第八十四話 ようこそ冒険家ギルドへ
ギルドに戻るため直ぐ牧場を出ると数人の屈強な男たちとすれ違う。
「あの人たちは?」
「あれはアレックスの元で働いている人たちだよ。私がここに来る際に一応、念のため連絡しておいたのさ。アレックスももう歳だからね、最近はああやって国の人を雇ってモンスターを運んでもらっているのさ」
大量の爆食蛙の死体は解体屋のアレックスさんが雇っているという年の若い者たちに随分と手際よく次々と爆食蛙を荷台に運ばれ片付いていく。
『ほんと、ダルクスさんって喰えない人だ。こうなることも予測していなんて』
そう思いながらもアベシス王国に戻るためにと俺は足を進めた。
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俺たちはギルドに戻ると今度は室長室に通された。中は山積みにされた書類や、中途半端に片付いた魔法陣などが画かれた本の山などで埋め尽くされていた。そしてダルクスさんは室長室の一番奥に鎮座している校長机の上から何かを取り上げる。
「これが君たち二人の身分証だよ」
「「おぉ~!」」
ダルクスがそう言って俺たちに見せてきたのは白と黒をした二枚のカードだった。
「さぁ、リンダ君。早くこれを二人に渡してあげなさい」
「え?私がですか?」
「ハハハ、当たり前じゃないか!この二人の担当受付嬢は君だろ?だったら、最後まできちんと面倒をみてあげなさい」
「……はい」
ダルクスさんからそう背中を押され、リンダさんは背負っていたリックを降ろして二枚のカードを預かる。そして軽く咳払いをし、俺たちの前に立つ。
「大変お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。此方が本日からお二人に発行される身分証でございます」
「これが冒険家の身分証……!」
「はい。次から他国の検問時に身分証を提示して頂けたればギルドを通して身分もすぐ分かりますので、厄介な手続きも省略化が図れますし、違う国にあるギルドでも同じくクエスト受注が可能となります」
リンダさんから手渡されたのは白と黒の小さいカードだった。一つはケンジので、もう一つは俺だろうが何故か2枚のカードの色は違った。
「あれ?リンダさん、なんか俺とケンジので身分証の色が違うけど……」
「あぁ、それはこの黒色の身分証はポチさん専用にと後から作った特別製なので……何しろ従獣魔が冒険家の身分証をとるなんて前代未聞のことでしたし」
「ア、ハハハ……!なんかわざわざすいません……」
特別かぁ~……!なんか有難みがあるな。
特別製と聞くと申し訳ない気もしたが嬉しくもあった。有り難く俺は自分の身分証を頂戴した。
「身分証は戦いの時に紛失したもしくは消滅した際、本当は手続きをしていただければ再発行も可能なのですが……ポチさんのは特別製で二度と再発行は受付けられないと思いますので落としたり無くしたりしないで下さいね?」
「うっ……!は、はい。分かりました……」
リンダさんに念押しされるようにしっかりと釘を打たれてしまったので、後でちゃんと身分証はスキルの中に閉まっとこう……。
「冒険家ギルドに入るにあたってなんですが、幾つかの注意点もあります」
「注意点?」
「詳細は此方の方に」っと、リンダさんはある一枚の羊皮紙を取り出す。覗きこんでみるとそこにはびっしりと目が痛くなるような黒文字で異界の言葉が書き連ねていた。
うん、予想通りで全くワカラナァ~イ!
文字を見て数秒で『えっ、異世界語って何ソレ美味しいの?』という言葉が俺の脳内を埋め尽くす。でも、ここで『実は文字が読めません』とも言いづらい。どうする!?っとタラタラと嫌な汗を俺が流しながら羊皮紙と睨めっこをしていると、ケンジがちょんちょんと肘で俺の腰辺りをつつく。
『安心して、僕が読んであげるから』
と、ケンジは小声で囁く。しかも俺が恥を欠かぬようにとリンダさんとダルクスさんたちにも聞こえないようにと気を使って。
――ほんと8歳の子供とは思えないほどの優しさと気遣いッ!!
ケンジの大人過ぎる対応に俺は少し自分が不甲斐なく感じ、凹んだ。
「えーっと……」
ケンジは俺からを取り上げると文字が分からぬ俺の為にそこに書いてある文章を読み上げる。
【一】 冒険家はいつも誠実と正義の心を重んじ、決してその名に恥じぬ行動をすること
【二】 己の私利私欲のために冒険家の名を使うことを禁ずる
【三】 非道な行い、または言動など冒険家としての品格を阻害してはならない
【四】 無益な殺生と狩りを禁ずる
【五】 冒険家同士での殺し合いは厳禁。冒険家同士の決着はルールを決め、蹴りをつけること
【六】 自分の魔法で破壊したものは各自責任を持って対処すること
【七】 【一】~【六】の誓約を破った者は即、冒険家としての名、身分証を剥奪するものとする
「これは冒険家としての七法です。もしこれらの誓約を違反する行為があれば誓約【七】に記載されている通り、冒険家としての名を剥奪するという厳罰を受けますので冒険家としての心構えを忘れぬよう肝に銘じて下さいませ……。取り合えず、これで大体のギルドでのご説明は以上です。何かご質問は?」
「んー……今のところはないかな?」
「そうですか……それでは」
リンダさんは大まかな冒険家の誓約について説明し終えると厳かな表情から一変、穏やかな笑みを溢し俺たちに向かって会釈する。
「挨拶が遅れてしまいましたが……ポチさん、ケンジ君!改めて、ようこそ冒険家ギルドへ」
「いらっしゃい、二人共」
「おめでとう、ケンジ君!」
パチパチと横で見ていたダルクスさんとリックがお祝いと歓迎の拍手を鳴らす。リンダさんから紡がれたその言葉を聞き、ようやく固く閉ざされた門の入り口が開かれ、一歩前進出来たようで俺とケンジは思わずその場でハイタッチをした。
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「早いね。もうポチ君たちは旅に出るのかい?」
「あぁ、折角異世界に転生したんだしケンジと二人でのんびり旅でもしながら過ごすよ」
俺とケンジは用は済んだので身支度を整え、アベシス王国を出るため城門の前に立っていた。リンダさんとリックも一緒に見送りに来ていた。
「そっか、なら“盗賊団”には呉々も注意していきなさい。最近良くない噂を聞くから……」
「え、盗賊団?」
あまり日本では聞き慣れない言葉に俺はびっくりして思わず聞き直してしまった。
「それともし次目指す国が決まってないなら、水の都『クルスティア』なんてどうかな?あそこには全ての水の魔石の原石となる“大魔石”があるんだ。しかも、温泉の観光としても人気だ」
「お、温泉!?」
『何その夢のような大国はッ!?絶対そこ行こ!!』
好きな人には申し訳ないが、俺はとある県にあるキャラクターの皮を被って、知らないおっさんなどが中に入って縦横無尽に練り歩いているという夢の国より断然、湯気が立ちこめる楽園を選ぶッ!!
その2文字に舞い上がってしまった俺は先程の不安もすっかり記憶の片隅にと吹き飛んでしまった。
「あぁ、それ今回の討伐の報酬ね。爆食蛙の肉とリンダ君の叔母さんからお礼のモーモータロスの牛乳だよ」
「うげぇ……!」
ダルクスさんから爆食蛙の肉が詰まった袋とモーモータロスの牛乳瓶20本分受け取った。
おぇええー……ッ!!牛乳は全然いいとして、なんかこの爆食蛙の肉が入った袋、スッゴいヌメヌメするんだけど!
ダルクスさんから受け取った時、ぬちゃりと音がして思わず背筋や腕に鳥肌が立ってしまった。
「なんか、やけに爆食蛙の肉の量多くないですか?」
「大丈夫。ちゃんとアレックスに下処理はさせといたから」
「いやそう問題じゃないんですけど」
俺はやけにどっしりと重い爆食蛙の肉が入った袋を見つめる。これ一体何キロ分入ってるんだよ?少なくとも絶対10キロ以上ぐらいはあるよな?
「狩ったならちゃんと食べてあげるのが最低限のモンスターへのマナーだよ。ねぇ、リンダ君?」
「はい、今晩の夕食は蛙祭りです」
「思ったより逞しいなこの世界の人ッ!?」
やたらほくほく顔で喜んでいるリンダさん。短い期間の滞在だったが色々あった。俺たちはリックやリンダさんとダルクスさんに手を振られながら次の国、水の都『クルスティア』を目指すことにした。




