3話 力の差
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「きゃぁッ!?」
断続的に発生していた地響き、殊更に巨大な振動に驚き小さな悲鳴を上げたのは荒事に不慣れな女子高生、中原詩織であった。
「詩織ちゃん…………大丈夫…………?」
トレードマークのサイドテールをぷるぷると小刻みに震わせる彼女を心配そうに覗き込む小柄な少女、三千千里。
「い、今の!? すごい音したけど氷柱ちゃん達大丈夫なのかな…………」
「確かに…………牛鬼の妖気は…………ここまで離れていてもはっきり感じる程…………強力で巨大な妖気を放ってる…………」
千里の言葉を聞くにつれ詩織の表情に暗い影が射し込んでいく。不安、心配、今しがた死にかけた恐怖がぐちゃぐちゃに入り混ざった顔をする詩織の手に温かいものが触れた。それは彼女のものよりも一回り小さな手。
「…………千里ちゃん」
「安心して…………牛鬼が…………たとえどれだけ強くても…………」
ぎゅう、と詩織の手を握る力が強くなる。小さな体を精一杯使っておびえる少女を安心させるために。
「璃亜さん達の方が…………強いから…………」
普段は控え目で大人しい小柄な少女が見せた力強い表情が、力なく震える女子高生にとってこれ以上ない程の支えとなった。
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「な、んだと――――――ッ!?」
桁外れの振動、巻き上がった砂粒、そのどれもが収まり静寂を取り戻した夜の海水浴場で見られた光景は。
堅い獣毛に覆われた漆黒の巨腕、圧倒的な破壊をまき散らす筈の一撃。文字通り小さな山なら粉砕できそうな力を秘めたそれは吸血鬼の細腕一本の前で完全に静止していた。
「確かに、先ほどまでとは比較にならない力を感じます」
牛鬼の表情が驚愕に染まる。
全身全霊全力を込め振るった拳、蓄えた人間の精気を妖気に変換しその全てを惜しみなく注いだ一振。
瞬間的な破壊力だけなら並みの妖怪を遥かに凌ぐその剛腕は華奢な少女の目の前でぴくりとも動かせずにいた。
「ですがこれで全力というのならその大仰な変形はとんだ見掛け倒しと言わざるを得ないようですね」
ぱん、と牛鬼の巨腕を軽く振り払い、掌を上に手招きする。
あからさまな挑発に牛鬼の濁った瞳が怒りに染まる。
「図に、乗るなよ小娘!! 吸血鬼の力がどれほど大層なものか知らぬがその傲慢な自信諸共粉々にしてやるわ――――‼?」
牛鬼の咆哮、と同時にその大きく開いた大顎から大量の白い糸が吐き出される。
ダムの決壊の様に放出されていく蜘蛛の糸が一呼吸の間も与えずに白髪の吸血鬼を覆い隠していく。
「追いつめられて出てくる手が一度破られたものだとは――――。そろそろ幕切れといったところでしょうか」
全身を白い糸で覆われ吸血鬼。その蜘蛛の糸の内側から聞こえるくぐもった声、その声色に緊張や動揺は一切なく薄手のタオルケットか何かでも被っているかの様だった。
「ぉ、ォオオオオオオッ!」
牛鬼が両腕を大きく掲げ宙で両の手を固く組み、振り下ろす。
さながらビルの解体作業に使われる特大のハンマー。巨大な建造物すら粉々に出来るだろう破壊力を持つその一振りが蜘蛛の糸で覆われた吸血鬼へと真っすぐに降り注ぎ
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ゴッギィイイイイイイイイイッ!! と凄まじい衝撃と音をまき散らしながら牛鬼が誇る両の腕が大きく弾きあげられる。
衝撃の収まった砂浜の真ん中、白く分厚い膜を引き裂いてすらりとした細い腕が夏の夜空に向けて突き上げられていた。
体勢の崩れた牛鬼が目を見開く。想定外、屈辱、焦燥それら全てが入り混じった表情を浮かべる妖怪は目の前に佇む吸血鬼を苦々し気に睨みつけた。
そして僅かに逡巡した後8本の脚を器用に動かしその場で巨体を翻すと、今まさに引き裂いた蜘蛛の糸から全身を現そうとする吸血鬼に背を向けたまま全力で砂浜を蹴り出した。
「勝てないと分かるなりすぐさま遁走に移る、その姿勢は悪くないですが判断を下すのが少々遅すぎた様ですね」
その間にも牛鬼は白い波打ち寄せる砂浜を横切り、月明りを反射する波間に向かって飛び込んでいく。




