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シーサイドへようこそ!  作者: じりゅー
第二章『メイドインハウス!』
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二十四話 認め合いました!

 

「……そうか。2人とも楽しそうで何よりだよ。」


 夕食の席の報告。話し手は楽し気に、聞き手は微笑まし気にといった感じで穏やかな時間が流れる。

 こういう空気は好きだ。父さんと母さんが生きていた頃は毎日味わえていた空気だったから。

 …終わってほしくない。

 このお屋敷を去っても、あの日々(毎日)のようにと考えてしまう。

 部屋に戻って、それは叶わないことだと自分に言い聞かせるのが本当に辛い。

 寂しくて、涙を拭ったのは一度や二度の話じゃない。


「マノアちゃん、今度買ってきたお洋服、着て見せてね?」


「は、はい…」


「止めてやれ。マノア君も、断ってくれていいんだよ? 嫌だろう?」


「………」


 お母様の視線がお父様に刺さる。


「…あー、でも、出来るだけ要望には応えてほしいかな。嫌じゃなければだけど。

 …昔はもっと可愛い女だったのに。」


「何?」


「あ、いや、なんでもない。気にしないでくれ。」


「…ふふ。」


 やっぱり、似てるなぁ。

 父さんと母さんもこんな感じだったっけ。

 流石に母さんが女装をせびることは無かったけど、父さんは母さんに頭が上がらなくて…


「…マノアちゃん。」


「はい、なんですか?」


「貴方…

 さっきの笑顔もう一回してみて。」


「え?」


 さ、さっきの笑顔って…

 どうしてたっけ? って言うか僕、どんな顔で笑ってたの?


「こ、こうですか?」


「作ってる。違うわ。」


「じゃあ、こう?」


「もっと自然に。」


「ちょっと、お母様。

 いきなり自然に笑えって言われても無理でしょう?」


「えー? だって、さっきの自然な笑顔、可愛かったんだもの。

 あんな顔、今初めて見たわ。」


「…確かに、そうかもな。」


「あ、あれ? 僕一回も笑ってませんでしたっけ?」


「そうじゃなくて。

 そう言えば、見たことなかったなって思ったの。貴方の自然な笑顔。」


「……」


 慣れて空気を楽しめていたつもりでも、まだ数日。

 セシカさんはともかく、そのご家族と話す時の緊張は取り切れていない。

 だからかもしれない、自然な笑みが出来なかったのは。


「もしかして…迷惑だった?

 今まで勝手にディナーに呼んだこと…」


「そんなことはありません!

 むしろ、皆さんと話せて楽しいです! だって、父(・)さ(・)ん(・)と母(・)さ(・)ん(・)は…っ!」


 言って、しまった。

 お父様とお母様のことを、父さん、母さんと。

 確かに、僕はその姿を重ねてしまっていた。

 けど、貴族を相手に同一視なんて無礼だ。だからずっと隠してたことなんだけど…


「………」


 顔色をうかがう。

 皆驚いてはいるようだけど、それ以上の感情は読み取れない。


「マノア君…」


 最初に口を開いたのはお父様だった。


「す、すみません、気にしないでください。お父様、お母様。」


 次の言葉が恐ろしくて待てず、口から出たのは謝罪の言葉だった。

 出来る事なら慈悲を頂いて、この件は流してほしい。蒸し返さないでほしい。そう思った。


「良(・)い(・)ん(・)だ(・)よ(・)。」


 けど。

 耳に入ったのは全く違う形の慈悲で。


「良いんだよ、私達のことを両親だと思ってくれても。

 無論、君の本当の両親にはなれないが…私達は、マノア君のことを家族だと思っている。

 だから、君もそう思ってくれて良いんだ。」


「でも、僕と皆さんでは…その…」


「身分なんて関係無いよ。

 ぞんざいに扱われるのも困るが、遠慮はいらないんだよ。」


「………」


 許、された…

 許されてしまった。


「…………」


「…マノア君? 大丈夫かい?」


「大、丈夫です…心配、されるようなことは、何も…」


「だってマノア…泣いてるじゃない…」


 …確かに、僕は涙を流している。

 隠したい。この場から走り去って大声で泣きわめきたい。

 でも、それは出来なかった。

 その理由は――


「大丈夫です…だって、僕は…

 ――嬉しい、から。」


 この涙は、溢れる喜び。

 この涙は、溢れる感謝。

 喜びを、感謝を隠すなんて、失礼だから。

 僕を家族と認めてくれた、この人たちに。


「…良かった。

 貴方も、私達を家族として認めてくれるのね…

 今まで、辛かったでしょう。寂しかったでしょう。

 今は、泣いて良いわ。もっと泣きなさい。」


「はい…っ!」


 嗚咽が大きく、短くなっていき、大声で泣いた。

 今までの寂しさを全て吐き出すように。

 今の幸せを、かみしめるように。






「………」


 はっっっっずかしい。

 すっっっっごく恥ずかしい。

 人前で泣くという経験はまあ、無かったわけじゃない。

 両親や友人、級友の前でも泣いてしまったことはある。

 けど、いつになっても恥ずかしさは薄れない。


「うぁぁ…ぁぁ…」


 自分でもよく分からないうめき声を上げてただただ転がる。

 ベッドの上を右往左往。それでも恥ずかしさは無くならない。


「マノア、ちょっと良い?」


「ぅうにゃああああああああああああ!?」


 突然聞えて来たセシカさんの声に驚いて変な叫び声を上げてしまった。

 み、見られた!? 今の見られた!?


「どうしたのセシカさん?」


 羞恥を押し込め、慌てて体勢を整えてセシカさんを迎え入れる。

 が、突き刺さる胡乱気な視線は止まない。


「……さっきの、何?」


「え? なんですか?」


「…さっきの、変な」

「なんですか!?」


「…もういいわ。」


 折れてくれた…良かった…


「そ、それより、今日はどうしたんですか? また何かお話しすると良いんですか?」


 セシカさんが僕の部屋を訪ねてくることは珍しい事じゃない。

 たまにだけど僕と話をするために部屋に入ってくることがある。話の内容は主に僕の話がメインで、昔、エレスに居た時はどんなことがあったのかとか、両親とどんなことをして過ごしたのかとか…

 …セシカさんのことはあまり聞かされていない。本人曰くあまりしゃべることが無いのだとか。

 そう言う時も含め、部屋を訪ねてくる時は毎回ノックをするので今回は僕が気付かなかっただけだろう。


「ええ、それなんだけど…貴方、もう大丈夫なの?」


「大丈夫って…何がですか?」


「何がって、さっき泣いてたじゃない。」


「あ、あれは忘れてくれると…あ、でも忘れて欲しくないっていうか…」


「どっちよ…」


 …ちょっと意味が分からないことを言ってしまった。

 感情ってホント複雑。


「とにかく、あれは嬉し涙だったから大丈夫なんです!」


「……そう、嬉しかったのね。」


 微笑みをこぼす彼女に、ちょっとだけドキッとした。

 けど、なんだかちょっぴり恥ずかしかった。さっきまでの頬の熱が冷めきっていないのかもしれないけど。


「良かった、強がりじゃなかったのね。

 ご両親のことを思い出して、辛かったのかもって思ってて…」


「…少しはそれもあるかもしれませんけど…でも、間違いなく幸せだって言えます。

 セシカさんのご両親がああ言ってくれたことは、絶対に不幸なんかじゃないです。」


 胸を刺す痛みが無かったわけじゃない。

 けど、それもほんの少し。僕は確かにそれ以上の幸せに包まれていた。


「良かった…本当に、良かった…」


「…なんでセシカさんが泣くんですか?」


 彼女は、涙を拭っていた。


「安心したから、かも。

 だって、あの時もし貴方を傷つけてしまっていたらって…」


「ありえませんよそんなこと!」


「分かってる、つもり、だったけど…もし、って考えちゃって…

 ……そうだった、貴方に一つ確認したいんだけど…」


「なんですか?」


「私も、貴方にとっては家族なの?」


「……はい?」


 何故そんなことを訊かれたのか、まるで分らなかった。


「だって、私の両親は貴方の両親に重ね合わせられると思うけど…私は、どうなのかと思って。

 …もしかして、姉も妹も居ないからそう見れない?」


「そんなことはありませんよ!

 妹とか姉とか、関係ありません! セシカさんだって大切な家族です!」


「…そう。」


 嬉しそうな、でも少し寂しそうな表情(かお)だった。

 裏に隠れた寂しさに疑問を抱いていると、セシカさんは表情を戻して言った。


「それと、もう一つ。

 実は今回、一つ伝えることがあってきたの。」


「…なんですか?」


 僕も切り替えてセシカさんの言葉に耳を傾ける。

 雰囲気は真剣そのもの。真面目な話であることは十分に察せた。


「明日なんだけど…絶対に部屋から出ないで。」



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