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第七十二話 アレックスさんからの推薦状

 ダルクスさんは手紙の封を開けて手紙を取り出し、中に入っている手紙に目を通した。


 「これは……!」

 「どうしたのですか……?室長?」


 ダルクスさんのブルーグレーの瞳が揺れ動いた。中に入っていた手紙を見たと同時にダルクスはぴったりと体が固まってしまった。リンダさんもそんなダルクスさんの様子を見て、心配する。


 「……アレックスからの『推薦状』だ」

 「ア、アレックスさんからですかッ……?!」


 ダルクスさんがそう言うとリンダさんも瞳を大きく開け、一緒になって驚く。


 「い、一体、誰を……」

 「推薦状の記入名には『ポチ』と書いてある」

 「えっ!ポチのこと?」

 「お、俺か?」


 今度は俺の名前が話に浮かび上がって俺たちが驚く。思わず俺は俺自身に指を指してしまう。


 「あの~、ていうかそもそも、その『推薦状』ってなんですか……?」

 「冒険家にはそれぞれ功績に見合った階級みたいなのがあってね」


 俺はまだ、まったくと言っていいほどこの世界について知らないことがあり過ぎるあるのでここは恥を忍んで片手をこっそりと上げ、ダルクスさんに質問をした。だが、ダルクスさんは特に気にした様子もなく快く俺の質問に答えてくれた。


 「冒険家の階級は下のランクから説明すると、E、D、C、B、A、S……そして今、この世界も数人しかいない最高階級のGランクがあるんだ。そして、皆最初は駆け出し冒険家ということでEランクから始まる」

 「へぇー……!」


 ほうほう……、よくゲームとかでもあるランク制みたいなものか。俺はダルクスさんの説明に頷く。


 「解体屋は常にモンスターと冒険家に触れあう仕事だ。だから、冒険家の技量を見抜くこともできる。なので、解体屋にも私同様、この冒険家ならもっとランクが高いクエストを受注しても大丈夫だと進言してもいい権限がある……。まぁ、簡単に説明すると『飛び級制度』ってやつだね」

 「と、飛び級っすか……」


 『飛び級』なんて三文字、二次元の世界かよくテレビとかにもよく映ってる天才と呼ばれるほんの一握りの人物だけに縁がある言葉だと思ってたよ、おじさん。

 降ってわいたてきた話に俺はただただ、普段は目付きが悪いと言われる目も点にして驚くばかりである。


 「私はここの支部室長を任されて20年経つが……。アレックスはここで解体屋を“50年”やっている。だが、今の今まで1度も彼が誰かに推薦状など書いたことはなかった」


 ダルクスさんはまた推薦状に目線を落とし眺めていると、俺にその推薦状を見せ、ある部分を指さした。


 「ここには是非、ポチさんをAランクの冒険家からとして迎えてやって欲しいと書いてある」

 「えッ!?マジで……?」


 手紙にはこちらの世界の文字で書き綴られているため、俺には読めず、よく内容までは分からなかったが、まさかアレックスさんがそんな重大なことをあんなサラサラ!っと簡単に書いていたとは……。俺は予想だにしていなかった。

 もっと考えて書けよ、アレックスさん!っと俺はあの言葉足らず過ぎる一族を少し恨んだ。


 「いきなりAランクとは……少し話が急すぎるのでは?」

 「おや?リンダ君はアレックスの目が信用できないと?」

 「そうではありませんが、まだこの方の実力は我々にとっては未知数。そう簡単にAランクの称号を与えてしまっては他の冒険家に示しがつきません」


 冷静な口調でダルクスさんを諌めるリンダさん。けど、ダルクスさんは相変わらずリンダさんの言葉に気分を悪くしたような顔は一切見せず、穏やかなそうな笑みをリンダさんに見せ続ける。


 「それなら大丈夫だよ、リンダ君。これを見てごらん?」


 ダルクスさんはリンダさんにもアレックスさんが書いた推薦状を見せた。リンダさんもダルクスさんから推薦状を受け取り、推薦状に目を通す。するとぱっちりと二重な瞼が驚きのあまり、また更に上に上がった。


 「捕獲ランクAの豪足の闘牛(マッハバイソン)を討伐……!?」

 「そのモンスターの名と頑固者として有名なあの、アレックスが推薦状を書いたんだ。ポチ君の実力は相当なもので、折り紙つきだと考えていいじゃないかな?」


 ダルクスさんがそう言うとリンダさんも納得してくれたのか、俺のことに関してはそれ以上は苦言も何も言ってこなかった。

 ダルクスさんもリンダさんのその様子に満足したのか、とんでもないことを言い出してきた。


 「そして、私からも提案なのだが……私も是非、ケンジ君を“Aランク”の冒険家として推薦状を書きたいと思っている」

 「し、室長ッ!?」

 「えっ、僕をですか!」

 「ケンジ君……。君は魔法が使えないね?」


 穏やかだけど静かに流れる小川のようで、何もかも見抜いてしまっているようなダルクスさんのブルーグレーの眼がスッとケンジを姿をとらえた。

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