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吸血秘書と探偵事務所   作者: かみこっぷ
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3話 事情聴取

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「はあはあ、よぉしお前ら少しは落ち着いたか? だったら黙って席につけ。今度こそ、話を進めるぞ」


一言でいうなら、もう滅茶苦茶だった。


ひっくり返ったテーブルの下には女子高生と千里眼が重なり合う様に倒れ、それを挟んで睨み合う雪女と濡れ女。一歩引いた位置にたたずむ吸血鬼は何か思い悩むような表情で自身の胸を下から両手で持ち上げるようなポーズを取り、さらにその場の中心から最も離れた所からは五十路を目前とする海の家の親父前橋ががたがたと震えているという始末。


「よっ…………と」


ごとん、とひっくり返ったテーブルを元に戻し下敷きになっていた二人を助け起こす。


「あうぅ…………ありがとうございます所長さん…………」


「し、死ぬかと思いましたよ…………。氷柱ちゃんも濡れ女さんも割とガチ目に喧嘩おっぱじめるんだから。こんなギャグパートで死ぬなんて御免ですよわたし」


「そういうわけだから、ほら、お前らも座れ。そっちの濡れてんのと冷たいのもこっち来て席につけ。璃亜は自分の世界から帰ってこい。で、前橋さんは…………すいませんそのままでいいです」


たった今目の前でちょっとした妖怪大戦争を繰り広げた輪の中に入らされると感じた前橋が浮かべた泣きそうな顔を見て、流石に気の毒に感じたか。


前橋を除く全員が元の席に着いたのを確認し自らも椅子の上に腰を下ろす相一。


「よし。それじゃあ改めて聞かせて貰おうか濡れ女? 何が目的でここいら一帯の海水浴場で人を襲ってやがったのかを」


「…………なんかもう疲れちゃったしぃ。お姉さん、帰っていいかしらぁ?」


「別にこの場であんたをどうこうしようって訳じゃない。これでも俺は結構色んな妖怪たちと関わって来ててな。まぁ勿論中には人を襲う奴らもいたし、話の通じない連中とは直接やりあう事も多々あったけど。問答無用で人間は皆殺しだーとか目に入る人間は全員餌だーってタイプでもねえみたいだし、理由次第では話合いで穏便にかたをつけたいと考えてる。幸いまだ死人がでた訳でもないからな」


「お兄さんちょっと甘すぎないかしらぁ? 仮にもあたしは人間を傷つけた妖怪よぉ、そんな

あたしが実は人間を襲うのには事情があってもしそれを何とかしてくれたら人を襲うのを止めるって言ったらそれを信じるっていうのかしら?」


「ああ、信じる」


「へ?」


問いかけた濡れ女が返答に窮する程の、躊躇の無い即答。


「またでた所長(ばか)の悪い癖」


「全く、少しは人を疑う事を覚えて欲しいものですが。まあ、そこが所長の長所であり短所でもあるわけですが」


「ほんっとそれで何回酷い目に合ったか…………。あたしが事務所に来てからそろそろ一年たつけど、たった一年の間に相一の悪い癖で何回も何回も騙されたり裏切られたり嵌められたりとほんともう何回も何回も…………」


「氷柱ちゃん…………帰って来て…………」


千里の幼い手が雪女の肩をゆさゆさと揺する。


「はっ――――――。そうだった、ぼーっとしてる場合じゃなかった! ちょっと濡れ女! うちの馬鹿はこんな調子で騙す騙されないのレベルじゃないくらい人の話を鵜呑みにするのよ。たとえそれが罠だと理解していてもね」


「おいおい氷柱そんなに正面から褒められると流石に照れるぞ」


「探偵さんはちょっと黙ってましょうか」


「あれ? 詩織ちゃん? いつの間にそんな子になっちゃったの? うちの秘書(夜モード)の影響とかじゃないよね?」


「はいはいお二人共その辺で。うちの所長はこの調子なので詳しい事情は私が伺いますが、宜しいですね?」


「別に誰だって構わないわよぉ。勿論お姉さんの話を信じるも信じないもあなた達の自由だけどね」


からかうような物言いだったが璃亜は全く意に介さず、視線で話の続きを促した。


「そうねぇ、まず覚えておいて欲しいのはお姉さんはこの海水浴場を気に入ってるって事。これは紛れもない本心よ」


そこに濡れ女の話を待たずに氷柱が口を挟みに割り込んでくる。


「ははーん、なるほど分かったわよ! 大方、マナーの悪い海水浴客がゴミやらなんやら散らかして海を汚されるのが我慢できなくなったんでしょ!? それで事故を装って人間を襲い、客足を遠ざけようとしたってわけね! いるのよねー、自然の味方気どりで環境を壊す人間は悪だーみたいに――――わぷっ!? わ、わばばばば」


ぼすっ、と雪女の頭に片手を置き自動車のシフトレバーを操作する様にぐわんぐわんと前後左右に振り回す相一。


「話を切って悪かったな。こいつも悪気があった訳じゃないんだ、ただちょっーと落ち着きが無いだけで」


「わば、わばばばば! あうあうあう――――っていい加減にしろぉおおおッ!! いつまで人の頭掴んでんのよ!! つーかいつの間にかツインテール握ってハンドルみたいにしてんじゃないわよ! 女の子の髪を何だと思ってんのよこのバカ!」


「ほんと仲いいわねぇ二人共、どっちかというと兄妹の関係みたいだけど。まぁそれはともかく、お嬢ちゃんの言う通り平気でゴミを捨てていくろくでなしが一定数いるのは残念ながら事実よぉ」


ふわりとした金髪を揺らしながら頬を膨らませて見せる濡れ女。そういった人間たちに対して快く思っていないのは確かなようだが、襲い掛かるほど憎んでいるかと聞かれればそこまででは無さそうな、そんな表情。


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