第八十五話 卵の中身は
アベシス王国を出て3日。マップの画面を見ながら順調に次に向かう水の都『クルスティア』に向かっていた。今日は気分を変えるため、家の中ではなく野外で昼ごはんを食べる準備をしていた。
本日の昼ごはんはさっき川で捕まえたばかりの魚の串焼きだ。シンプルだが魚はやはり、塩かけ焼いて食べるのが一番うまい。
「そういえば……」
俺は目の前に座るケンジの隣にある黒い卵を見る。
日中のバイクでの移動の際は流石に手で持っているわけにもいかないので俺のスキル【運搬】の中にしまっているのだが、それ以外は常にケンジが卵を預かっている。
「いつ食べるか、それ」
「えっ!?」
でっかい目玉焼?いや、茹で卵も捨てがたいな。
モンスターの卵など食べたこともなかったので俺はどうこの卵を素敵な卵料理に変えてやろうと考えていると、慌てた様子でケンジは傍に置いてた卵を抱き締める。
「た、食べちゃダメ!!この子は育てるの!」
「はぁ!?お前、もしかしてそれを孵化させる気か!?」
項垂れたようにコクりと縦に首肯くケンジに、俺は厳しく反対する。
「ダメだダメだ。俺は断固反対だからな!生き物は面倒が大変だし、大概こういうのって親が結局面倒みるっていうオチがお決りなんだよッ!それにあの変な格好した奴らもその卵を狙ってたし、なら早く腹の中に閉まっておいた方が安全でいいだろうが!」
「やーだーッ!!」
俺はケンジから卵を取り上げようとするが、ケンジもぎゅっと腕の中に卵をしまい込み離さない。
『こ、こんにゃろう……!』
互いに一歩も譲る気がない俺らはずっと平行線を辿っていると、突然ぶるりと体を震わせるケンジ。
「ちょっと……僕、少しだけトイレに行ってくる」
そう言うとケンジは用を足しに行くため、卵を置いて森の茂みにと歩いていくがゆっくりと此方に振り返り、じっとしたような目で俺を見て「勝手に食べたら、もうポチとは口聞かないから……」と言い残す。
「うっ……」
嫌に静かな口調でケンジにそう言われてしまい、俺は何も言い返せない。
『ケンのあの目……稀に見ない本気の目だ』
ケンジが森の奥に行ったのを確認をすると仕方なく俺は近くにあった丸太に腰をおろして深い溜息を一つおとす。
取り合えずケンジがトイレに行っている今の内に、どうやったらケンジが諦めてくれるかを考えよう。そう思いながら俺は魚を焼いていると……。
―――コトンッ……。
「ん……?なんか今、動いたような……」
目の前にある問題の黒い卵が一瞬揺れたような気がした。俺の気のせいかな?っと最初は思ったのだが、段々とその揺れは強くなっていく。
ゴトゴトゴトォッ!!!
「うおぁッ!?やっぱなんか動いてる!!」
こ、これってもしかして……!
――生まれるってことなのかッ!?
動物の赤ちゃんの出生にすら立ち会ったこともない俺はどうすればいいか分からず馬鹿みたいに目の前で慌てふためいた。
『こ、こういう時って俺どうすればいいんだッ!?と、取り合えず、ひっひっふーとか言ってればいいのかッ!?』
完全にテンパってる俺は他所にその間にも卵はどんどん激しく暴れ、外壁である殻を順調に割っていく。
――パキッ、パキパキ……ッ!!パキッンッ!!!
「クルピァッ!」
可愛らしい鳴き声と共に卵の中から顔を覗かせてきたのは、卵の殻と同じく漆黒の体と羽を生やしたドラゴンであった。




