第七十六話 (閑話)ケチじゃない、これは節約だ
リンダさんは台所を俺に任せると俺たちの泊まるベットの準備などをしてくると上に上がっていた。
よしシチューを作るならまずはルーを一から作るため、バターが必要だ。だが、どうやらこの世界にはバターや生クリームなどはないようなどで自分で作るしかなかった。俺は牛乳を瓶から取り出し、ボールに移すと手をかざし、スキル【精製】で純粋な脂肪分だけ抽出する。目を閉じ、集中して粒子レベルまで分解して余分な成分は取り除く。俺の手元から暖かい光が放たれる。
なんだ、モーモータロスだっけ?の、モンスターの乳は俺のいた世界のどんな牛さんよりとても新鮮で濃厚な牛乳だったのであっという間に純度が高い濃厚な生クリームが出来上がった!
いやー、これでケーキなんか作ったらまたうまそうだと考えながら、俺はせっかく作った生クリームを一部、また牛乳瓶に戻して、別に分けておいた牛乳も注ぐ。
そして蓋をしたら……一気にこれを振る!これでなんと簡単手作りバターができるのである!
何故俺がこんなことを知っているかというと施設時代、自慢ではないが俺たちの施設はかなりの貧乏だった。一応、国からお金は出ていたけどそれでも俺たちの生活は常にキツキツだった。
だけど、ある日施設にいた女の子が『どうしてもケーキを一度だけでいいから食べてみたい』と言われ、俺は必死に低コストでケーキが作れそうなを方法を調べ考えた。そしてこの方法を知った俺はすぐさま行動に移し、近所のスーパーの張りついて特売品で売られている生クリームと牛乳を買い、オリジナルバターを作ったという経験があった。
まぁ、要するにあれだ!バター代を少しでも節約ためにこの方法は覚えたってわけだな。わっははは!人生何が役に立つか分からないもんだな!あは、あははは……あれ?なんだか自分で言ってて少し悲しくなってきたぞ?
俺は施設時代の苦労を思い出して勝手に落ち込んでいると、いつの間にか下に降りてきていたリックとケンジの二人が俺の足下に近寄ってきた。
「ねぇねぇ!」
「ポチ、何やってるの!」
二人は遊んでいる内にもうすっかり打ち解けてしまったのか、楽しそうに目を輝かせながら俺に話しかけてくる。
「おう、今バターを作ってるんだ」
「バター?それって何?」
リックは首をかしげ俺に聞いてくる。
「んー……!俺の口で説明するのは少し難しいから、取り合えずこれ振ってみ?」
俺はリックに牛乳と生クリームが瓶を手渡すと二人共楽しそうに交代しながら瓶をシャカシャカと振る。うん、やはりこういう体力が必要な仕事は体力があり余っている子供に任せるに限る。俺みたいなおじさんがやると肩や腕などが凝ってしまうからいかん。
「さてと……」
俺はその間、野菜などを洗って切ってしまう。人面人参、ねぎ玉、モッコロ芋の皮を剥き、一口サイズに切ったらさっと鍋で炒める。次はリンダさんの家は井戸から飲み水を汲み上げているのか、貯水槽から水を取り出してふやかしておいた干し肉を切り、野菜と一緒に炒めた後は肉をふやかした水で煮込む。
「見て見て!ポチお兄ちゃん!」
「ん~……どれどれ」
リックは俺に牛乳瓶を見せてきた。俺はかがんでリックの手の中にある牛乳瓶を覗く。瓶の中にはうっすらと黄色の塊が出来ていた。
「ありがとな、リック」
「えへへへ!」
俺はリックから瓶を受け取って、お礼を言うと嬉しそうに笑い、またケンジとどっかに走って遊びに行ってしまった。一人残された俺は大人しく作業に戻る。……別に寂しくなんかないもん!
俺はフライパンに手作りバターを入れるとあっという間にバターはフライパンの上で溶けていき、その上から小麦粉を入れる。そして、俺はヘラでかき混ぜる。ダマになりやすいからさっと素早くかき混ぜたら、牛乳と生クリームでのばしていく。
しっかりと混ぜたら俺は鍋の中にルーを入れ、2つを合わせる。白濁色をした液体は、とろとろとシチューのとろみがついてきて、部屋中にシチューのいい匂いが一杯に広がる。
俺は塩とこしょうを入れ、出来上がったシチューを皿に注ぐと別に茹でておいたブロッコリーに似た野菜、コリーの葉をのせる。これでシチューの出来上がりだ。
出来上がったシチューを皿に運んでいると丁度リンダさんも部屋の準備が終わったのか、部屋に戻ってきた。
「いい匂い……!これは一体なんなんですか?ポチさん」
「シチューって言って、俺の世界でよく食べられてる食べ物ですよ」
リンダさんと話していると、今度はシチューの匂いを嗅ぎ付けてやっていた小さな狼たちがいた。
「うわぁー、なんかすっごくいい匂いがする!」
「美味しそうー……ッ!」
おっ、きたな。腹ペコ二人組め。
腹の音を鳴らしながらチビッ子共もやってきたので俺たちはそのまま夕御飯の時間に入った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
皆席につくと、さっそくシチューを食べるためスプーンを手に持ち、シチューを掬う。
「何これ、美味しい……!」
そう一番最初に言ったのはリンダさんであった。食べてすぐ驚いたような顔を浮かべ、皿に盛られているシチューを見ながらあまりの美味しさに反射的に口元を押さえる。さて、俺もいただこうかな?俺もシチューを掬い、口の中へと運ぶ。
「うまぃ……!!」
大きめに切ったモロッコ芋はホクホクして、ねぎ玉を甘い。干し肉の出汁が効いており、旨みもある。そして、なんといってもこの濃厚なルーの風味が味の決め手となっていた。モンスターの乳も侮れんなと俺は思った。
「ん~!甘くて美味しい!」
ケンジも美味しそうに食べるが、リックは皿に入ったシチューに入った野菜たちとずっとにらめっこしたまま微動だにしない。
「こら、リック。せっかくポチさんが作って下さったのに、失礼よ……」
「はい……」
お姉さんに窘められ、リックは渋々と様子でシチューを食べる。
「!!」
シチューを口に入れた途端、リックはまるで稲妻が走ったような衝撃な顔をする。そして一心不乱にシチューをかきこむように食べる。その反応を見て思わず、よし!勝った!っと俺は謎の達成感を感じ、心の中でガッツポーズを決めた。
「すごい……!あのリックがこんなにも自分で野菜を食べ進めるなんて……」
リックのその姿を見て、リンダさんも唖然する。皆、その後もシチューをお代わりしてあんなに鍋一杯に作ったシチューも綺麗になくなっていった。




