3話 一件落着②
「ま、まあともかく――――! あんたにこれ以上悪さをする意思が無いって言うならこっちもこれ以上事を荒立てるつもりは無いってことだ」
「それはどうしからねぇ。牛鬼の呪縛が無かったとしてもあたしが自分の欲望に走らないとは限らないじゃない?」
「でも、あんたはそうじゃない」
あえて挑発するような態度の水張にあっさりと断言する。
「…………一応、理由を聞かせてもらおうかしらぁ。自分で言うのもあれだけど、ここまでであたしの事を信用するに足るきっかけなんかあったかしら」
一同の視線が一点に集中する。自身に集まる視線の束を気にすることなく一言、相一の答えはシンプルに。
「――――――勘」
相一がたった二文字の答えを口にするよりも前に、彼以外の事務所メンバーは息ぴったりの溜息を吐いていた。
「はぁ………………予想通り過ぎて文句言う気も失せるわね」
「所長さんはまあ…………、わたしの時も…………そうだったし…………」
「私はもう諦めました」
「あはは、みんなその辺にしといてあげようよ」
揃って呆れ顔の事務所女性陣の面々を他所に涼しい顔で話を続ける相一。
「ともかく水張に害がないっていう前提で話を進めるぞ。で、その前に今回の依頼人である前橋さんの意見を聞いておきたいんですが」
「…………私は怪異や物の怪といった存在に明るくありません。専門家のあなたが、そちらの濡れ女さんを安全だと仰るなら私はそれを信じます」
前橋は神妙な面持ちで小さく頷いて見せた。
「前橋さんが話の分かる方で助かります。やはり妖怪というだけで忌避したり嫌悪したりする人間が多いですから」
「…………っ、申し訳ない」
相一の言葉に思わずといった様子で水張の、そして璃亜や氷柱の方に向けた視線を慌てて戻す前橋。
「そんな気にしなくていーわよおっちゃん、よくある事で慣れてるし」
「氷柱の言う通り、頭ごなしに妖怪達を否定しないだけで十分ですよ。それにその方が前橋さんにとって都合がいい提案もありますしね」
「提案…………ですか?」
「ええ、今回の件ここで一件落着とするのは簡単です。水張がここで悪さをする事はないし、絶波海水浴場に平和が戻ってめでたしめでたし…………と言いたいところですが一度減った客足はそう簡単には元に戻らないでしょう。こちらとしても悪い妖怪やっつけたからハイ依頼完了、というのも後味が良くない」
「…………と言いますと?」
「そこで俺から提案があります。客足の減ったこの海水浴場に活気を取り戻し、このぶっ壊れた海の家を建て直し、ついでにこの店を繁盛させるとっておきの提案が――――」




