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吸血秘書と探偵事務所   作者: かみこっぷ
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3話 決着? 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


自身目がけて高速で突っ込んできた濡れ女と衝突し、もみくちゃになりながら数メートル転がりようやく動きを止めた相一。久方ぶりに口から酸素を取り込みながら身体を起こそうとするが、衝撃のあまり明滅する意識のせいで思う様にいかず両手両膝をついたまま大きくむせ込んだ。


「げっほ! ぶぇっほげほごほ!! 全く身動き出来ない奴にこの仕打ちは酷くねえか………………って、ん?」


そこでふと疑問が浮かぶ。


ここは洞窟、下は岩肌。そこに手をついた状態の彼がその手から感じる感触はどのようなものか、湿った岩の少しひんやりとしたごつごつとした感触? あるいは細かい砂が掌に張り付く様なじゃりじゃりとした感触なのか。


その答えはどちらも違っていた。


ふにょん、と。巨大なマシュマロの様にふんわりと柔らかい何かがそこにあった。というより、鷲掴みにしていた。


「………………………所長?」


真っ先に駆け寄ってきたクール系秘書の表情がクールを二段階ぐらい飛び越えて冷酷無比そのものへとワープ進化した。


「…………俺、知ってる。こういうの冤罪って言うんだって」


ゆっくりと、本当にゆっくりとした動作で両の手を柔らかな双丘から引きはがした。指先まで神経を張り巡らせたその動きは完全に山道で熊に遭遇してしまった人間のそれである。


「所長…………さん…………」


「探偵さん、さすがに時と場所と相手は選びましょうよ」


「死ね」


千里、詩織、氷柱の三人も相一達の元に集まってくる。


「…………はい、すいませんでした」


冷めた目に囲まれながらゆっくりと両手を上げ降参をアピールする。


「ふふ、冗談です。皆さん所長の無事を喜んでいるだけですよ」


「どこか怪我は…………してませんか…………?」


「探偵さん、全身水でふやけちゃってますよー!」


「死ね」


約一名純粋な殺意がだだ洩れになっている雪女には気づかない振りをしながら、全員の視線が足元で伸びる濡れ女に向けられる。


「殴っても斬っても…………効かなかった濡れ女さんを…………こんなにするなんて…………」


「そうよ詩織、あんた一体どんな魔法を使ったのよ?」


千里と氷柱の疑問に待ってましと言わんばかりの表情で詩織が説明を始める詩織。


「よくぞ聞いてくれました! あの海の家のメニュー、中華丼がヒントになったんだけど――――」


「あの鞄の中身の白い粉、片栗粉――――ですね。片栗粉を水で溶いた水溶液、まあ単純に水溶き片栗粉の事ですが…………」


そこで自身の横顔に非難の視線がちくちくと刺さっていることに気づいた璃亜がその視線の主に気づき大人しく口を閉じる。


「もうっ! わたしが全部説明したかったのにー! まあ、いいですけど…………」


千里と氷柱に向き直った詩織が改めて説明を始める。


「さっき秘書さんが言っちゃったけど鞄の中身は片栗粉で――――」


「なるほど、そういう事か。ダイラタンシー現象…………だっけか? 変わった性質をもった液体で強い刺激を与えると固まって止めるとまた液状に戻るっていう――――いでっ!」


頬を膨らませた女子高生に脛をがしがし蹴られながら、しまったという様な表情で頭を掻く相一。


「あー、ごめん詩織ちゃん。ごめんすまん悪かった、もう邪魔しないから」


「言いたい事ぜんぶ言われちゃったんでもういいですよーだ!」


「悪かったって。つかまだお礼も言って無かったよな。詩織ちゃんのおかげ助かったよ、ありがとう。勿論、他の皆もな!」


ぷいとそっぽを向く女子高生の頭に優しく手を乗せる相一。


「氷柱ちゃんじゃないんですから、そんな簡単にごまかされたりしませんよ!」


「ちょっと! どうしてあたしがそこで出てくるのよ!?」


「まあまあ氷柱ちゃん…………落ち着いて…………」


状況が落ち着いたところでいつもの調子を取り戻し始めた事務所のメンバー達。


その騒ぎが耳に届いたのか皆の足元、洞窟の岩肌へ直に倒れていた全裸の金髪がもぞりと蠢いた。


「―――――――ッ!?」


全員がその場から飛びずさる。


「――――――――あぁぁぁ、あったま痛いわぁ。大体、女の子の顔を全力でぶん殴る女の子がどこにいるのよぉ」


むくりと身を起こした濡れ女はそのまま地面に座り込んでしまう。周囲を取り囲む事務所のメンバーにも動じることなく辺りを見回しながら大きく息を吐く。


「あぁんもう! 身体中ドロドロ…………というか、なんかあたしのナカがどろどろのぐちゅぐ――――ったぁ!?」


ごちんと、氷を纏った鉄拳が濡れ女の口を閉じさせる。


「子供もいるって言ってんでしょ」


冷たく見下す様な視線で金髪の爆乳を睨みつける氷柱。そんな青白ツインテールの少女の頭にぼすりと手を乗せた相一がその場に屈み、濡れ女の視線に合わせる。


「まあとにかくよ。水張…………だっけか? あんたには聞きたいことが山ほどあるんだが、構わねえよな?」


濡れ女は改めて周囲を見渡し、観念したようにもう一度大きくため息をつくと


「お兄さんの頼みならしょうがないわねぇ。で、聞きたい事って何かしらぁ? スリーサイズはもちろん、経験人数から好きな体位まで」


ごちん、と無言で拳を落とす雪女。


文句言いたげな顔で頭をさすり濡れ女が言い直す。


「んもう、冗談なのに。いいわ、今度こそ何でも聞いて頂戴? 敗者が勝者に従うのは当たり前のことだしねぇ、勿論勢い余って勝者の権利を振りかざしてあんな事やこんな事…………はいはい、分かったわよ余計な事は無しね」


背後から聞こえる氷の軋む音に黙って両手を上げる。


「分かればいいのよ」


「あの所長さん…………体位…………って…………?」


「い、いやあ。何だろうなあ? ――――ともかく、ようやく話を聞いてくれる気になった様だし事情聴取といこうかね」


ひとまず場所を変えようと一同は纏まって洞窟を出ていく。氷柱が用意した即席の足場を辿り月明りが照らす砂浜へと戻っていく彼らを上から見下ろす人影が一つ。


「なんだよ、意外とやるじゃねえか嬢ちゃん」


がしがしと頭を掻きながらため息をつく大柄な筋肉質の男、その隣には一匹の狼が退屈そうに佇んでいる。


「…………別にあの嬢ちゃんに頼まれたから来た訳じゃねえぞ。吸血鬼や雪女と互角にやり合う濡れ女に興味が沸いただけで…………」


隣に佇む一匹の狼がふんふんと鼻を鳴らす。


「てめ、何笑ってんだ! だから違うって、嬢ちゃんが心配だったとかそういうんじゃ断じてちげえからな! なんでウェアウルフのこの俺が人間一匹に気を向けなきゃならねえんだよ!」


わしゃわしゃわしゃーとかき混ぜる様に腹を撫でられ気持ちよさそうに喉を鳴らす狼。

 

「ったく、そろそろ俺らも帰るぞ。潮風が鼻に沁みるしよ。――――心配して損したぜ」


ざぱぁ、とひと際大きな波が彼らの足元に打ち付けた瞬間、飛沫がその身を濡らす直前に夏の夜風と共に姿を消していた。


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