3話 目に入ったもんはしょうがない
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洞窟での戦闘終えた面々はその場を後にし、今回の依頼の発端である前橋が切り盛りする海の家へとやってきていた。テラス…………などと洒落たものではないにしろ浜辺に面したその席から見える景色はなかなか幻想的なものであった。真っ暗な海面と夜空の境界は溶けて混ざり合い都会の真ん中では決して見られない様な星が瞬いている。
テーブルを囲んでいるのは相一達事務所のメンバー五人と元凶である濡れ女、依頼主の前橋会長と計七人。その中で璃亜と氷柱が濡れ女を挟み、その対面に相一が座るといった形で席についている。
当然だが、すでに一同水着姿から普段着に着替えその中でも全裸を貫こうとした濡れ女には体格の最も近い璃亜の上着を無理やり押し付ける形で事なきを得ている。
「まず最初に――――最近この辺で起きてる水難事故はあんたの仕業か?」
「ええ」
さすがに即答の肯定は予想外だったのか多少面食らった様子を見せる相一。
「随分あっさり認めたな」
「別に隠さなきゃいけないような事でもないしねぇ」
悪びれる様子もなくけろりとした表情でのたまう濡れ女の股の間からひんやりとした刃が突き出してきた。
「大勢の人を…………ましてやウチの馬鹿所長にまで手を出しといて随分な物言いじゃないの」
「待て待て氷柱。とりあえずそれ引っ込めろ、前橋さんがすげえそわそわしながらこっち見てる」
「う…………」
雪女はばつの悪そうな顔で足元の凶器を引っ込めた。
今この場には人知を超える力を振るう妖怪が大勢いるのだ、そんな面々が本気で暴れようものならさほど大きくもないこの海の家がどうなってしまうのかなど想像に難しくない。
「そうよぉ雪女ちゃん、女の子は常に余裕を持って構えてなくちゃ。…………気になる男の子の前では特に、ねぇ?」
「だあから、あたしとこいつは別にそういうんじゃないって――――っ!!」
ダァン!! とテーブルを叩いた氷柱が顔を真っ赤にして立ち上がる。
「だああああもおお!! 落ち着け、こいつの言う事一々真に受けなくていいって! アンタも煽るんじゃねえよ濡れ女!!」
「お兄さんたら、『濡れ女』なんて呼び方やめて雫って呼んでくれてもいいのに…………裸で絡み合った仲じゃない」
身を乗り出して相一の方へ顔を寄せる金髪爆乳、璃亜の上着を羽織っているとは言えそんな布一枚では隠しきれないその肉体が彼の眼下にずいと寄ってくる。
普段から多くの女性に囲まれているとはいえ、目の前に見事な景色が突きつけられば気になってしまうのは男の性だろう。だがそれも一瞬、目の前の絶景に落としかけた視線を濡れ女の顔に戻す事に成功する。
この一瞬の反応を咎められなかった事に安堵し話を進めようとする相一だったが。
「あ、今探偵さんこの人の谷間ガン見してませんでした?」
「ぶッ!? な、なんの事を言っているのかサッパリだよ詩織ちゃん。大体ガン見っていうほど見てねえだろ!? ちらっと視界に入っただけで――――――あ」
語るに落ちた事務所の長に濡れ女以外の女性陣から冷たい視線が突き刺さる。
「やっぱ見てたんじないですかー! 真面目な話してるんですからしっかりしてくださいよー」
その時相一は女子高生の口元に笑みが浮かんでいるの気づく。対する少女も彼の視線が自分に向けられていると気づくと他の皆には見えない位置で小さく親指を立てた。
(なんでこんないい顔してんのこの子!? なんだその空気温めておきました! みてえな表情は!?)
「所長さんは…………そういうとこありますから…………」
「死ね」
「あのー璃亜さん? 璃亜さんはこの馬鹿どもと違って客観的な視点から冷静な判断を――――」
「所長」
麦茶の入ったグラスを傾ける吸血鬼の冷え切った声が鼓膜に突き刺さり、思わず背筋がピンと伸びる。
「はい!」
「見たんですか?」
「え」
「ですから、その…………濡れ女の…………を」
「いや、見たっていうか正確には見えたっていうか――――すいません、一瞬目を奪われました」
バリンッ!! と吸血鬼の手にしたグラスが粉々に砕け散った。
「まあ、所長も大人の男性です。そういうことに気を惹かれるのは至極当然の事と理解しているつもりです」
完全に無表情をキープするクール系秘書はそこで区切る。
「しかし、やはり大人として時と場所をわきまえるくらいの分別もついて当然の事だと、そう私は考えておりますが?」
「………………おっしゃる通りでございます」
「怒られちゃったわねぇ。あたしは全然構わないんだけど? 見たいって言うならもっと近くで、もちろん直に――――はいはい、そっちの雪女ちゃんの目つきが怖いからこの話は後で…………二人きりの時にゆっくりと、ね?」
「てめえ今なんつったゴラァ!?」
「あの…………皆さん…………一度落ちついて話を…………」
ぎゃーぎゃー騒ぐ雪女とそれをのらりくらりと躱す濡れ女。その二人の影では神妙な顔をした吸血鬼が世間の平均を二回り以上は上回る自身の胸元を見下ろしながら小さく一言。
誰にも聞こえない程ぼそりと呟いた。
「はぁ…………ほんの少しだけ、氷柱さんの気持ちが理解できた気がします」




