僕はこの日、やっと…もしくは、改めて彼女と友達になれた。そんな気がした。




