第八十六話 新しい家族
「な、なんだ?この生き物は……」
「クルピァ」
蜥蜴?いや、でも頭に角と背中には羽生えてるしな……。
俺の目の前にいるモンスターは額には二本の角に生えており、頭は少し体より大きくて不釣合の大きさだがぱっちりとした大きな白い目で此方の様子を伺っている。
するとモンスターの目の前に『スキル【飛行】を覚えました』とコマンドが表示されると、羽をパタパタと動かし始めた。
『と、飛んだ……!』
モンスターは悪魔の羽のような形をしたちっちゃなで懸命に自分の力だけで羽ばたき宙に浮くと、フラフラとしてまだ危なげな様子だが俺の頭の上に着陸してくる。
「クルピァッ!」
満足したようにモンスターは鳴き、俺の頭の上に乗ると今度は俺の紺色の髪の毛で弄って自由に遊び始めた。いかん、何考えてるのかまったく分からん。このモンスター……。
「ただいま~……って、うわぁ!」
「あ、おかえり」
用を済まして森の奥から帰ってきたケンジは俺の頭に引っ付いている黒いモンスターを見て、びっくりする。
「もしかしてその子、あの卵から生まれたの!?」
「あぁ、さっきケンがトイレにいってる間にポロっとな」
そう説明すると更に目をキラキラと輝かせ、興奮した様子でモンスターを見るケンジ。
「すごいっ……!!本物の“ドラゴン”の赤ちゃんだ!!」
「ドラゴン……?このちんちくりんのがか?って、いたたたッ!!?」
「あははは!ドラゴンはすっごく頭が良いらしいから。悪口はあんまり言わない方がいいよ」
「グピァー!」
「そういうことはもっと早く言えよ!」
俺は必死に頭をがじってくるドラゴンを剥がそうと抵抗する。まだ赤ちゃんなので牙はまだ完全に生え揃っていないようだが、結構これが痛いのである。
「なんだ!?こいつ、全然ッ離れてくれないんだけど!!」
「んー……もしかしたらポチのこと『お母さん』だと思ってるから離れたくないのかな?」
「はぁ?俺が『母親』ッ!?」
すっかり俺は卵の持主はケンジなのでもし、親となるとしたらケンジだと思い込んでいた。
「学校の授業で習ったんだけどね、卵から孵ったモンスターは『一番最初に目に入った者を親』として認識するらしいよ」
「ってことは……」
「うん、ポチが親だね」
ま、マジかよ……!
俺は自分自身が指を差した指先が信じられなかった。
「いいなぁー……ドラゴンの親だななんて。卵も僕が大切に暖めたのに……ポチ、狡い」
「全然狡くもねぇし、良くもねぇー」
こんなん、事故に近い。うんそうだ事故事故!!
しかし親になってしまった以上、コイツを無闇に放っておくこともできなくなってしまった。俺は痛むこめかみを押さえる。
『ってかあれ?なんか異様に頭が軽いような……?』
そう思うと同時に何処からかムシャムシャと音がする。
「ってあーッ!俺の焼き魚……!!」
「うわぁー……凄く美味しそうに食べてるね」
そこには俺が丹精込めて大切に焼いていた焼き魚のを食べるドラゴンの姿があった。しかも、俺の分だし……。
苦笑いしながらもケンジは「僕のも食べる?」っと自分の分の焼き魚を見せる。ドラゴンは嬉しそうに「クルピァ!」と返事をしケンジから串を受け取ると早速魚に齧り付き、ケンジの分の焼き魚もペロリと平らげてしまった。
『ちきしょう、普通赤ちゃんならお母さんのお乳とかだろうが!それにその小さな体でどこにそんなに入るってんだ?』
自分の体の半分位あった魚をあっという間に骨ごと食べてしまった赤ちゃんドラゴン。美味しかったと言わんばかりに可愛らしい声で「クルピァ!」と鳴く。
――くっ……!そんな愛くるしい顔で見てきたって俺は許さないからな!
だが、ドラゴンは今度「ウッウッ……」と何かを吐き出そうと体を震わせ始めた。
「あ、あれ……?どうしよう、ポチ。なんか気持ち悪そうにしてるよ?」
「あぁ、これか?大丈夫だ、多分こりゃ『ゲップ』をしたいんだな」
仕方ねぇなぁ~っと思いつつも、俺はドラゴンの体を持ち上げると背中を優しく擦って上げ、ゲップが出やすいよう俺の肩にドラゴンの赤ちゃんの頭を乗せる。
「よしよし……」
「なんか慣れてるね。ポチ」
「んまぁな。あっちで何回かやったことあったし」
俺が育った施設では基本『下の者は上の者が面倒見る』のがルールだったのでこんなことは慣れっこだった。
『まぁ、これは“あの人”がやってる姿を見て、見よう見真似で覚えたのだが……』
優しくドラゴンの背中を叩くと、ゲップは喉のところまで来ているのか「ウプッ……」と声がする。
『そろそろするかな?』
俺はそっとドラゴンの体を持ち上げ、口元を覗くとそこにはあったのはゲップではなく、何かのエネルギーを貯めた玉であった。
「へぇ?」
バキューーンッ!!!
俺の頬にギリギリに掠めるようにして熱光線は解き放たれると、後ろに大きくそびえ立っていた青々とした山に直撃する。
バッコーーーンッ……!!!
「「…………ッ!」」
背後からした嫌な大きな爆音と爆風に俺は恐る恐るも振り返る。
さっきまであった筈の大きな山は半分以上削られ、中央辺りには何かが突き抜けた後のような大きな風穴らしきものがあいていた。
「お、俺の、気のせいかなッ……ケンジくん?今コイツの口から、破壊光線的なものが出て俺の頬を掠めたような気がしたんだけど……??」
チリチリと髪が燃えた嫌な臭いがする中、震える声で俺はその場にいた同じ目撃者であるケンジに問いかけるが、ケンジはまるで魂が抜けてしまったようにポカーンッとした様子でただ目の前の形がかなり変わってしまった山を見つめている。
『だ、ダメだ!完全にケンは許容範囲を超えてしまってフリーズしてしまってるぅぅう!!』
ガタガタとまだ震えが止まらない手で俺はスキル【鑑定】に手を伸ばす。そして、俺の目の前にすぐにステータス画面が表示された。
【ステータス】
《モンスター.298 邪神龍インフェールデイモン》
*Lv5 *名前 無名
HP 2000/2000
SP 691/691
攻撃力 2600
防御力 2000
調合レベル 1
鍛冶レベル 1
捕獲ランク SS
属性 闇
耐性 光属性以外の全属性
性格 マイペース 食いしん坊
魔法 闇魔法
スキル 【飛行】その他
情けないことに俺はアホみたいに垂れた下がった青色の鼻水と広がった口をすぐに塞ぐことができなかった。
「クルピァ?」
吐き出すもの全て吐き出せてすっきりしたのか呑気に鳴き声を上げるドラゴン。純粋だが空虚で何も写し出さないその白い目は固まってしまった俺を不思議そうに見ていた。
「な、なんちゅうもん優勝景品にしてんだあの運営ぃぃぃいい!!」
本日から新しく俺たちの仲間になったのはドラゴンの赤ちゃんは赤ちゃんでも生後15分で見事山一つを破壊してみせた“邪神龍”の赤ちゃんでした。




